七夕
85
梅雨が明けると、あっという間に夏がやって来た。二人は七夕のお願い事を考えるのに夢中だった。
「あーちゃんはお願い何にする~?痩せますように?」
それはルンのお願いだろ?葵なら…………野菜が大きく育ちますように。とかなんだろうな。
「痩せますように。かな?」
え?マジ?全然痩せてるのに……?
「晋さんが……痩せますように。」
みんなは晋さんの方を見た。
「え?少し太ったかな?」
少し…………?気がつけば……晋さんのフォルムが丸くなっていた。
「確かに首の所、肉がパンパンになってる……。」
これから冬眠ですか?というぐらいに体に脂肪を蓄えていた。
「じゃあ、痩せるようにお星様にお願いしておくよ。」
完全に他力本願……。 そう言って晋さんがキャンディチョコレートを食べようとした瞬間、葵が晋さんの腕を掴んで言った。
「ちょっと待って。晋さん、そのチョコレートどっから出した?」
「棚の上の方。」
「もう勝手に食べちゃダメ!チョコ、キャンディ、キャラメル禁止!」
晋さんはショックのあまり固まってしまった。
それからというもの、笹の枝の短冊がどんどん重さを増した。七夕になる頃には、笹の葉より短冊の方が多いくらいだった。それでも、晋さんは少しも痩せなかった。この短冊の量……どんだけお願いする気だよ……。神様もウンザリする量だぞ?片付けるこっちもウンザリする量だ。七夕の夜はあいにくの雨で、星は見えなかった。でも、今夜はよく見えそうだ。七夕飾りを片付けようと、ふと短冊を見てみると……。
「痩せますように。」
「チョコレート。」
「痩せたい。」
なんじゃこりゃ~!!そのほとんどが痩せたいとか、甘い物が食べたいと書いてあった。それはもう何枚も何枚も。重量的にも気持ち的にも…………重い。
その中に1枚、不可解な短冊があった。
「おっぱいが取れますように。」
えーと……おっぱいって着脱可能だっけ?こぶ?こぶの事?誰のこぶ?誰かこぶあったか?誰のおっぱい?この家におっぱいがあるのは葵だけだ。葵のおっぱいが取れたら……男になるな……。
「短冊たくさんだね~何見てるの?」
そこへ葵が手伝いに来た。
「あ、いや、これ……。」
「何?おっぱいが取れますように?紅葉君そうゆう趣味!?」
いやいや、どうゆう趣味!?
「俺が書いた訳じゃないから!」
「わかってるよ。これ、私が書いたんだもん。」
は!?男になる気ですか!?
「ポロに頼まれたの。晋さんのおっぱいが取れますようにって書いてって……。」
なんだ……。そりゃそうか。
「まぁ、それは取れるじゃなくて小さくなりますようにだよな?そんなにポロっと取れたら苦労しないよ。」
「そうなんだけどね……。何だか可愛そうになってきちゃって……。」
葵がそう言って縁側に座った。俺はその隣に座って言った。
「でも晋さん、チョコレート禁止しても全然痩せないよな?」
「ごめん。実は…………」
葵は手の中に持っていたチョコレートを見せた。葵も?俺胸ポケットからチョコレート取り出して見せた。そして、二人で顔を見合わせて笑った。
「そりゃ、痩せないよな~!」
二人とも、こっそり晋さんにチョコレートをあげていた。
「あ、流れ星!」
縁側に座って、しばらく二人で空を見上げていると、流れ星が見えた。
「あーお願いすれば良かった~!」
「葵は何を願うんだ?」
「うーん…………とりあえず、虫除けスプレー欲しい。」
え…………?確かにさっきから蚊に刺されて痒い。
そこへ虫除けとかゆみ止めを持ってルンとポロが庭に出て来た。
「二人とも、まだ寝て無かったの~?」
「はい、虫除けとかゆみ止め。」
「わ~!ありがとう!」
葵は蚊に刺された所にかゆみ止めを塗っていると、ポロにお願いされていた。
「ちょっと手貸してね。」
「手?何すればいいの?」
「うんん。手出して。」
葵は首を傾げながら手を出すと、紐を手首につけられた。
「これ、何の紐?」
「ポロのパジャマの紐。」
「僕のパジャマの紐、切らないでね?切っちゃダメだよ?」
何故か紐を切るなと念押しされた。
「じゃ、僕達寝るね。おやすみなさい。」
二人は縁側から家に入って行った。ルンが小さくジャンプして中に入ると……コロンと音がした。ルンの足元には、1つの小さなキャンディチョコレートが落ちていた。
「ルン、もう寝る前だからチョコレートは食べちゃダメだよ?」
「こ、これは……。ルンが明日食べるためにとっておいてあるやつだもん。ルン、食いしん坊だから誰にもあげないもん。おやすみなさい!」
ルンは慌ててチョコレートを拾って去って行った。
「おやすみ~!」
二人の姿が見えなくなると、また二人で笑った。
「あれ、寝る前に食べちゃダメの言い訳になってなかったよな?あれは確実、晋さんにもあげてるな。」
「私達ダメ飼い主だなぁ……。」
晋さん飼ってるの?飼ってるつもりだったの?
「食事制限もだけど、運動した方がいいかも。夏だから朝ラジオ体操とかがいいかな?」
そう言いながらポロのパジャマの紐を手繰り寄せていると、俺の手が釣れた。
「あれ?」
「ん?何これ?」
気がつくと、俺の手首にも紐がくくりつけられていた。
「何で気がつかないの!?」
「暗かったし、全然そんな気配なかったし……。ごめん。まんまとイタズラされた。」
ハサミ
カッター
素手◀️
「よし、切るか。」
「待ってよ!ポロが切らないでって。ポロが泣くよ?」
切る
切らない
引き抜く◀️
全然引き抜ける感じではない……。
「どうする?」
「どうする?って……どうする?」
「どうする?ってどうする?ってどうする?」
「いや、どうする?どうする?って…………どうしよう?」
「いやいや、どうしよう?って…………どうする!!」