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脇役少年の受難  作者: 菊池一心
5/12

元気娘には表と裏があります。え? 脇役少年は?

「先輩、先輩。お疲れ様です。学校案内よろしくお願いしますね」

いやー幻聴が聞こえるようです。

「無視しないでくださいよ。松本先輩」

俺のことを先輩と呼ぶ奴は、数多くいるが、これほどまで猫なで声で俺を呼ぶのは、そんなにいない。せいぜい数人ぐらいだ。いや、一人かな。ここまでしつこい奴は。

「先輩、聞こえてないんですか。聞こえていますよね?どうして無視するんですか」

ああああ、聞こえない、聞こえない、聞こえない。

「カズ、呼んでるぞ。新入生の子が。無視してやるなよ」

竹本うるさい。元はと言えば、お前のせいじゃ。

「竹本先輩。お疲れ様です。これからも先輩って呼ばせてもらいますね」

「林田か。そうか。お前も一年生だったな。去年も一緒に遊んでいたから忘れてた。そうだよな、去年は中学生だったもんな。これからよろしくな」

「はい、竹本先輩!」

学校案内早々に、嫌な奴に見つかってしまった。いや、性格的に嫌というわけでは、ただこいつは少しばかりうっとうしい。

林田華。去年まで中学三年生。この学校の附属の中学校の三年生で、俺たちの周りをいつもウロチョロと動き回っていた元気ガールだ。

その本質は、竹本遼に恋する少女の一人。竹本ガールズの一人だ。竹本ガールズってなんかアイドルグループの名前みたいだな。アイドルだけど主催の竹本に首ったけッてな。

竹本ガールズなんて勝手に俺が名付けただけで、特に深い意味はない。深い意味を持たせたくないというのが、俺の本音だったりする。

さて、なぜ俺がこの少女を苦手としているかというと、「松本先輩、ちょっといいですか? 竹本先輩とさくらさんとか会長さんはまだ進展してないですよね? ちゃんと情報をこちらに回してくださいよ?」とこういうわけです。

まあ、これでわかりますよね。

俺の隣に寄ってきた林田は、俺だけに聞こえる声で、怖いことをつぶやく。どうやら俺しか聞こえていないようだ。

だからその能力はどこで手に入れたんだ。恐怖すら感じるぞ。お前の声は指向性スピーカーなのか。いやー、恋する乙女の底力はすごい(怖い)。

「ま・つ・も・と・先輩?」 

名字を一つ一つ区切るようにそう言うと、最後に猫なで声で先輩と言う。二段重ねのそれは人によっては仲がいいように見えるだろという。実際、竹本辺りは騙されていたりする。

だが、俺からしてみると、早く教えろと言外で急かしているのが分かる。

「なんも、進展はないんじゃないか。俺は四六時中あいつのそばにいるわけじゃないから分からないけど」

「先輩がそうおっしゃるのならば、信じます。嘘を吐いたときは覚悟してくださいね」 

笑顔でそういうことが言えるのは才能ですね、なんて言わない。そんなこと言ったら、俺の心をボコボコにしてくるのが目に見えている。俺自身が彼女の事を元気ガールと言いながら、元気って何だっけと逆に考え直したくなる。

俺に能面のような大量生産されたような心のこもってない笑顔を見せていた少女は、次の瞬間には、恋する乙女の顔で楽しそうに竹本と話を始める。

聞こえてきた言葉を拾いあげるようにして理解すると、「松本に何か話でもあったのか」「いえいえ、調べ物を頼んでいたのですが、進展がないようです」という内容だ。

 嘘ではないが、なんというか、本当の事も話していない。はぐらかすのがうまいのだ。林田華という人間は、裏で暗躍する姿が目に浮かんでしまうのは、そんなところがある

からだろう。

 あと、竹本そいつの言う調べ物はお前自身のことだぞと伝えてやりたい。伝えたところ

で、なんだそりゃと笑う姿が思い浮かぶのだが。

 「おーい、松本。次行くぞ。早く来い」

 竹本の隣には、ここは私の位置ですとでも言うように林田がいる。

 傍から見ると、妹の世話を焼く兄貴という感じにも見えなくもないのだが、それを竹本に言えば、そりゃいいと笑い、林田に伝えたならば、いいですねと口で言いながら、こちらを睨んでくるだろう。

 「せんぱーい。遅いですよ。早く」

 「急かすな。今行くから」 

そう言いながら、先に進む。


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