表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/105

愛着


88


7月も半ばに来ると、子供達が待ちに待った、夏休みが始まった。終業式に通信簿と朝顔の鉢を持ち帰って来た。


結局夏休みが始まっても、水泳指導があって、8月の上旬までほぼ毎日、学校のプールに行くらしい。

「いいねぇ~夏休み。」

「いや、晋さんも毎日が夏休みみたいなもんじゃないですか?」

「若者の夏とおじさんの夏じゃ全然違うよ。」


ルンは毎朝、朝顔に水をやりながら愚痴をこぼしていた。

「ひまわりと違って、朝顔は種が食べられないから残念だよね~」

もはや発想が…………げっ歯類!?


「ルン、朝顔、朝にお花が開いて綺麗だよ?」

「知ってるよ。」

ポロ、花より団子のルンに何を言っても無駄だ。

「僕、毎日咲いた花の数数えるの好きだなぁ。」

「じゃあ、ルンのも数えといて。はい。」

そう言ってルンはポロに観察表を渡していた。


「こらこら。自分の宿題は自分でやる。野菜も花も、自分で世話すれば愛着が湧くもんだから。」

「ふーん。アイチャクって何?」

「うーん。可愛いな~とか、特別だな~とかって気持ち?」


ルンは少し考えて言った。

「ルンの事、アイチャク?」

「僕は?来てる?アイチャク来てる?」

二人に迫られて、思わずこう答えていた。

「…………キテます。」

Mr.マリックかよ……。


その話を夕方、葵にしたら、葵は萌えていた。

「可愛いな~どうして愛着が来るって考えたんだろうね~?私は?来てる?愛着来てる?」

「キテます!!やらせるなよ!」


午後はみんなで神社に虫取りに来ていた。俺達二人は境内の石段に座って、三人の虫取りを見ていた。ルンとポロは交代で晋さんの肩に乗り、カブトムシを取ろうとしていた。


ちょこちょこルンとポロが交代でこっちにやって来て、俺の頭や、葵の頭にセミの脱け殻を乗せて行く。


「子供って面白い感覚してるよね~。」

神社は、けたたましいほどのセミの鳴き声で、俺達以外誰もいないのに騒がしかった。


「ポロに、セミはどうして泣いてるの?って聞かれた時は、どう答えていいかわからなかったな~」

「それは哲学的な答えになってきそうだな~」

「どうしてだと思う?って聞いたら……お母さんが側にいないから。って。もうこっちが泣きそう。」


葵は肩を落として、下を向いた。

「やっぱり本当のお母さんに会いたいよね……。」

「いや、俺はマジで二人の子供だと思ってるけど?」

「未来から来た私達の子?それはないでしょ。だって私、多分子供できないよ?」


え…………?それ、髪の毛にセミの脱け殻つけてするカミングアウトか?

「それが原因で一度離婚してるし。」

「えぇええええええ!!」

葵…………バツイチ!?いや、だから頭のセミの脱け殻増えてるから!


「あ、バツついてる女は嫌?」

「いや、逆にバツつけさせたらいけないかと思ってた……。」

「え…………?5年後失踪するってマジなの?私に諦めさせようとして言ってるのかと思ってた。」

確かに…………そうゆう意味にも取れるか……。


「私の家族めんどくさいし、私もめんどくさいし、嫌になっちゃったのかな~って。」

「いやいや、よっぽど俺のがめんどくさいから。」

「犬になるのはめんどくさいよね~あはははは~」

いや、笑い事じゃないだろ。犬じゃねーし。


「笑い飛ばしてくれるのは葵ぐらいしかいないよ。」

「私、紅葉君に愛着来ちゃってるからね~」

それ、まだやらすの?

「私は?愛着来てる?」

「キテます!!だからやらすなって!」

「あはははは!!」


二人で笑った後、しばらくセミの声と、ルンとポロの笑い声を聞いた。

「坂下のおばあちゃんがね、ここでは私はまだまだ子供だって言ったの。私まだ子供だって。」

「そりゃそうだろうな。下手すりゃ孫だよ。」

「だから、子供が子供がいないとかできないとか悩まなくていいのよって、おばあちゃんが言ってくれたの。無茶苦茶なんだけど、何だかその言葉に救われた……。」


「だから坂下のばあさんの願いを叶えようとしたのか?」

「違うよ。私の願いだよ。私だったら……自分が死ぬ時、隣に大好きな人にいてもらいたい。」

その願いは……おそらく、葵は叶える事はできない。


葵は頭のセミの脱け殻を1つ1つ取りながら言った。

「セミは死んでゆく仲間を嘆いて泣いてるのかな?それとも、自分はまだ生きてるって知らせたくて泣いてるのかな?」


どっちにしろ…………泣く事ができるのは、残された者だけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