第十一話 仮の家来に
那古野城から津島に戻って、店を閉め夕食を食べて、呼び出されたことの内容を母上、お菊に話し出した。
「母上、呼び出されたことの内容は簡潔に言えば弾正忠様のご嫡男に有らせます吉法師様への仕官の話です。ですが母上との約束が有りますのでどうしようか迷っております。店の事も有りますし。」
「元服するまでは母の元に居て欲しいのだけれど。」
法師の母が悩んでいると夕食を食べ終わりそうになっていたお菊が声を出した。
「仮仕官というのはどうでしょうか?」
「そうしてみます。」
次の日法師は那古野に送る為の書状を書いていた。
内容は、以下の通りである。
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拝見
織田弾正忠信秀様
この度、仕官のお話を頂きましたが母と話し合いの結果正式仕官ではなく仮仕官として元服の年になってから正式に仕官についてまたお返事をしたいと思っています。
吉法師様にも同様のことを伝えるつもりであります。
尾張国津島住人十六夜屋十六夜法師
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といった大人顔負けの文書を書き、封をして馬に乗り那古野を目指した。
馬を駆けさせること約半刻後、那古野城門番に平手政秀殿に面会の願いをした。
平手政秀が会うと門番に伝えると門番は大手門まで戻ってくると、平手様がお会いになるということを述べ法師は、平手政秀がいる部屋へと案内された。
「平手様、十六夜屋番頭をお連れしました。」
平手政秀は返事をすると、茶坊主は襖を開け頭を下げた。
法師は、一礼してから部屋に入り下座に座った。
「平手様、今回のお目通り有難うございます。して、昨日お話を頂きました仕官の件でございますが、この書状に書いておりますので一読お願いいたします。」
法師はそう言って胸元から昨晩書いた書状を平手政秀に差し出した。
そのまま書状を開いた平手政秀は癖のある字だろうと思っていたが、字は綺麗に書かれており誰でも読める文字に驚いていた。
この時代文字が書け、字が綺麗なほど教養があると思われていた。
「十六夜殿これはどなたが書いた者かな?」
法師は平手政秀の質問に自分が書いたと言うとなおさら平手政秀は驚きを面に出さないようにしていたが、目が大きく開いていた。
「そ、そうか。書状を一読した結果仕官の事に関してはわかった。ワシから親方様に言ってみよう。ただし吉法師様の小姓になるであろうな。」
その後の晩、平手政秀は法師が昼に持ってきた書状を織田弾正忠信秀に見せ、仮にしておいてある程度の教養があるので吉法師の傍に付けておいた方が良いと進言して、法師は後日吉法師の側使えとして登城し、そのまま吉法師の小姓になれと平手政秀が織田弾正忠信秀の家押入りの書状を見せて、法師は頭を下げた。
法師はその日の夜に一旦家に帰り明日から城で働くことになったことと家となるべく帰ってくるようにはするけど店を頼むとお菊に頭を下げ、母上にはお願いをした。
そして夜はふけていった。




