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12.こけこっこの恐怖





 翌日。

 まだ日が浅い時間にオレたちはスピリトの街の門から少し離れた場所に立っていた。

 これから、バドフェンの街へ向けて森を抜けるのだ。


 昨日ダリスの店から館に帰り、ファルスにバドフェンに連れて行って貰えるかと打診したら快諾してくれた。

 勿論、リーズもその時行きたいとダダを捏ね、ネリーゼンを困らせていた。

 幸いなことに、リーズとシルフィがいなくても暫くは事を進めることが可能だということで、二人を借り受けることが出来た。

 ファルスも街の治安を守るという重要な仕事を請け負っていたけれど、部下たちが頑張ってくれるらしいと言っていた。

 重要人物であるけれど、意外と自由だ。

――リーズとシルフィはただでさえ自由奔放なんだけど。


 そしてこの旅の目的は、バドフェンの街の買い出しと、オレが求める調味料の仕入れの他に、オレ自身のレベルアップだ。


「昼は実践で魔物の討伐、夜はあたしが精霊術の基礎を教えていくよ!」

「おお!? オレもとうとう精霊術を覚えていけるのか!?」

「森を抜けるまでに覚えられるといいね!」


 それ、覚えられない可能性が高いってことじゃないか。

 いや、でもきっと近いうちに覚えてみせよう!


「あと今回の旅では隠れ家は使えないからな!」

「……え?」


 リーズから絶望的な言葉を耳にした。


「隠れ家を人間に見せるわけにはいかないからな。なるべく人間とは出会わないようなルートを取っていくが、それでも冒険者が通らないわけではないから出会う可能性が高い」


 ファルスが言う理由に、オレは愕然とした。


「そ、そうか……じゃあ、夜は野宿なんだな」

「そうなるぜ! でも安心しろよにーちゃん! 食事はトレアが持ってきてくれるからな!」


 食べ物だけでもまともということは喜ぶべきところなのだろう。


「いーい? 森を抜けるまでにせめてダークネスマンバの討伐が出来るようになってね!」

「お、おう……」


 あれだよな。

 あの巨大な蛇を、オレ一人で倒せるようになれってことだよな。

 が、頑張ろう。


「では出発だぜ!」


 リーズの掛け声で、オレたちはいざ森へと再び潜り始めたのだった。




   ◇◆◇◆◇




 いきなり強敵が現れる。

 その名は、ジャイアントベア。

 ただただ大きなクマなのだが、力は強いし素早い。

 レベル的には下の上ってところだとみんなは言う。

 オレからしたら十分強敵なのだ。

 さっきからヤツの攻撃をいなすのに必死なオレは、それでもヤツから目を離すことをせずに立っていた。


「はぁ、はぁ……」

「アラシ様。やつの肉はマズイからさっさと倒して次に行くぞ」

「あ、相変わらず肉の美味しさ基準なんだな……! というか、さっさと倒せることが出来るならやってるわ!」


 とどうでも良い会話を続けたせいで、ヤツは駆け、オレへと腕を振り下ろしてくる。


「くっ!」


 辛うじてオレは、ヤツの腕を避けることが出来た。

 勢いは強くて、少しだけ衝撃が襲う。

 ヤツの腕は地面をえぐり、その勢いで腕を埋めてしまっていた。


 よし、チャンスだ、ヤツの動きが止まった!


「今のうちに一撃を食らわせろ」


 ファルスの指示の下、オレは剣を構えてヤツ目掛けてかける。


風の刃付加(ウィンドエンチャント)!」


 空に浮くシルフィが叫ぶ。

 補助はありがたい!

 鋭い刃となった切っ先がヤツの体を貫く!

 

