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雨の日


75


白いプランターに植えた苺の葉が、雨に打たれて踊っていた。畑までの小道にウシガエルが訪れる頃……ウシガエルと思っていたのはヒキガエルだったらしい。ポロがそう言っていた。日差しはどんどん強くなり、雨の日も多くなってきた。もうすぐ梅雨だ。


梅雨入りの前に、姉に早く帰って来て欲しいと言われ、母は台湾へ帰る事になった。

「若葉は私の事、家政婦か何かと勘違いしてるんじゃないかしら?」

なんて、姉への文句を言いながら。母の日は、すっかり忘れていて何も用意できなかったから、ルンとポロにカーネーションの折り方を教えてもらって、折り紙のカーネーションを母に渡した。すると…………母に怒られた。

「小学生じゃあるまいし、大人が折り紙だけなんて格好が悪い。」

まぁ、確かにそうだけど……母さん……。

「でも、今回は親孝行してもらったから、これはありがたくもらっておくわ。ありがとう。」

「親孝行……した?どこが?」

「婚約したじゃない。それが一番の親孝行よ。じゃあね!結納の日取りが決まったら教えて!次は若葉達と帰って来るから!」

そう言って帰って行った。結婚が……親孝行なのか……?



母が帰って、ルンとポロは少し寂しそうにしていたけど、すぐに元気になった。


そして、雨が降っても、ルンとポロは元気だった。

「ただいま~!」

「お帰り~!」

「どうしたの?」

俺がちょうど、倉庫での作業を終えて帰って来ると、玄関で二人を出迎えていた葵が驚いていた。二人はびしょ濡れだった。

「えーと、あの~あのね、今朝、長靴と傘を持たせたと思うんだけど……。」

二人は気まずそうにしていた。こうゆう時は必ずと言ってもいいほど、何かやらかした時だ。ルンは傘を持たず全身泥だらけ、ポロは傘を握りしめ全身びしょ濡れ、ポロはさらに長靴も履いていていない。


葵は一度ため息をついて話を進めた。

「まず……ポロはどうして長靴を履いていないの?」

「長靴は……外に……」

「まだまだ、まだ必要なの。」

ルンがそう言った後、二人は黙った。葵はもう一度ため息をついて、話を変えた。

「じゃあ、ルンの傘は?」

「傘は……外に……。」

嫌な予感しかしない。俺は濡れた上着を玄関の壁のフックにかけ終えると、軽く外を見に行った。


こ、これは…………!!確かにこれは、家に持ち込む勇気はなかなかないだろう。外の自転車置き場には、蛙の卵の入った長靴と、バッキバキに骨の折れた傘があった。ああ……これは重症ですね。完治不可能ですね。絶対怒られるコースですね。


「ごめんなさい……。」

風呂から出てると、二人は葵に謝った。そして、食卓につくと、二人の説得の時間が始まった。

「あのね、あのね、あーちゃん!お願いお願い!お願い!」

「お願いお願いお願い!」

「うわぁ……。二人のそのお願いお願いお願いは嫌な予感しかしないなぁ……。」

葵はヘビや蛙が苦手だ。二人はどうやって葵の許可を得るつもりだろう?俺は口出しせずに二人を見守った。


「か、蛙!?蛙の卵を長靴に入れて取って来た!?すぐ!すぐに帰して来て!かえっちゃうから!すぐかえっちゃうから!」

いや、そんなにすぐかえらないだろ?

「蛙の卵が何になるか知ってる?」

「それは蛙の卵だから蛙しかないよね?鶏の卵なら食べられるんだけどねぇ。」

「晋さん、チビの卵食べちゃダメだよ?」

晋さんがそう言うと、ポロは晋さんに釘を刺していた。最近、晋さんは箸も持てるようになって、食べるのが上手い熊に進化していた。


「あーちゃん、蛙の卵がかえったら蛙じゃなくて、おたまじゃくしになるんだよ?」

知ってる。知ってるけど、蛙じゃないからOK~!とはならないと思う。

「それ……チャックつき袋に入れて冷凍庫に入れていい……?」

割りとなんでも冷凍保存するとは思ってたけど、さすがにそれは…………しかもその卵、永遠にかえらないよね?永遠に冷凍庫入れておくつもりなのか?

「それ、いいね!ずっと卵のまま見てられるね!」

名案じゃないから!ヤメテ!それ悪趣味だから!!


「そんなに見ていたいの?」

「うん、だって可愛いもん。」

え?卵……可愛いか?

「うん、あーちゃんの水玉のワンピースの柄みたいで可愛いよね!」

ポロ…………それは違う…………。


葵はもう二度とあのワンピースを着る事はないだろう。白地に、黒い水玉のワンピース……。その後、晋さんが冷静に言った。

「オタマジャクシが蛙になったら、蛙を食べにヘビが出るね。注意しないと。」

いや、確かにそうなんだけど……晋さんの声、葵に聞こえなくて良かった……。


それから話題は、重症の傘について移って行った。

「いや、だからさ、どうしてポロが売られた喧嘩をルンが買うんだ?」

「ポロが弱いからだよ!」

ちょっ!ハッキリ言ったよ!

「待って紅葉君、喧嘩じゃないから。戦いごっこ。ポロは傘を壊したくなかったんだよね?偉いね。」

「本当にポロは優しいね。」

葵と晋さんがポロを誉めると、ルンが言った。

「ポロが戦わないから私が代わりに戦ったんだよ!?どうせ傘なんて、ポロはアメンボすくうのに使ってただけじゃん!」

傘は…………何かをすくう物じゃありません。さすものです。

「二人とも、今度はカッパで行こうね……。ポロは風邪引くし。」

結局、傘を持っていても持っていなくても、正規の使い方はされない事が判明した。


「ルン、男の子と喧嘩して大丈夫なのか?」

「出た、紅葉君の心配性。大丈夫だよ。でも、ルン、今度からは傘でチャンバラは止めてね。新聞紙とかでやって。危なくないし。」

それ男の子に言う台詞だよな?

「新聞紙は濡れたらぐにゃぐにゃになっちゃうよ!」

「じゃあ、雨の中で戦いごっこは止めて。雨の日は早く帰っておいで。クッキー作ろう。」

食べ物で釣る作戦か~!

「クッキー!作る~!」

「僕も!僕も!」


雨の日はクッキーを作る約束。ルンとポロはとても楽しみにしていた。


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