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お盆飾り


97


お盆飾りを出していると、二人の泣き声が聞こえて来た。また喧嘩か~?

「どうした?」

「うぇええええおキン~!」

二人は玄関の水槽の前で泣いていた。


「おキン?」

水槽を見ると、赤い金魚が目を開いたまま浮いていた。

「おキンが動かないよ~!」

「うぇええええ!」

そうだった……。祭りの金魚は死にやすい。


「おキン~!」

「おキン~!」

何だろう……名前のせいか?全然悲しめない。


「おキン~!」

「おキン~!」

ヤメテー!名前連呼ヤメテー!!時代劇になっちゃうから!何故おキン!今さらだけど、おしんっぽさが半端ないから!!


「どうしたの?」

二人の叫びに葵がやって来た。

「あーちゃん、おキンが~!」

「おキン?」

「あ……。とうとう死んじゃったんだね。お祭りの金魚は死にやすいから……。」

正に、さっき同じ事を思った。

「すくって土に埋めてあげよう。」


網ですくって、バケツに移した。花壇の一角にスコップで小さな穴を掘った。そこは、紫陽花の花のある花壇だった。その根元に埋めた。

「これで紫陽花の色変わったりする?」

「この小ささじゃ、あんまり影響しないんじゃないか?」


ルンが小さな穴におキンを入れ、ポロが土をかけた。そして、その上に、おキンの墓と書いたカマボコ板を置いた。

「おキン~!さようなら。」

「おキン~!ありがとう。」


「おキン~!」

「おキン~!」

俺が便乗して、おキン~!と言ったら、葵が口に手を置いて震えていた。え…………泣いてる?そのうちにだんだん堪えている顔になった。あれ、笑いを堪えている……?


「おキン~!」

俺が大袈裟に連呼したら、葵にTシャツの裾を引っ張られて小声で言われた。

「ちょっと!ここは絶対笑っちゃいけない所なんだから、笑わせようとするのやめてよ!」

「え~何の事~?」

しらばっくれた。


「キンタの事は僕達に任せて!」

「まだキンタがいるもんね!」

キンタロウをキンタと呼んでるの!?


二人はまた水槽の前に行った。俺達もお盆の飾り付けに戻った。葵が提灯を吊るそうとしていたから、その提灯を支えながら、小声で葵に言った。

「キンタって名前どうなの?」


葵はあきれていた。

「紅葉君、下ネタだと思ってる?そう思うのは大人だけだからね?二人は普通にキンタ~待て待て~!って言ってるから。」

葵の口からキンタ…………いや、どう考えても下ネタだろ?絶対わざとだって!


水槽の前に戻った二人は、金魚に餌をやろうとしていた。

「キンタ~!」

少し…………嫌な予感がした。金魚の餌がドバッと投下された。やっぱりな……。おキンの死因は多分、餌のやり過ぎ。

「ダメダメ!餌与え過ぎると水も汚れるし、早死にする~!」

心なしかドジョ子も肥えてきてる!俺が必死で餌をすくっていると、葵が声をかけて来た。


「紅葉君、こんな感じでいいかな?」

座敷へ行こうとすると、二人が葵の元に走って行った。

「うわ~!綺麗だね~!」

「まぁ、毎年思うけど……提灯派手だなぁ。」


長いテーブルの両側に派手な提灯が二台ずつ。テーブルには花や位牌、ろうそくと線香、お供え物に、キュウリの馬とナスの牛。

「派手に飾らない家もあるけど、お盆が華やかっていいよね。暗くならない。」

確かに……お盆が暗くなった事はない。それより、昔は親戚が沢山集まって楽しくやっていた。


「キュ馬~!もっと作りたい!」

「もっと作ってどうするんだ?」

「ルンは~競争させる!」

競馬かよ!

「僕は、キュ馬のメリーゴーランドにする!」

その馬どこにも行けないじゃん!!回るだけ!!


でも…………何だか楽しそうだ。ルンとポロが笑いながら、回るキュウリの馬に乗っている姿を想像した。

「どうしてキュウリの馬なの?」

「キュウリの馬で早く来て欲しいって意味で…………」

「自動車のが早いのに……。」

それは……確かに……。

「飛行機ならもっと早いよね?」

結果、ピンクのドアが一番最速という事になり、段ボールと画用紙で作られてお供えされていた。


ピンクのドアで…………あの世とこの世を行き来できたらいいのにな。


そうしたら…………絶対おキンに祟られそうだ……。名前で笑いやがってって……。


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