少し落ち着いて
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い~い~な。いい~な。人間っていいな~。
少し、落ち着こう。
人間に戻りたい!!そう強く思った所で、都合良く人間に戻れる訳じゃない。高熱が出てもすぐに死ぬ訳じゃない。足を切ってもすぐに死ぬ訳じゃない。少し、落ち着け!自分!!
まずは…………調べよう。
「ポロ……ちょっとここ……」
何とかポロの手を外した。少し毛が抜けた。首の所だけハゲたらどうしてくれるんだよ……。
「苦しいかもしれないけど、少し待ってろ。」
そう言って、俺は顔をポロの頭にすり付けた。
基本的に、狼の姿だと細かい作業ができない。携帯の操作は厳しいけど、タブレットはギリギリ操作できた。俺はルンを背中に乗せて検索した。
「子供発熱対処法」
熱痙攣とかはなかったと思う。寒がってたか?毛布かけるか?
「紅葉~!どこ~?ばんそーこー見つかんない~!」
「じゃ、もう一段上も見て。」
「あった~!」
ルンは絆創膏の箱を見つけた。かろうじて1枚入っていた。
「自分でつけられるか?」
「うん!…………でも……」
でも…………?
「まだ痛いか?」
「うんん。」
なんだ……。
「これ、可愛くない……。」
え…………。絆創膏が可愛いとか可愛くないとか、あります?傷が勲章になることはあっても……わ~!可愛らしい~!ってなる?ならんよね?
「これ、外す。」
え?とるの?これ1枚しかないのに?
「ちょ、ちょっと待とう!」
何か……何か子供の興味を引く物は……あ!昨日買った歯ブラシにシールがついていたはず!!俺は慌てて昨日の買い物のビニール袋を漁った。あった!!
「歯ブラシ?」
「ほーら、新しい歯ブラシだよ~!猫ちゃんのシールもついてる!」
「猫ちゃんだ~!」
猫で興味を引こうとする犬の図って…………複雑。いや、犬じゃないし!
その後、ルンはシールを絆創膏の上から貼っていた。それが正解か……。
まずは冷蔵庫の前の割れた皿を片付けよう。あれが片付かない事には氷枕も飲み物も出せない……。
「ルン、ここ開けてくれ~!」
「はーい。ポロは?」
「ベッドで寝てる。」
物置に確か……あった!ハンドクリーナー!これで吸えば細かい欠片は取れる。後は……吸えない欠片は端に置いて、上に雑誌でも重ねて置いておくしかないか……。人間に戻るまでは封印しておこう。
「ルンがやる!」
「じゃ、箱から出してくれ。」
ルンはあっという間にクリーナーを箱から出してコンセントをプラグにつないであちこち吸っていた。
「わ~!これ面白い!」
「ちょ…………」
ギャー!!止めて!毛ぇ吸わないで!しかもさっきポロに抜かれた首の所!ハゲる!ハゲるから!
それでもこの非常事態に、かなり役立っている。年末のビンゴ大会の景品がこんな所で役立つとは……。
俺はまた、ルンを背中に乗せて言った。
「冷凍庫からジェル枕取ってくれ。あと、ペットボトルの水も。」
「ポロ、熱出たの?」
「知らなかったのか?」
そういえば、ポロが倒れてから、ルンはポロの様子を見ていないのか。
「これ、届けて、少し側にいてやろう。」
「うん!!」
そう言って、ルンはジェル枕を持って先にポロの所へ行った。
すると、すぐに戻って来た。
「紅葉!大変!!ポロが……ポロが…………」
「ポロがどうした!?」
俺はすぐに寝室へ向かった。