パジャマの紐
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七夕はとっくに過ぎたのに、織姫と彦星は、パジャマの紐をたどって、天の川を越えた。
次の日朝、朝の挨拶より先にルンが訊いて来た。
「二人で寝た?」
「ぶーーーー!!」
俺は飲んでいた麦茶を吹いた。
「汚っ!紅葉君、動揺しすぎ。」
「一緒に寝たよ~?だって繋がれちゃったんだもん。」
いや、逆によく平然と笑顔でそれ言えるな……。
「これ、いつまでつけてればいいんだ?今日、俺は田んぼの草取り、葵は畑で作業のつもりなんだけど……。」
すると、ポロがハサミを持ってきて俺達の紐を切った。いや、あれだけ切るなって言ったのに……。
「二人で一緒に寝たならもういいよ。」
「え…………?なぁ、ちょっと聞くけど、どうして俺達を一緒に寝かそうとしたんだ?」
「え?もしかして切って別々に寝たの?」
二人は疑いの目でこっちを見た。
「あ……いや、切ってないよ。切ってない。切ってない。」
パジャマの紐が、両端もう数十センチづつ、短くなった事は…………二人だけの秘密だ。
「あのね、夏子先生、お腹に赤ちゃんがいるんだよ?」
知ってる。夏子先生はルンとポロの担任だ。若い先生で、冬に子供が生まれる予定らしい。
「だからルン、夏子先生に、どうしたら家にも赤ちゃんが来るの?って聞いたの。」
「やだ!!そんな事聞いたの!?夏子先生なんて答えたの?」
ギャー!!まただ!!また赤ちゃん欲しい熱が!!
「お父さんとお母さんに相談してみてねって。」
丸投げか!夏子!!
「夏子先生、お父さんとお母さんが仲良しだと来るって言ってたけど、どれくらい仲良しかわからなかったから、どれくらいか聞いたら……」
まだ続くの?この話?
「一緒に寝るくらい?」
二人は頷いた。正解でも不正解でもない絶妙な回答だな夏子……。
「ケンちゃんの家はみんなで一緒に寝てるって。」
「ノアちゃんの所は別々だって。」
そんな情報聞きたくないです……。スピーカーは二人だけじゃないんだな……子供に下手な事は言えない……。
「うちも別々だから、一緒に寝てもらおうかと思って……。」
「わかった。でもね、もう繋がなくていいから。別々に寝てても、紅葉君と私は凄く仲良しだし。それに……夏は一緒だと暑いしね!暑いのは嫌だし。」
「わかる~!ポロと一緒だと暑いもん!」
さすが。やっぱり葵は子供を納得させるのが上手い。
「え~!僕だってルンとじゃ暑いよ!」
「ほらほら、喧嘩してないで早く学校行かないと遅刻するよ?」
「はーい!行って来ま~す!」
二人が玄関で靴を履いていると、葵がふと気がついて、二人に釘を刺した。
「くれぐれも、昨日は私達二人が一緒に寝たんだよ~!とか、みんなに言いふらさないでね?」
「なんで?」
「私達が仲良しなのは、みんなよ~く知ってるから。知ってる事はみんなにお知らせしなくていいの。」
二人は黙って少し考えいた。そして、考えるのを途中で放棄して、軽く言った。
「うん、わかった。」
絶っ対わかってないな……。
靴を履き終えた二人は元気に学校へ向かった。台所で朝食を食べていると、二人の声が外から聞こえた。
「おばあちゃんおはよう!」
「ルンちゃん、ポロちゃん、行ってらっしゃい。」
「みんな知ってると思うけど、昨日、あーちゃんと紅葉一緒に寝たんだよ!」
そんなの知るか!!
釘を刺した意味が無い!!皆無!!むしろ逆効果!!
「ぶー!くくくくくく……」
晋さんが大笑いしていた。
「恥ずかしい……。」
葵が顔を隠して言った。
「やっぱりダメか……。またおばあちゃん達に子供はまだかってプレッシャーかけられるよ……。」
何そのプレッシャー?!まだ結婚さえしてないのに……?
そこへ電話が鳴った。
「やだ……きっとまた学校からだ……。」
葵はため息をつきながら、電話に出た。そして、電話を切ると、すぐにこっちへ来て言った。
「晋さんの家族、お盆に来るって!」
「本当か!晋さんやったね!家族にまた会えるよ!」
晋さんの手から、箸が落ちた。
「…………。」
晋さんは、ずっと黙っていた。