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ホタル


80


父の日から数日後、俺がやっと人間に戻った時、葵が急にこう言って来た……。

「話があるの。」

き、来た……。審判の時がとうとう来た……。


女の人の『話があるの……。』って…………だいたいは別れ話する時の台詞だよね?話し合いとか言っても、答えはもう決まってて、一方的に別れようって言われるだけの話し合いだよね?決定を覆せるだけの材料が何もない!!


なんとか最悪の結果を避けるために、晋さんにお願いした。それは、ずるい方法だった。

「晋さん、俺が外の田んぼの方に葵を連れ出すんで、子供達と一緒に後から来てもらえませんか?」

「え?どうして?二人で話をするんじゃないの?」

「いや……それが……」

晋さんは俺の顔を見て察した。


「何?話、したくないの?時間が無いとか言っておきながら、フラれるとわかったら先延ばしにしようとしてる?」

「う……。」

図星です。

「他人の恋路を邪魔するみたいで嫌だな。」

「いや、逆ですって!協力ですって!」

先延ばしが正解かどうかはわからないけど……。


「子供にチューするところとか見せたくないし。」

「しないですよ!」

だったら…………奥の手を使うしかない!俺はルンにもらったキャラメルを晋さんの前に差し出した。

「御主も悪よのう……。」

そう言って晋さんはキャラメルを食べた。晋さんはすぐに甘いもので買収される。


その日の夜は、風が無くて湿度が高く、蒸し暑かった。月明かりも星明かりもなく暗い。空気が重苦しい、静かな夜だった。


わかってる。空よりも、空気よりも、俺の気持ちが一番暗くて重い!!


「話って言うのはね……。」

「あ、そういえばクッキー、もう一度作り直してくれてありがとう。」

「結局形は崩れちゃったけどね。」

俺は話を逸らした。


「葵の顔が奇跡的に怒って出来上がって、二人がウケてたな。」

「だからってみんなでウケないでよ!そのうち本物の顔の怒り顔が出来上がっちゃうんだからね?」


「あ…………今光った!」

田んぼの上に小さな光が舞いあがった。

「…………ホタルかも。」

「どこ?」

「ほら、向こう。」

葵は俺が指を指した方を目を凝らして見ていた。

「あ、本当だ!また光った!あっちの方に行ってみようよ!」

葵は俺の思惑通り、話を忘れて、ホタルの方へ近づいた。


水路の分岐点が草が繁っていて、そこに一匹、2匹ほどのホタルがいた。


「ホタル~!」

そこへルンとポロと晋さんが来た。

「ルン、ポロ……寝てなかったの?晋さんに連れて来てもらったんだ……。」

「晋さんが二人はホタルを見に行ったって言うから。二人だけでずるい!!」

「そうじゃないよ!たまたまだよ!たまたまホタルが見えたんだよ?」


晋さんは俺に言った。

「間に合ったのかな?チューの前に来ようかと思ったんだけど……早すぎたかな?」

いやいや、それ、話の趣旨が違ってないっすか?邪魔しようとしてます?

「邪魔されると燃えるって言うからね。炎上炎上。」

全然炎上どころか消炎ですよ!


「あ!また光った!」

「ルン、少し静かに。ホタルが驚いちゃうよ?」

「あ~飛んで行っちゃった。」

でも、重い話より…………ホタル見てる方がずっといい。

「まだこっちにもいるよ~!」

「ポロ、それ以上行ったら水路落ちるよ~!」

「連れて帰る!」

また始まった~!


「ホタルは寿命が短いから帰してあげて。最後の時は……自由でいさせてよ……。」

空に放されたホタルを見て葵が言った。珍しい……。虫は平気なのに。いや、単純にホタルが可哀想だからか……。


その先延ばしが、思わぬ事になるとはこの時は思いもしなかった。


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