花火
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ルンが落ち込んでいたから、葵が花火をやろうと言い出した。
織部と晋さんも誘ったけど、晋さんは火薬の臭いと音が怖いようで……家の中の窓から見ていた。
手持ち花火に火をつけながら、織部はルンに訊いた。
「どうよ?二人の仲は?」
ポロはなかなか花火に火がつかなかった。ずっと、ろうそくの火と格闘していた。ルンはしょんぼりして言った。
「さっきね……結婚届書いてたのにね……ルンが溢しちゃったの……。」
ああっ!そこ触れないでやって欲しかった……。
「大丈夫、大丈夫~!俺が役所行って、100枚もらってきてやるから。」
「いや、そこは1枚が優しさだろ?100枚は嫌がらせだ。」
「だって100枚あれば、何枚破られても安心だろ?」
破られる前提か!?そこは数枚で諦めろ!さすがに100枚は諦め悪すぎだ。そもそも誰もそんな鋼のハート持ってねーよ!
「100枚書く根性ないなぁ……。1枚でもめんどくさいのに……。」
葵が呟いた。めんどくさいって!婚姻届めんどくさいって!!
「え……もう書かないの……?」
ルンは泣きそうな顔で葵を見た。
「あ……何枚でも書くよ~?」
「何枚?」
「何枚でも書くよ~?」
すると、ルンは元気を取り戻して笑顔で訊いた。
「100枚?」
「100枚…………?…………書き…………」
「書き?」
「…………ますとも。」
よく言ったな……葵……。
「いやいや、そもそも役所が100枚もくれないだろ。」
「じゃ、何枚くれるんだ?お一人様一点限りか?」
やめろ!婚姻届をスーパーのセール品扱いすんな!
「資源の無駄遣いしちゃいけません。1枚。1枚でいいの。」
「1枚でいいの~?」
葵が何とかルンに納得してもらおうとして言った。
「何枚も出したら、役所の人にしつこい~!って思われちゃうから。ね?」
そうゆう問題でもないと思うけど……。
「あ、ついた!」
ポロの花火にやっと火がついた。ルンの花火にも火がつき、パチパチと音を立てて、暗闇に光の花が咲いた。織部の花火はシュッ!と音を立てて火がついた。織部は次々に置き型花火に火をつけた。火花がどんどん高く上がって、まるで光のカーテンのようになった。
「綺麗だね~!」
「晋さんにも見えてるかな?」
ポロは晋さんのいる窓の方に花火を振った。すると、晋さんは手を振っていた。
俺がろうそくの火で花火をつけようとしていると、ルンが調子に乗って振り回していた花火が前髪をかすった。
「危なっ!ルン!振り回して通るなよなよ!」
「あ、前髪チリチリになってる所ある~!あはははははは!!」
葵が俺の髪を見て爆笑した。
「後で切ってあげるよ。そんな長い前髪してるから燃えちゃうんだよ。」
そう言ってまた爆笑していた。
「最後はやっぱこれだろ~!線香花火!」
織部は時短と言って、束をそのまままとめて火をつけた。
「ちょ……それ、すぐに玉が落ちるだろ。」
束の線香花火は、1つの大玉になってグツグツいっていた。何度も何度も火の玉が落ちて、それでも、燃え続ける。
「なんか…………風情がないのに…………目が離せない!!」
わかる!!風情はないけど、見てしまう!グラグラ燃えたぎるマグマを見ているかのような感覚になった。
「普通、花火の後ってしんみりするけど、この線香花火見てると…………満足!!って感じになるね。さ、中入って寝ようか。」
「はーい!」
「あ、歯磨きちゃんとしてね~!」
そう言って家の中に入った。
「花火、楽しかったね!」
「綺麗だったね~!」
「僕、グツグツしか思い出せない。」
ルンとポロには、一束線香花火が衝撃的だったらしく、完全に持っていかれた。風情はどこ行った?