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7.初めての魔物討伐





「今の格好ですと森の中を歩くのは疲れるでしょう」


 テッテッテレー! オレはトレアから動きやすい服を手に入れた!


「あたしの加護をつけてあげる!」

「おれもおれも!」


 凄いぜこれ!

 ただの布の服が、とんでもない効果を持ってるんだぜ!


 疲労軽減、俊敏性アップ、防御力アップ、などなど――


 オレの身体能力より優秀な布の服って、一体何だよ! ぐすん……


 まあ、昨日の出で立ちに比べて随分どころか数倍マシになったので良しとする。


「武器はどうしましょうか?」

「いらないぜ! 出てくる魔物はぜーんぶおれたちがぶっ倒していくからな!」

「オレを鍛えるっていう目的はどこへ行ったんだ!?」


 というやり取りがあったので、オレも戦えるように質素な鉄の剣を頂いた。

 勿論、切れ味アップの加護付きだ。


 コイツらはオレを鍛える気、あるのかな?


「けど大丈夫? 剣なんかで。もっと長い槍とか、遠いところからチクチクできる弓とかあるんだよ?」

「いいんだ。一応これでもオレ、剣技は習ってたんだぞ」


 といっても魔物なんかいやしない世界の剣技だから、それが役に立つかはいささか不安ではある。


「今度ファルスに鍛えてもらえばいいんじゃね?」

「ムリだろ! アイツの動き、人間離れしてたぞ?」

「そこはあたしたちがちょちょいってやれば――」


 一体何をしようというのだ……んな恐ろしい結果になりそうなこと、お願いする気にもなれないので辞退しておく。


「準備はいい?」

「あたしは大丈夫!」

「ちょっと待ってくれ。ただ闇雲に森の中を歩くのは効率悪くないか?」


 オレの言葉にリーズは胸を張って言い放った。


「ちゃんと目標決めたぜ? ここからスピリトの街まで歩いていけるようになること!」

「……は?」


 この森って、滅茶苦茶広いんだよな?


「ここからなら歩いてすぐだもんね!」

「じゃあ、どれくらいかかるんだ?」

「んーっとね」


 とシルフィはその小さな手の指を折り始めた。

 それがもし日数だったら、げんなりだぞオレ!


「ただ歩くだけだったら三日かな!」

「たった三日だぜ! いけるいける!」


 指折りが随分と多く見えたのは気のせいかもしれないけど、結局は日数だったし。

 しかもそれ、二人を基準に合わせた日数だろう。

 二人で三日、少なくとも見積もってオレの足で倍の六日、それ以上かかると考えておこう。

 一週間ぐらいは森の中で生活なのか……げんなりした。

 しかも活動拠点はここだ。

 家を動かすわけにはいかないから、進んでは戻り、進んでは戻りを繰り返すことは出来そうにないので野宿は確定だ。


「では私は先回りしてお待ちしておきますね」


 トレアはそう言い残して、呆気なく色んなものを消した。

 そう、色んなもの――


「でえええっ!? い、家がなくなった! 草原までもなくなった!」


 大袈裟だと思うなかれ!

 さっきまで目の前にあったはずの広大な草原と、それなりに大きな家が跡形もなく消え去って、ここら一帯は森に生まれ変わったのだ!

 そんな神隠しを更に大掛かりにしたものを目の当たりにした人で驚かないヤツを連れてこいってもんだ。

 ああ……家がなくなれば戻る場所もないじゃないか。


「西に向かって出発だよー!」

「おー! ほらにーちゃん! 行くぜ?」


 四つん這いになって落胆するオレにそう言う二人。

 くっ、こんなところで立ち止まっていても埒が明かないな。

 いーでしょう、やってやりましょう!

 オレは、腹を括った。




   ◇◆◇◆◇




 やるな、布の服!

 おかげで全然疲れてないし、体も軽く感じる!

 木の根もラクラクに超えられるし、なんなら飛び降りてもへっちゃらだ!


 崇めよ。


 まるでそのような声がした。


 ははぁ、布の服様。


 なんてギャグをかましている場合ではない。


 今目の前にいるのは、この世界にやってきて二度目の魔物の姿。

 頭に角を生やし、二回りぐらい体を大きくしたウサギたちが茂みから飛び出てきた。


「まずはホーンラビットか!」

「初心者におあつらえ向きだね! アラシ、がんばれ!」


 オレの後ろに二人は控えていた。

 何故かメガホンを持って。


「さっき教えたとおりにやれば、そんなウサギには負けないぜ!」

「そうよ! 自身を持って戦って!」


 ただ森を進むだけじゃない。

 この森に出現する魔物の種類やその動き方。

 どのように立ち回れば簡単に倒せるのか、こんな立ち回りしたら危ない、とか。


 正直言って、与えられた情報が多すぎて全てを理解したわけじゃない!


