第十七話 戦見物-其の弐-
織田信秀率いる軍勢は、尾張守護兼美濃守護協力という大義名分がある為、清洲織田、犬山織田は手出しが出来ず、逆に兵士を出し順調に尾張と美濃の国境を抜け、方々に放火をして回り、斎藤利政の居城稲葉山城山麓の村々も焼き払って町口にまで迫った。
そして越前から美濃に侵攻していたもう一つの勢力があった。
それは、越前朝倉家勢で一万余の軍勢を束ねる大将は朝倉氏10代目当主、朝倉 孝景であった。
稲葉山城評定の間にて織田軍の越境、朝倉軍の越境などを知らせにくる伝令で騒がしかった。
「ほ、報告します。織田勢大垣を落とし城下を焼き払いました。朝倉勢はなお侵攻中!」
伝令は頭を再度下げて出ていった。
家老格である家臣が斎藤利政に判断を聞いてきた。
「殿いかがなさいますか?」
「和睦しか無かろう。織田、朝倉に使いを出せ。」
「は!」
城内では和睦の決断をした利政であったが密かに気を伺っていた。
城下を焼き払いをした織田勢は、陽が下り始めたので一旦引き揚げることにし、陣を後方に下げていると、喚声とともに騎馬と歩兵の戦う声と音がした。
「申し上げます!斎藤勢奇襲により織田 信康様お討ち死に!」
続けて伝令が入ってきた。
「申し上げます!お味方劣勢!」
伝令が立ち替わり来たりしているところに、陣幕を捲り父上と叫んだ子供が入ってきた。
「き、吉法師!何をしに来たのだ!童が来るところでは無いわ!」
信秀が怒鳴りあげるが、聞く耳を持たずに乗ってきた馬に跨がり戦場へ向かった。
「待て!吉法師!えぇい!何をしておる!吉法師を連れてくるのだ!かかれ!」
吉法師が戦場に突入するのと吉法師の後を追いかける信秀一向が戦場に向かう中、やっと追い付いた法師が戦場を見渡していた。
「何をしてんだ!ただの見物の筈だろう!」
腰に着けていた太刀を抜き、法師も遅らせばながら参戦した。
「吉法師様!何をしているんですか!大殿!」
混戦になっていたが吉法師を見つけると近くに大殿と側近たちが居ることに気づいた。
「法師!」
信秀が叫ぶと、吉法師の馬に槍が刺さり落馬しそうなタイミングで法師は自分の馬に乗せると戦場を離脱した。
「儂らも撤退じゃ!」
織田勢被害三千弱と兵糧を失い尾張へと戻った。
朝倉勢も同様に近くの村や町を襲い乱取りした後、美濃から撤退した。
後にこの戦いは加納口(井ノ口)の戦い(かのうぐちのたたかい)と呼ばれることとなる。




