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クッキー


79


いよいよ梅雨本番になった。今日は湿度が高く、蒸し暑い日だった。草木が多いせいか、湿度が肌にまとわりつくような嫌な感じだ。そんな中、昼間に草むしりをしたら一気にバテて、午後には狼の姿になってしまった。


ルンとポロが学校から帰って来ると、なにやらもめていた。

「ごめんね、今日はこれから紅葉君の代わりにこれ届けに行かなきゃいけないの。」

「えー!クッキー作るって約束してたのにー!」

「クッキーはまた今度ね。夕飯の時間までには帰って来るから、紅葉君と晋さんといい子にお留守番してて。」

二人は納得いかない様子で返事をしていた。


こうして葵が出かけた後、俺達の戦いが始まった!!

「やる!!」

「いや、無理だって!」

「絶対やる!!」

予想通り、自分達だけでクッキーを作ると言い出した。

「お菓子はさすがに無理だって!オリベのカレーだって皮が残る感じが何だかな~とか思ったのに!」


「クッキー簡単、トースター」

ポロは、手慣れた様子で俺の携帯で検索していた。俺の携帯は、狼の姿になった瞬間、二人のゲーム機兼、何でも答えてくれる魔法の鏡と化する。

「ホットケーキミックスとバターと砂糖でできるって。」

「それなら二人で作れそうだね。手伝うよ。」

晋さんは葵のエプロンをつけてやって来た。ファ、ファンシー!熊のエプロン姿!!


ポロは検索で出てきたレシピをルンに伝えた。

「バターをレンジで溶かして、砂糖と粉を入れるだけなんだって~!」

「どうやって分量測るんだ?」

「いつもあーちゃんがやってる方法。」

電子スケールを持って来て、その上に子供用のプラスチックの皿を乗せた。ルンがその皿にバターを入れようとするのを、晋さんは待ったをかけた。

「ルン、バターを入れるのは耐熱皿って書いてあったよ?」

「タイネツザラって何?タイの流行り風邪?」

タイでは熱がざら?それで風邪か……。

「電子レンジに入れても熔けないお皿って事だよ?」

ルンは目を輝かせて言った。

「電子レンジでお皿って熔けるの?!やりたい!!」

こらこら!実験しようとすんな!

「今は熔けないお皿でバターを溶かそうよ。」

「そっか。じゃ、今日はやめとく。」

ルンはしぶしぶ他の皿を探した。ポロが閃いた。

「お茶碗は?ご飯はあーちゃんレンジにかけてたよ!」

「じゃあ、お茶碗にいれようか。」

晋さんの許可がおりると、ルンはお茶碗を持って来た。そのお茶碗を電子スケールの上に置き、電源を入れた。そこにスプーンで削ったバターを入れて、そのお茶碗をレンジにかけた。


「溶けてる?」

「溶けてる溶けてる。」

「えーどこどこ?溶けてないじゃん!紅葉の嘘つき!」

あ、そっち?皿じゃないって。バターだって。お前が溶かしたいのは皿じゃなくてバターだろ?


「取り出す時は熱いから気をつけて。」

ポロは自分の軍手をつけて、そっとお茶碗を出して、また電子スケールに乗せた。

「軍手汚くない?」

俺は軍手を外してポケットに入れたポロに言った。

「洗ってあるからきっと大丈夫だよ。紅葉、そんなに細かい事気にするから結婚できないんだよ。って…………オリベが言ってたよ。」

今の、絶対オリベのせいにしたな……。

「そんな事どうでもいいよ!次は砂糖。」

ルン……どうでもいいって……どうでも良くないよね?良くないよね?


ルンがスプーンで砂糖を入れようとすると、また晋さんから待ったがかかった。

「30gくらいなら、大さじ2杯くらいだよ。カレースプーンなら軽く山盛り一杯くらい入れてみたらどうかな?」

言われた通りに入れると、34gだった。

「本当だ。近い。」

「ちょっとだけ減らすね。」

実は晋さん……オジサンなのにスイーツ男子なのか!?

「晋さん、お菓子作りが趣味とか?」

「いいや。娘が作る時、よくこうやって手伝ったんだよ。彼氏に作っているとわかった時は悲しかったなぁ……。何度ハバネロ混ぜてやろうかと思った事か……。」

晋さんの闇が……娘を持つ父親の嘆きが…………熊だと何だか可愛らしい!


ルンがヘラで混ぜるとぼそぼその粉がまとまってきた。

「四角い形にして、包丁で切るんだって。どうする?」

「四角なんてやだ!形、作ろう!」

そう言って二人のねんど遊びが始まった。形を作って、トースターにクッキングシートをのせ、その上に形を作ったクッキーの種を乗せた。

トースターのスイッチを入れると、二人はずっとクッキーを見守っていた。

「ハートと熊、蛙と……キツネ?」

「犬だよ!」

「これはね、紅葉なんだよ!」

いや、俺犬じゃねーよ!

「一応、狼なんだけど……。」


クッキーは焼きあがると、だんだん膨らんでどんどん変形していき、すっかり形が変わってしまった。

「…………。」

「まぁ、別に焼く前からこんな感じだったよ……。」

二人は俺をの方を見て睨んだ。


そこへ葵が帰って来た。

「ただいま~!何~?なんかいい匂い~!」

そして、クッキーに気がつくと驚いた。

「え!これ、二人で作ったの!?あ、晋さんそれ私のエプロン……。」

「ああ、これ勝手に借りてすみません。」

そう言って晋さんはエプロンを外して葵に返した。

「あ、似合ってたから取らなくても良かったのに……。」

葵はエプロンを受けとると、二人の落ち込んだ姿に気がついた。

「どうしたの?上手に焼けてるじゃない。」

「だって……だって……形が……。」

「うぇええええ……。」

ポロが泣き出した。

「大丈夫大丈夫。ちょっと形が変わっちゃっただけだよ。ね?これ、ハートでしょ?これは熊ちゃん?これは……蛙かな~?」

二人は少しずつ元気を取り戻して頷いた。

「これは……キツネ?」

「これは紅葉だよ?」

「紅葉君?あー!確かに~!」

それ、俺キツネっぽいって事?!


その後、みんなでワイワイ言いながらクッキーを食べた。

「どうしても食べたかったの?それなら私が帰ってから作ったのに。」

「うん、今日父の日だから、紅葉と晋さんにクッキーあげたかったんだ。」

え…………父の日……?そうか……。

「じゃあ、紅葉君と晋さんに沢山食べてもらおうね。」

そう言って葵はハートのクッキーを半分に割って、片方を晋さんに、片方を俺にくれた。


ハートが割れて…………晋さんとシェア……。複雑な気分だなぁ……。


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