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脇役少年の受難  作者: 菊池一心
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奇襲と不意打ちは突然に 前後編なら中編

「というわけで、校長に頼まれて助っ人として呼ばれた竹本です」

「同じく、隣のバカの誘いにまんまと乗ってしまった哀れな松本です。以後よろしく」

生徒会役員が集まっているその場で改めての紹介をする。

わあーい。皆さん見事に可哀そうなものを見る目をしている。

 先ほどの痴態を見ていた方々だということはよくよくわかる。だって、ホント「あーあ、頭も可哀そうな人だ」って顔をしているのだぜ。

「というわけで、今回の新入生の学校案内はこの二人を含めたメンバーで行います。もうすでに、説明する場所について書かれた資料には目を通してくれていると思いますが、後程再度確認してください。竹本君と松本君には、その時に渡しますので、一応確認してください。あとは、そうですね。某あの男がやらかす可能性がありますので、気を抜かないようにお願いします。それでは休憩にします」

生徒会長の森すみれはよどみなく、伝えるべきことを伝え終えると、また、教員との打ち合わせに向かってしまった。

生徒会長の森すみれ。俺の隣の愛すべき馬鹿にホの字の三年生。漆黒のロングヘアをなびかせる才女である彼女は根っからの真面目気質なのかこういった場でもその表情を変えることなく仕事に打ち込む。将来バリバリのキャリアウーマンになりそうな人。あと、とんでもない苦労人になりそう。


「会長さん忙しそうだな」

隣の遼にそう言うと、何を当たり前のことを言っているのだ、という顔をされる。

「何を当たり前のことを言っているのだ」

一語一句そのまま言葉が返ってきた。解せぬ。

「会長さんが忙しいのは、仕方ないことだろ。一応保護者を含めた入学式とかの諸々は終わったけど、これから、新入生歓迎のための打ち合わせに、そのための先生との打ち合わせ。そのほかにもあるんだからよ」

「何で、そんなにお前は把握してんだよ。一瞬気味が悪かったぞ」

「さっき、生徒会の菊谷に聞いたんだよ。あと、昨日メールでそこらへん会長自身に聞いたし」

菊谷というのは、生徒会の先ほどの眼鏡だ。そうそう幼児退行中の俺に対して辛辣な言葉をかけていったあいつですよ。

副会長で会長を支える縁の下の力持ち。そして、リア充。

ここ重要。リア充なのだ。

勉強もできて、生徒会で同じ生徒会の子と付き合っているリア充。それが菊谷という眼鏡の少年だ。

だが、俺はあいつを呪ったり、憎んだりはしない。

なぜか?

普通、一般的男子高校生にとってリア充とは目指すべきものでありながら、最も忌見するものではないのか。そう考えるだろう。だが、彼に対しては少し違う。忌みするどころか俺にとってはありがたい存在なのだ。

一つの理由として、一番とは言わないが、生徒会で俺たちのやらかしたことを一緒に謝りに回ってくれるのがこの菊谷だからだ。

実際、こいつのおかげで俺たちというか竹本と梅本のバカは何回笑ってすまされたのか分からない。ついでに言うと俺たちと俺を含めることに一言、言いたいところであるが、我慢するとして、バカトリオと仲がいいのも、この菊谷だ。

暇になれば、一緒に釣りにもいくし、ゲーセンにもいく。そしてバカもやる。さすがに俺たちのようにやばいバカはやらないが、菊谷も相当のバカであることに違いはない。

それに勉強も教えてくれる。そう勉強を教えてくれるのだ。

波長があう、そう言えるのかもしれない。

さて、そんな菊谷曰く、会長はこれからも忙しい。

そして、たぶんではあるが、菊谷自身もその会長の補佐で忙しいだろう。

「仕方ないが、覚悟決めるしかないか」

「おっ、やる気になったか。そうじゃないとあいつは止められないからな」

遼は下手な口笛を吹くように口だけでヒューと言う。様になってないところが悲しいところだ。

それにしても会長さん、遼のメール持っているならこの事態を事前に教えてくれればいいのに。そう言えば、遼は連絡したけど何も分からなかったと言っていたような。この事態を想定していたわけか。

