表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/28

20.強敵現る




 遅かった!

 周りの人々は叫びながら逃げ惑っていた。

 そして光の中心、ベクレイトさんの店入口からもうもうと煙が上がる

 オレたちは走った。

 その時、そこから大きな影が飛び出していって、すぐさま小さな影がその大きな影を追いかける。


「黒ずくめの男と……リーズ?」


 煙がおさまっていくと、その影の正体が分かった。

 オレたちも追いかけようと思ったが、三人の様子が気になる。


 オレは店の中へと駆けた。

 建物は無事だったが、店内の商品が滅茶苦茶だった。

 床の上にガラクタと化してしまった商品達を避けるように風の障壁が張られていた。

 ベクレイトさん、セレン、トラッドの三人が障壁の中で横たわっている。


「大丈夫か!?」


 オレは駆け寄り、一番近かったトラッドの体を揺さぶる。

 すると、気を失っているだけだと分かり、オレはホッと息を吐いた。

 ベクレイトさんとセレンさんも少し痛そうに身を捩っていた。

 同じく気を失っているだけのようだった。


「大丈夫だ……シルフィ、リーズを追いかけよう!」

「うん!」


 三人の無事を確認したオレたちは、店から出てシルフィに飛んでもらった。

 街の出入り口には、いつもいるはずの門番がいなかった。

 さっきの爆発で、住人たちを安全な場所へと連れて行ったのだろうか。

 

 街を出て暫くすると、リーズと男が面を向かい合わせていた。


「リーズ!」


 地に降り立ったオレが呼びかけるも、リーズからの返事はない。


 リーズと男の距離が縮まり、男が持つ剣と、リーズが放った風の刃がぶつかり合う。

 風の刃を軽々と掻き消す男。

 リーズも勿論、男の剣撃をヒョイッと躱していた。

 するとリーズの口元が動いた。


「なんであいつらを襲ってんだぜ……?」


 怒りのこもった声で男にぶつける。

 男は黙ったままだ。

 リーズの周りの空気が変わる。


「聞いてるのかよ!」


 リーズは叫びながら手を振り、大きな風の刃を男に飛ばした。

 男は体をずらし避ける。


 はらり。

 フードが刃に辺り、上空へと吹き飛ばされる。

 ヒゲを少々蓄えた、厳つい顔のダンディーなおじさんがそこにいた。


「……」

「お前、魔道士と手を組んだのか?」


 何度声をかけても、男の口は固く結ばれている。


 どうやらリーズは男の事を知っているようだ。

 そして隣にいたシルフィも驚いた様子で男を見つめていた。

 男はジッとリーズを見つめた後、こちらにも視線を配る。

 見ているのは、シルフィか。


「対象者二人……好都合」


 ボソリと小さく呟いた後。

 チャキ――

 男が握る剣から発する音が不気味にこだまする。


「ちっ!」


 リーズは手を翳し、風を集める。

 その力は次第に一振りの剣を象っていく。

 そして、まるで意思があるかのようなにゆらりと動き、リーズの手の中にそれが納まっていった。


「シルフィが作ってくれるやつよりかは安定性ないけど、アンタにはコレで十分だぜ」


 緊迫した空気が、二人を包み込む。

 風で巻き上げられた草葉がはらりと舞い降り、大地へと落ちたその刹那――


 二人は同時に地を蹴り駆ける。

 剣と剣が幾度もぶつかり合う。

 右往左往と動きながら、二つの剣が交錯する火花が空に舞う。

 二人の姿を追うことが出来ずに、姿は見えない。


「……すごい」


 スピードのリーズと、パワーの男。

 二人の力は拮抗しているかのようにも見えた。

 だが――


「クソッ! その剣あいっ変わらずの反則的な硬さだぜ!」


 リーズは後ろに下がる。

 その表情に、少し疲れているのだろうか、表情を歪ませていた。

 対して男は、感情一つ表に出さない無表情のままだった。


 リーズは剣を頭上から大きく振り下ろした。

 剣から生じた強烈な風の力が地を走り、男へと襲いかかる。


 だが、直撃寸前に男は、剣を風の力諸共大地へと力任せに突き刺し、打ち消した。

 凄まじい砂煙が立ち、男の視界を奪った。

 そしてリーズは一気に間合いを詰め、男へと剣を振るう。

 いったか――?


「なっ!?」


 リーズは驚嘆する。

 男は、鞘でリーズの剣を受け止めていた――

 マズイッ!

 思った通り、ヤツの剣がリーズの脇腹を目掛けて突き進んだ!


「……なーんてね」

「ッ!」


 男の剣は、確かにリーズを捕えた。

 だけどリーズは口端を上げる。

 そして、斬られたはずのリーズの姿が掻き消えたのだ。

 それは、残像――

 

「!?」


 男は慌てて上体を後ろに反らし、風の矢が凄まじい速さで通っていった。


「ダメだったかな!」


 オレの横で二人の剣戟を見ていたはずのシルフィ――いや、シルフィリアは言った。

 そして再び術を唱え、風の弓矢を生み出した。


「……」


 剣を鞘に収めた男。

 そして体の力を抜いて、両腕をだらんとさせていた。

 降参、するのか?


 それを好機と思ったのだろう。

 リーズは再び剣から強烈な風の刃を生み出して、振り放った。

 シルフィも術を完成させ、弓を引き絞り矢を放った。

 

 二人の力が男にぶつかる!