 まあ、それでもやるしかないのだ。


 目の前にいる大きなウサギさんは、オレに対して敵意を持って睨みつけてくる。

 およそウサギとは思えないように、グルルルルと威嚇する犬のように低く唸っている。


 固いものを貫いてしまいそうな鋭い牙と角を備えているウサギ。

 それだけじゃない、前足が異様にデカイ。

 覗き見える爪もきちんと研がれているのだろう。

 キラリと光っている。


 オレは剣を両手に構える。

 コイツの動き方は、二通り。

 角を使って突進してくるか、大きく飛びかかって前足の爪で引っ掻いてくるか。

 オレもなめられないよう、ウサギの目を睨みつけていた。


 睨み合いはそう長くは続かなかった。

 ウサギがジリッと動き出し、頭を下げた。

 間違いない、突進だ。


 予想通り頭を突き出して突撃をかましてくる!


 こういう時は、普通に左右のどちらかに避ける。

 下を向いているのだ。目の前の相手がどう動くのかは見えにくい。

 左右に動けばウサギに場所を分からせてしまうが、突撃の軌道修正は不可能。

 必ず足を止める。


 その助言どおりにオレは距離を見極め右へ避ける!

 するとウサギはオレの体が動いたことで軌道修正を試みる為に足を止めた。


 今だっ!!!


 オレは剣を大きく振り下ろし、ウサギの頭を刎ねた!


「よっし!」

「やったね!」


 オレは無事、初魔物討伐に成功したのだった!


 だが、オレの手は震えている。

 初めて、生き物を己の手で殺し、その生命を絶やしたのだ。

 例え、それが魔物であっても。


 この世界は弱肉強食。

 弱いやつは殺され、強いやつが生き残る。

 どの世界でもそうだけど、ファンタジー世界ではそれが色濃いのは分かっていた。


「よしっ!」


 ここは喜ばなければいけない。

 それが、生き残った強者の務めなのだ。


「このウサギのお肉、干せばおいしいんだぜ」

「うんうん。リーズ、血抜きと内蔵処理お願いね」

「りょーかい!」


 感慨に耽っていたのオレを他所に、はらぺっこ精霊たちはヨダレを垂らしながらうさぎの肉の処理に入っていった。

 リーズの手際は鮮やかだった。

 あっという間に処理を終えて、それをシルフィリアに手渡す。

 そしてシルフィリアは肉に防腐術をかけた後、オレの背に回り込んで、オレが背負っていたリュックの中に肉を仕舞いこんだ。


「よし! サクサク先に進もう!」

「おー!」


 お気づきだろうか。

 そう、シルフィリアだ。

 森に入った途端、大きな姿になっていたのだ。

 リーズはそのままだけどな。


 何故そうなっているかと言うと――


『私はこの姿じゃないと戦えないの』

『おれはこの姿じゃないと戦えないんだぜ!』


 そう、二人は声を揃えて言ったのだ。


 男として言えば、シルフィリアの姿は目に嬉しいものだ。

 ただ、やはり慣れない。

 慣れるしかないんだけど。


「にーちゃん、シルフィリアじっと見てるけどどーしたんだ?」

「そ、そんなじっとなんて見てないぞ!」

「そうかなぁ?」


 と、リーズにからかわれてしまうのだ。

 まるでイタズラが成功したような笑い方をするリーズ。

 男は美人をじっと見つめたくなる生き物なのだ。

 君には分からんのか?


「二人共! 早く行くよ!」

「ほーい。 にーちゃん急ごうぜ!」


 とプンプンするシルフィがそこにいたのだった。


 何匹か、ホーンラビットが飛び出てきたから、オレが一匹ずつ倒して、リーズが処理してお肉にして、シルフィがオレの背負うリュックにお肉をしまう。

 それを何度か繰り返して程なくしたときだった。


「――待って」


 シルフィリアが静止をかける。


「どうしたんだ?」


 声をかけたけど、返事はない。

 知るフィリアの表情は、研ぎ澄まされた、真剣そのものの鋭さを孕んでいた。

 リーズもシルフィリアの隣に浮かび、にぃっと口角を上げていた。


「別にこのエリアに居るのは不思議じゃないけどな! コイツは流石ににーちゃんには手に負えないぜ!」


 今度は二人が戦闘態勢に入る。

 オレには、全く気配が分からない。


「アラシは遠くに離れてて」


 シルフィリアの語気が強い。

 素直にオレは二人と距離を取る。


「もっとだぜ、兄ちゃん」


 リーズからも言われ、更に後ろに下がる。


「え!?」


 たった一瞬の出来事だった。

 視界がぐにゃりと何かに歪まされると同時に、淡い緑色の壁がオレの前に地から生えた。

 歪んだ正体であるドス黒い何かが、その壁にべったりと張り付いていた。

 壁を、じわりじわりと溶かしている――


「ナイス、シルフィリア!」

「全く。相変わらず卑怯な魔物だよね。真っ先に弱い者から狙うなんて」


 オレの方に向けて手を広げていたシルフィリア。

 そうか、この壁はバリアだ!

 それを張ってくれたのは、シルフィリア。


 このドス黒いなにかは大地に落ちる。

 煙を上げながら、辺りを侵し、生えていた草が萎れ枯れていく。

 猛毒か――


 オレに分かったこと。

 見ることの出来ない存在が、オレの認識する間もなくそれを放ち、オレを殺そうとしていたこと。

 ただそれだけだった――





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