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勇者のその後

作者: 龍神静人

今書いているものが、煮詰まったので、気晴らしにまた短編を書きました。

今回は短いです。なのであんまり中身もないので、暇な方が読むとよろしいかと思います。


 長い闘いの末に勝ち取った世界の平和。


 人類の悲願であった魔族との闘いに勝利して、早10年が経った。魔族の残党を残さず滅ぼした。だけど、その犠牲は大きかった。僕に力を貸してくれたた多くの仲間たち。いったい何人が死んでしまったのか。パーティのメンバーが減れば、補充して戦う。それを何度となく繰り返してきた。一度死んだ仲間が蘇るのはゲームの世界だけだ。この世界では死んでいった者たちは決して蘇ることはない。皆がたった一つしかない命を使い切るまで懸命に生きて、戦って死んでいった。誰も後悔なんてしていないんだと信じたい。


 今の世界は平和が続いている。争いも人同士の小競り合い程度だ。町ですれ違う子供たちはあの10年前の魔族との争いなんて知らないだろう。なぜか教育でも教えていないようだった。だから、当然僕が元勇者だなんて知らない。なぜ、あの激しい闘いの歴史を教えないのか。その答えを僕は知っている。知ってしまったんだ。あの闘いの最後の時に。


 魔王と対峙して、配下の者たちを倒して、魔王に止めをさして絶命させた。その直前だった。

 魔王は涙を流して悔しがっていた。死んでしまうその瞬間まで大粒の涙を流して、顔をくしゃくしゃにして悔しそうにとても悔しそうに僕を睨んで言ったんだ。


『俺たちを……俺たちを魔族に変えた――人間たちを絶対に許さない。俺たちだって元は人間だったのに』


 そう言って魔王は絶命した。最初は死に際の戯言だと思っていた。でも、戦いが終わって残党狩りの際の魔城での探索中にそれが真実だと知った。知ってしまった。魔族たちが受け継いできた歴史書を見つけた。そして、さらに城の地下深くに行くと、僕は見た。魔族とも人間とも言えない中間の存在がたくさんいたんだ。身を寄り添って怯えた表情をして僕を最大限に警戒してみていた。子供もいた。女性もいた。男性も。彼らはまだ人間の姿を保ちながらも魔族に変化している途中のように見えた。


 僕が一歩踏み出そうとしたとき、僕の背後から強烈な火炎魔法が放たれてた。僕の背中を少し焦がしながら、それは彼らの元に突き進んでいった。そして――彼らを容赦なく焼き殺した。彼らが何人いたのかなんて、確認する間もなく突然に起きた出来事だった。


 僕が振り向くと、王の直轄魔道士が数名立っていた。「こんな地下深くに潜んでいた魔族の残党共も見逃さない。さすがは勇者様。この調子で魔族共を根絶やしにしましょう」そう言って、地下の階段を上がっていった。


 あれも魔族だったのか? いや、違う。あれはまだ人間だった。あいつらも見たはずだ。彼らはまだ人間だった。それを何の躊躇もなく焼き殺した。まるで僕に長く見られては困るようにあの光景を消し去った。


 彼らには殺意はなかった。感じられなかった。ただただ目の前の敵に警戒していただけだった。僕が一歩踏み出したとしても闘いにはならなかった。


 彼らは――まだ人間だったんだ。


◇2◇


 残党狩りが終わって、数日後、僕は魔城で見つけた書物を誰にも言わずにひそかに持ち帰った。そして、それらを読めば読むほど、僕は胸が引きちぎられそうになった。書物には要約するとこう書かれていた。


 大気中に魔素と呼ばれる物質を発見したこと、その物質は体内に取り込むと魔法なる力を発現できること。そして、その魔素は体内を蝕むこと。その成れの果てが魔族と呼ばれていた種族だったこと。魔素と魔法の研究において、実験体にされた多くの人間が存在していたこと。そして、人体実験の犠牲者である魔族は自らも人権を求め人間に訴えていたこと、人間は実験自体をもみ消すためにそんな彼らを排除しようとしたこと。それが、勇者と魔王の闘いにまで発展したらしい。


 魔王。お前が最後まで人間たちと争っていたのは、防衛のためか? お前たちを滅ぼそうとする同じ人間達から魔族を守るために戦っていたのか。ただ、長い歴史の中でお互いに憎しみ合うようになり、当初の目的が塗りつぶされていただけなのか?


 僕は、今まで同じ人間を倒していたということなんだな。姿形が違うだけの人間達を何も知らずに世界の平和のためだと高らかに正義を掲げて、僕はお前たちを殺戮していたんだな。


 それを知った夜はまったく眠れなかった。ただただ自問自答の不毛な時間を過ごしていた。



◇3◇


 真実を知ってから、今に至るまで僕は山奥に小さな家を建ててひっそりと暮らしている。自給自足の生活だ。自分で畑を耕して野菜や穀物を作り、湖で水を調達して、時折町まで出向いて生活必需品を購入する。そんな日々を繰り返して暮らしていた。


 ただ、呼んでもいない客が時折やってくる。そいつらは何も言わずに襲い掛かり、僕の命を狙ってくる。目的は大体察しがついている。魔族の正体を知っている僕が生きていると邪魔なんだろう。


 世界が平和になったのは事実だけれど、光あるところに影があるように明るい世界には必ず影があるって事なんだろうな。影というよりは闇だな。とても深い闇が存在しているんだ。


 毎回、刺客の相手をするのは面倒くさいから、そろそろ僕の方から出向くかな。


 なぁ、魔王よ。今度も勇者の敵は同じ人間で、しかも王族になりそうだよ。


 魔王よ、約束だ。今度の闘いで、もし魔族の生き残りに出会うことがあれば、僕は魔族を守ろう。たとえ世界を敵にまわしても、魔族を守って、共存の道を切り開くよ。それが僕の唯一できる供養なんだろうと思う。僕の残りの命を使いきるまで魔王の本当の願いを僕が引き継ぐよ。


 僕はもう勇者でもなんでもないな。王族を敵にまわすのだから、悪役になるのかな。元の世界に帰れないのなら、僕はこの世界で僕の正義を貫こう。そして、世界を変えてから死んでやるさ。







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