「うーし、それじゃあ、ひとつ作戦会議と行きますか。今回、案内を行う奴ら呼んできてくれ」

遼の言葉に、ボランティアメンバーが集まる。どうやら、生徒会長も今回、梅本がやらかすことを想定しているのか。案内の人間は全員男だった。それも、運動部の連中。よく分かっているじゃないか。

「よっす、竹に松。さっきの駄々っ子はさすがに引くぞ。まあいいや、今度の練習試合も来いよ」

そう言いながら、テニス部の爽やかイケメン君が俺たちの隣に腰掛ける。あいにく俺は部員ではないのだが、この爽やかさんには皮肉は通じない。ははは、と笑顔を返されるだけだ。この爽やかめ! いつかその爽やかを爽やかマックスにしてやる。ん? なんか変だがまあ良いか、と適当に相槌を打っておく。

「さて、これから学校案内を行うことになるが、たぶん、梅本が仕掛けてくる。これはみんな分かっていることだと思う。仕掛けてこなかったら、儲けもんくらいの気概じゃないとな」

「そりゃあ、このメンバー見てれば分かるよ。荒事に対応できるようにこのメンバーなんだろ」

メンバーの中で一番小柄な男がそう言う。小柄ながらに、その体はかなり鍛えられている。確か、体操部のやつだったはず。得意技は床の二回転ひねりだったか。

「荒事なら、まだいいけどな。サプライズとか言って、ロケット花火五十連発とかやるような奴だぜ。あっ、と今のオフレコで、教員は生徒に伝えてないはずだから。ちなみにその時の被害者が俺と遼と菊谷な」

俺がそう言うとそれを聞いた連中、その場に集まった全員が呆れたような顔をする。ただ、呆れただけで、顔を青くするような奴がいないだけ肝が据わっている。

さすがは、会長が厳選するだけのメンバーだ。一癖も二癖もある。

「まあ、今回はそんな、一歩間違えたら、ケガするようなことはしないだろ。せいぜい保健室のマネキンの裏側にラジカセ仕掛けて、喋っているように見せたりとか、軽いお化け屋敷みたいなのを教室の中に作ったりするくらいだろ」

「それはそれで、手が込んでいると思うけどな」

そう口を挟むのはかなり長身の坊主頭。野球部の次期キャプテンと名高い好青年。制服の合間から見える首や手は黒い。よく日に焼けた色の黒い肌が野球部らしいと言えば野球部らしい。

「おまえらの部活の連中が毎回やる文化祭やらクリスマスやらの出し物に比べたら、天と地の差があるけどな。だけど、普通に一人でできるようなクオリティではないな」

野球部が毎回出す文化祭の出し物を引き合いに出して比べてやると、次期キャプテンは、あれは俺たちの集大成だからなと胸を張る。野球部の集大成がそれでいいのかとツッコミを入れてやりたくもなるが、野球部は野球部で、やることなすこと全力だからなという答えが返ってきそうだ。

胸を張ったことで鍛えられた大胸筋が制服の上からでも分かる。どんだけ鍛えているのやら。

「話を戻すとして、今回はできるだけ、教室の中に入って説明するということはやめた方がいいと思う。あいつが仕掛けるとしたら、部屋の中や、出入り口だからな。あと、俺と遼は一番後ろに着く」

「ん?俺たち一番後ろをついていく形になるのか?」

どうしてだと言うように竹本は俺の顔を見る。

「だって、あいつ、後ろからの奇襲得意だろ? 忘れたのか? なんもないと油断させたところにサプライズって言いながら、奇襲しかける、あれ。梅本の大好きなやつだろ」

そう言うと、覚えがあるのか、その場にいた全員が苦笑いを浮かべる。

どうやら、俺と遼だけではなく、この場にいる全員がすでに梅本サプライズの経験者のようだ。今更ながら、会長の人選がどのように行われたのか気になってきた。

「というわけだから、俺と竹本は後ろにくっついて案内。ほかのメンバーで、説明をしながら学校内を歩くということで、あと、分からない施設があったら、遼に聞け。大体こいつは利用したことあるから」

そう言うと全員が遼のほうを見て、納得したような顔をする。そして、それがいい意味でも悪い意味でもということを分かっているのか。納得した顔から苦笑いもしくは呆れた顔になる。

「まあ、そういうことだから、今日はよろしく頼むぞ」

そう締めくくると全員が嫌なものを見たような顔で頷くのだった。


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