短ーい! 説明不要!
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「それでいいんですか? あの人あんな感じのままで」
横をウロチョロと回っている林田は保健室のほうを振り返ってそう聞く。かなりインパクトが強かったのだろう。大の大人が泣きそうになっていたところを見て、可哀そうに感じたのかもしれない。そういうところは普通のというか優しい少女なのだなと実感する。
「大丈夫だよ」
あえて言いたいことは言わない。あれが日常茶飯事なんて言わない。彼女の株が下がること間違いない。あえて人の悪いところは言わない。どうせ言わなくてもそのうち知ることになるから。
「ふーん」
それ以上追及することなく、林田は前を歩く竹本の隣に寄り添うように近づく。あのアンタラは磁石ですか。磁石なんですか。N極とS極なんですか。
ぴったりと隣を確保した林田は嬉しそうに笑っている。それに比べて竹本。ちょっとはその無愛想な顔やめろ。露骨に嫌そうな顔するな。ちょっとはうれしそうな顔しろ。
ああわかるぞ。お前の考えそうなことだ。何で林田は俺に引っ付いてきているんだ?少しは距離を開けてくれないと歩きづらいんだけど。ってか何で腕を絡ませようとしてきているんだこの子。って考えてんのバレバレなんだよ。
そう思いながら、グループの最後について歩く。先頭の運動部軍団はさすが生徒会が呼んできたこともあるのか、その説明もよどみなく進んでいく。正直に言って俺の存在が必要なのか疑わしいレベルだ。まあ、さっき率先して罠に嵌る役を受け持ったので、それでチャラにしていただきたいところだ。
遼も何人かの生徒から説明を求められているようだが、それに嫌な顔一つせずに答えているあたり、どうやら問題なさそうだ。仏頂面は相変わらずではあるが。ところどころ雑談代わりにいろいろ話しているのか笑い声も上がっている。
その無愛想な顔とは違う一面にはギャップ萌えとやらが発生しているのだろう。何人かの女の子は竹本の周りから離れないように位置取りしているのがよく分かる。それに気が付いてか、どんどん林田の顔がすごく不機嫌になっているのですが、気が付かないかな。
気が付くわけないか、朴念仁だし。
だからと言って俺はなんも手は出さない。不機嫌な猫に手を出したらどうなるか分かるだろ。確実に手をひっかかれる。ひっかかれる程度ならまだしも近づいただけで反撃してくることも考えられる。
猫には手を出さない。あえて火中の栗は拾わない。それが俺です。俺なのです。