 断末魔と共に、その巨体は大地に落ちていった。


「ふぅ……」

「お疲れだぜ、にーちゃん!」


 何もせずに辺りをふよふよ漂っていたリーズは言う。


「今度は美味しいお肉を連れてきたぜ!」


 と、ニッコリしながら。

 まさか、辺りをうろついていた魔物を連れてきたとかじゃないだろうな――


 まんまると膨らんだ真っ白な鳥が、こっち目掛けてコケコケ喚きながら走ってくるではないか。


 でっかいニワトリが、怒ってらっしゃる。


「コイツの肉、ムチャクチャ美味しいんだぜ!」

「わー! ファットルースターだ!」

「丸焼きにすると最高だな」


 相変わらずの三人の様子に、オレは心の中でおいおいとツッコミを入れた。


「にーちゃんに倒してもらおうと思ったけどいいや! ぱぱっとなっと!」


 リーズは右手に風を纏わせ、それをニワトリ目掛けて投げつける。

 突き進む度に勢いをつけ、球体だったそれが次第に刃へと形を変えていく。

 そして、風の刃は呆気なくソイツの首を駆け抜け、スパンと斬り落としたのだった。

 首を落としたことに気付いていないソイツは暫く走り続けていたが、しばらくしたら走る勢いを落とし、ドシーンと倒れていった。


「……」


 唖然とした。

 強さの比較は分からないけれど、あれだけデカイニワトリを、まるで赤子の手を撚るように息の根を止めたのだ。

 シルフィーのときもたった一発だったけど、質が違う。


「ファルス、お肉にしてくれ!」

「了解」


 やっぱり、コイツらはすげぇよなと思った。

 はらぺっこ精霊なんて名付けて申し訳ない――


「帰ったらチキンパーティーだぜ!」

「あたしももにかぶりつきたいの!」

「じゃあ、片方はオレがもらおうか」


 よだれをダラダラしながら作業する三人を見て、前言撤回することにした。


「おれが倒したんだぜ!?」

「あたしもファットルースターぐらい一発だよ!?」

「オレの剣で一刀両断だ」

「やめやめ! もう一匹見つけたらいいだけだろ!?」


 肉の取り合いに、一発触発な雰囲気だった。

 この最強精霊三人が同時に暴れたら、オレにはどーすることも出来っこない!


 それもそうかと三人共納得してくれたから、危機は回避できたけど。


「後一匹なんて言わない――後三匹、しとめるか」

「そうだね! そしたら一人一匹、チキンパーティにふさわしいだよ!」

「じゃあ一人一匹、探して来ようぜ!」


 いや、そんなデカイの丸々一匹、オレは食えねぇから!

 と言おうとしたけど、三人の行動が早すぎて、あっという間にいなくなっていた。

 全く――今回はニワトリの肉を手に入れる為に来たんじゃないぞ!


 一人ぽつんと取り残されたオレは、とりあえず手頃な木の根に腰をかけた。

 でっかいクマさんとの戦闘もだけど、此処に来るまでに何匹もの魔物を倒してきたのだ。

 体は大いに疲れている。


 けど、実感できるのだ。

 着実に、強さを手にしていることに。


 ぶよぶよだった両腕の筋肉は少しだけ浮き上がり、筋力が上がっている。

 リーズとシルフィの加護を受けた布の服着用ではあるけれど、少しずつ反応速度は上がっていて、ちょっとした素早い動きもスロー再生をするかのように見える時があった。


 まあ、ダークネスマンバにはまだまだ足元にも及ばないだろうけど。

 あのヘビの攻撃の速さは、オレにはまだ追いつけそうにない。

 あれがこの森の到るところに普通に存在するって話だから、恐ろしい。


「にーちゃん? 何休んでるんだぜ?」


 考えに耽っていた時、スッと目の前にリーズが現れた!


「いや、さっきからずっと戦いっぱなしだったから休憩を――」

「えー! 折角コイツを連れてきたのに?」

「……ん?」


 リーズに言われ、彼の後ろを凝視した。

 そしたら。


「コ、コケーッ!!!!」


 さっき見たニワトリよりも更にデカイのが、そこにいた。


「え、これをどーしろと?」

「勿論! 倒して肉にするんだぜ!」


 と当たり前だろ? と当然のように言ってくる。

 ただ、目の前のニワトリ、さっきのクマさんよりも強そうに見えるのだ。

 いや、強いと確信している。


「さっきやったように、リーズがするんじゃね――」

「アラシ! 連れてきたよー!」

「アラシ様、肉連れてきたぞ」


 左右からシルフィ、ファルスがニワトリを連れて戻ってきやがったのだった。


「さあ! にーちゃんがんばってくれ!」

「これが終わったら、精霊術の時間だよ!」

「チキンパーティの為に」


――暫くの間チキンを見るのが嫌になったのは言うまでもない。


 ちなみに、頭をくちばしで突かれたり、背中にタックルをかまされたりと、幾度となく死を覚悟したのだが、死ぬ前に三人がそれぞれのニワトリを倒して肉に変えていった。


 オレはまだまだ弱ぇ――




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