 風の力の余波が、辺りに大量の粉塵を巻き上げた。


「けふけふっ!」


 砂の粒がオレの口の中や目に入って、とんでもないことになっていた。

 涙を流しながら咳き込んでいると、隣に足音がした。

 リーズだ。


 砂塵がゆっくりとおさまっていく。

 そこには、男の姿はなく、荒れた地面だけが残されていた。


「逃げられちまったぜ」


 リーズはあっけらかんとそう吐き捨てた。


「転移陣を使われちゃったね」

「ああ。このまま追っても無駄だな」


 追うのを諦めた二人は、オレの方へとやってくる。

 

「あの男は誰だ?」


 未だ咳き込むオレが聞くと、リーズは苦い顔を浮かべて言った。


「――アイツはゲイル。この世界で最強と謳われた冒険者……勇者の一人だぜ」

「っ!?」


 え、世界最強の冒険者、勇者の一人?

 この世界には勇者が何人もいるの?

 っていうか、そんな人が何故街を、人を襲うようなやつの仲間なんだ?


「二人は、あの男と仲が良かったのか?」

「そうだぜ! あいつ、時々森に来てはオレたちと遊んでくれたんだぜ!」

「よく森に行って誰が一番魔物を狩ってくるか競争してたよ! 今のところ全部引き分けだよ」


 二人はさっきまでとは打って変わってニコニコとしながら言った。

 けれど、本当はニコニコとしていられないのではないのか?

 あの森の中で精霊相手に勝負して全戦引き分けって……

 さっきも、鳥肌が立つぐらいな異次元の戦いを繰り広げていたんだぞ?

 リーズとやりあえる強い人が、敵なのだぞ?


「とにかく、厄介なことになったよね。ゲイルが操られてるとか考えたくないよ……」

「だなぁ。アイツ、剣技だけで言えばファルスよりも強えしな。それにあの剣もおれの烈風剣では斬れなかったな」

「あれは仕方ないよ、世界で二振りとない魔法剣だしね」


 真面目な顔で言う二人だったが――

 つか、ファルスより強いのかよ!

 なんつーバケモンだよ……

 そんな彼も魔道士に操られているのだな。


「はぁ……ここにいても仕方ないよな。街に戻ろう、話はそれからだ」


 と、オレはため息を吐いてそう言った。


「だな! ファルスとネリーゼンが戻ってくるかもだからな」

「お店に戻ったら、ご飯食べたい!」

「いや、まだ食べられないからな……?」


 


 それにしても――

 リーズとシルフィの攻撃が当たる瞬間。

 口が弧を描いていた男の顔がオレには見えたのだ。


 あの笑みは一体――


 今はとりあえず、話を聞きに行くことが先だと思い、男のことは心の片隅に置いておいた。




   ◇◆◇◆◇




 街に戻った。

 門番さんはまだいなかった。

 そして店の近くにたどり着く。

 店の前には心配そうにしている住人さんがちらほらと立っていた。

 オレはその視線に耐えながらも、店の中に入っていく。


「……」

「……」

「ああ……私の店が、商品が……」


 三人は床の上で呆然としながら店内を見渡していた。

 特にベクレイトさんのショックは計り知れないだろう。

 自分の店の惨状に、平然としていられるわけがないのだ。


「あ、アラシさんにリーズさんとシルフィさん……!」


 セレンはオレたちに駆け寄り言う。


「何があったか教えてくれないか?」

「はい……みなさんとお別れした後、私達は店に入りました。すると、店の奥から黒ずくめの男が出てきたのです」


 セレンの言うとおりだったら、とっくの前にあの男は店の中に忍び込んでいて、三人が入ってくるのを待っていたということだ。


「二人は男の気配に気付かなかったのか?」

「うん。全く気配がなかったよ」

「アイツ、かくれんぼも上手かったからな」


 二人は頭を左右に振りながら言った。

 剣技と力が強くて、気配を消すのも上手いって、どんだけハイスペック!


 セレンはリーズのかくれんぼという言葉に不思議に思ったのか首を傾げたけど、話を続けた。


「その時何か丸いものを取り出して投げつけてきたんです。そしてそれが爆発して――」


 ふむふむ。

 それに気づいたリーズが慌てて店に入って三人の周りに風の障壁を張って爆発の直撃を防いだわけね。

 そして男は逃げ出し、リーズがソイツを追いかけた。

 というところか。


「分かった、ありがとう」


 このことは後でネリーゼンたちに伝えるとして……


 オレは、未だにショックから立ち直れていないベクレイトさんに向かう。


「セレン、トラッド。悪いけど、オレたちベクレイトさんと話があるから、オレたちの泊まる宿の部屋に行っててくれないか?」

「え? 別に構いませんが」

「ボクたちはいちゃいけないんですか?」


 多分話の中でこれまでの経緯をベクレイトさんに説明しなきゃいけない。

 トラッドが操られていたことも、セレンが危なくなったことも全部。

 二人はそこまで幼くはないけれど、思い出させるのもなんだか申し訳なくてな。


「大事な話だからさ。頼む」


 そう言うと、二人は渋々ながらも頷いて、店から出て行こうとした。


「二人共、絶対に寄り道せずに、宿屋に行くんだぞー?」

「わ、分かってますよ!」


 と釘をさして。

 二人が店から出ていく。


「……シルフィ。二人は?」

「離れていくよ! ちゃんと宿屋の方向に歩いてるみたい!」


 よし。だったら、話を切り出しても大丈夫だな。


「ベクレイトさん、お話があります」

「私の店が……みせがぁ……はっ! あ、アラシさん!」


 ウジウジしていたベクレイトさんの肩を揺さぶると、ようやく正気を取り戻してオレの方へと振り返る。

 その時だった。


「随分と店が荒れてるな……どうしたんだ?」

「なんだ、この店は片付け一つ出来んのかの?」


 丁度良いときに、ファルスとネリーゼンが戻ってきたのだった。


「さて、お話しましょうか」


 オレは、ベクレイルさんに話を切り出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