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薄虹


81


桑の実に飽きたルンは、いちじくの実が熟れるのを待っていた。畑の側にあるグミが食べられると教えた。

「グミ~?知ってる!グニュグニュした果物の味するお菓子でしょ?あれ食感がいいよね~」

「名前は同じだけど、そのグミとは違う。こっちこっち。」

二人をグミの木の前に連れて行くと、ルンは言った。

「あー!やっぱりこれ食べられるんだ~!狙ってたんだ~」

既に狙われてた……。

「さくらんぼかと思った~!」

「さくらんぼよりは少し長い実だね~」


うちにはさくらんぼの木もある。でも、木が弱っているのか、今年は実がつかなかった。剪定や追肥が必要なのか?剪定ってどうやるんだろう?さくらんぼの実のなる桜は、坂下のじいさんの家にもある。今度聞いてみるか……。


「グミ甘い!うま~!」

「そうかな?少し渋いよね?」

「ポロは苦手か?ルン、食べ過ぎて腹壊すなよ?1日に食べる量は片手に乗るくらいにしとけ。」

ちゃんと量を言っておかないと、1日で食べつくしそうな勢いだ……。

「僕、あーちゃんと晋さんに取って帰る~!紅葉、両手貸して。」

「両手?」

「こう。」

そう言ってポロは両手を器のように開いて見せた。俺が両手を開くと、ポロは次々と採ったグミを乗せた。ルンは片手に乗せては食べ、乗せては食べを繰り返していた。それ、結局エンドレス……。


それを見たポロが一言言った。

「ルン、食べ過ぎだよ。また服がきつくなるよ?」

ポロの一言にルンの手が止まった。

「ポロ、女子には言葉を選ぼうか?もっとオブラートに包んで……」

「オブラートって何?」

「それは、薬飲む時に……」

もうポロは話を聞いていない。ポロの一言は、ブローの重みが半端無い。

「気にするなよルン……。」

「…………。」

ルンは黙って、持っていたグミを俺の両手に乗せた。あっという間に、俺の両手いっぱいにグミが乗った。これ…………落とさず運ぶのは至難の技だなぁ……。


そう思って運んでいると、ちょうど葵が庭に出て来た。

「葵!ちょうど良かった!落ちる落ちる!」

俺の様子をすぐに察した葵は、俺のグミでいっぱいの両手を横から支えるように開いた。思わず手が触れると、動揺してグミがこぼれた。

「あ、落ちた!」

「こっちも。」

二人で、こぼれ落ちるグミにあたふたした。


落ち着いた頃に、葵が言った。

「ルン、お皿持って来て。ポロ、下に落ちたの拾って。」

ルンはすぐに家に入って行き、ポロは落ちた数個を拾った。


二人でずっと、両手をそのままで…………動けないでいた。

「これ、グミ?美味しそう。」

「好き?」

「うん、好き。」

葵はそう、笑顔で言った。俺は一瞬、雪の降るかまくらの中での事を思い出した。

「桑の実の方が好きだけど……グミも好き。」

葵も少し声が震えていた。


「今年はさくらんぼは実をつけなかった。」

「え?あれ、実をつける桜だったの?」

知らなかったのか……。じゃあ、あの木は、去年も実をつけていないのか。

「剪定したり、追肥したりして、来年は実をつけるように色々やってみるよ。」

「本当?さくらんぼできたらいいね。楽しみ~!」

「坂下のじいさんに剪定の仕方、聞いて来ようかと思って……」

葵の顔が少し……変わった気がした。気のせいか?

「じゃあ、今度一緒に行こうよ。私も坂下のおばあちゃんに会いたいし……。」


そこへルンがお皿を持って来た。

「ルン~これじゃ全部乗らないよ~!」

ルンの持って来た皿が小さ過ぎた。

「ぷっ!あははははは!」

みんなで笑った。ルンが持って来たのは、ルンの手のひらくらいの二枚の小皿だった。

「てっきり、あーちゃんと紅葉はお皿に乗せて食べたいのかな?って思って……。」

「それもいいね。ありがとう。」


ポロが俺達の手からグミを皿に移すと、葵はその手を離した。そして、ポロからお皿に山盛りに乗ったグミをもらっていた。そして、一粒口に入れた。

「うん、美味しい。」

「あーちゃんそれ落ちたやつだよ?」

「ポロ、それ早く言ってよ。」

そう言ってまた笑っていた。

「3秒以内に拾ったから大丈夫!3秒ルール!」

「それ、3秒以内に食べたらOKっていうルールだから。拾っただけだとアウトだろ?」

「え?そうなの?!」

葵はそれを聞いて笑った。


「笑ったら、なんか元気出た。ありがとう。」

葵はポロにお礼を言った。

「なんで僕?」

今度はルンに言った。

「ありがとう。」

「なんでルン?」

最後に俺に言った。

「ありがとう。」

そこはお約束だった。

「何で俺?」

「みーんな、ありがとう。」


そう言って、葵はまた笑った。


「そういえば、あーちゃんどうして外に出て来たの?」

「あ!忘れてた!そうそう!あれ!」

葵は空を指差した。


空には、今にも消えそうな薄い虹がかかっていた。


「薄いね~!」

「ごめん。グミに気を取られてて忘れてた!」

「あははははは!ルンと同じだな。花より団子だ。」

そう言ってまた、みんなで笑った。


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