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ホームシック


73


「な、何これ!?泥棒!?泥棒に入られたの!?」

部屋の凄惨さに、葵は驚いていた。部屋は、半年前ルンとポロを連れて、慌てて出てきたままだ。


東京の住んでいたマンションは売る事にした。その手続きやら引っ越し準備やらで、今夜はここに泊まる事になった。葵と初めてのお泊まりドキドキ……とか言ってる場合じゃないほどの部屋の荒れようだ。あの二人にあちこちイタズラされてる……今さら気づくなんて……。どんだけいっぱいいっぱいだったんだ?


明日は引っ越し業者が来たり、晋さんの家族に会いに行ったり、大忙しだ。

「あ!そっちは……!!」

行かない方がいい。


そう言おうと思ったら…………


ガチャン!!と、キッチンで音がした。

「何!?トラップ!?」

「いや、それは……」

「紅葉君、これ、独特の防犯方法だね。割れたお皿の上に雑誌が乗ってるって気づかないで、素足でこれ蹴ったらアウトだね。」

葵がスリッパを履いていて良かった……。ルンが割った皿がそのままだった。狼の姿では片付けられず、そのままだった。

「ゴルフクラブがどうしてこんな所に……?これも防犯方法?犯人に武器渡すようなもんじゃない?」

いや、だから違うって。


廊下に落ちていたゴルフクラブに気がついた葵は、拾って持って来た。

「あ~そういえば、それ、メロン割りに……」

「メロン割り?!これでメロン割ってたの?」

「あ、いや、未遂だよ未遂!」

色々と説明が難しい。


「これ……血?」

「はぁ?!どれ?」

ゴルフの先に赤い何かがついていた。

「これ……………………朱肉?うわ~びっくりした。今、完全に事件に巻き込まれた!って思ったよ。」

それ何?殺人事件って事?

「ゴルフクラブ触っちゃった私が事件の容疑者になって……紅葉君は針で眠らされて、寝てる間に喋り出して事件の謎が解かれるのかと思った。」

ちょ……それ……


「必要な書類はこんなもんかな……。」

「本当にこれでいいの?本当は紅葉君はこっちで暮らしたいんじゃないの?」

「いいんだよ。住めば都。葵のいる所が俺の帰る所だから。」

自分で言ってて恥ずかしい……。そう言ってごまかしているけど、本当は…………俺もそのうち、晋さんみたいにずっと人間に戻らない時が来る。その時は……あの山に……


「コーヒー飲む?半年前のだけど。」

「大丈夫かな?」

「死にはしないと思う。」

葵は半年前のコーヒーの粉を持って来て、キッチンに戻ってコーヒーを入れた。


「全て謎が解けた!じっちゃんの名にかけて!じっちゃんの名、とかけまして~」

こらこら!探偵違いな上に、かける違い……。

「歯ブラシと解く~」

「その心は?」

「どちらも葉がつくでしょう?」

え?これかかってる?ありなの?確かに俺のじっちゃんの名前には葉がついてるけど……。

俺の微妙な反応に不満なのか、葵は割れた食器の入った段ボールを俺に渡しに来た。

「やっぱりルンとポロも連れて来れば良かった……。」

「まぁ、また今度、両家顔合わせの時にでも、ご両親に会わせられるよ。」

葵の両親には、ルンとポロの事も話した。本当の所どう思ったのかはわからないが、葵が大丈夫ならと言ってもらえた。

「そうじゃなくて…………落ち着かない。」

そう言って葵は家に電話をかけた。


電話には、まずは母さんが出たようだ。

「もしもし?あ、葵さん?こっちは大丈夫よ?二人は今寝る準備してる所。かわる?」

「あーちゃん!」

「ルン、ばーばといい子にしてる?ポロは大丈夫?」

ふと、思った。

「ルンは大丈夫。ポロにかわるね!」

「あーちゃん……僕……」

「うん、うん。私も寂しいよ。明日には帰るからね。」

多分、葵はホームシックにかかってるんだ。

「紅葉君?うん、いるよ?かわるね。」

そう言って俺に携帯を渡して来た。俺が二人と話をしていると、コーヒーの香りがしてきた。


電話を切ると、寂しさが少し残った。あの二人が未来へ帰ったら、こんな風に電話する事もできない。


俺が、ソファーに座ると、葵がコーヒーを持って来てくれた。

「ありがとう。」

「半年も寝かせたから美味しいと思う。」

「いや、絶対不味くなってるって。これ、ありがとう。」

そう言って葵に携帯を返した。

「どうしたの?紅葉君元気ないね。ホームシック?」

「それはそっちじゃないの?」

「バレた?」

葵はそう言って少し笑った。そして、自分コーヒーを持って隣に座った。


「ラーメン美味しかった~!ラーメン久しぶり~」

「ラーメンで良かったのか?せっかくならもっとイタリアンとかフレンチとか……」

葵と夕食に何がいいと訊いたら、即答でラーメンと答えた。それも、激辛ラーメン……。

「だって、田舎には美味しいラーメン屋なかなかないし、子供と一緒だと辛い物なかなか食べられないし……アジアン料理と迷ったけど、今日はなんか疲れたから激辛かな?と思って……。」

彼女なりのストレス発散だったらしい。


「あーあ。…………早く帰りたい。」

葵は正直に、本心を言葉にしていた。

「私ね、東京に来ていいことなかった。」

「そういえば、葵、高校卒業してどうしてた?東京なら大学とか専門学校とかあちこちに……」

「フリーター。なんとなーくバイトして、売れない役者の追っかけしてた。」

えぇええええ!初耳!!

「何だかふわふわしてたの。ただ、都会の波に流されて、ふわふわふわふわ漂ってた。」

「でも、あの家にはほとんど住んでないって……」


「お義父さんが来てからは……一人暮らししてた。狭~い部屋でね、窓の外から見えたのは、隣のビルと狭~い空。風も全然入って来ない。自由に見えて、檻みたいだなぁ……自分は一生ここにいるのかと思ったら嫌になって、新宿御苑に行ったの。」

そこでどうして新宿御苑……?

「空は広いけど、綺麗すぎて、まだ何か足りないな~って。思って、高尾山に行ったの。」

さらにアウトドアに……。

「気がついたら紅葉君の家にいた。」

話飛び過ぎ!!

「だから……都会はふわふわしそうで不安になる。ふわふわして、流されそうで怖い。」

「じゃあ、ゲームするか?」

「ゲーム?どんな?」

俺は葵を元気づけようとゲームを提案した。


「里梨家を思い出していくゲーム。思い付かなかったら負け。じゃあ、俺から、ルンとポロ。」

「お母さんと晋さんもね。」

「藤田のじっちゃん。」

「お気に入りの枕」

「それって葵、枕がかわると寝れないタイプ?」

「負け?もう負けなの?」

「えーと、じゃあ、ドジョ子」


二人で思い出しては言葉を並べた。


「星空。」

「川の大きな石。」

「ウシガエル。」

「あれ、本当に大きいの!」

「あれ?負け?負けか?」

「まだまだ。ヤモリ!」


やがて、眠くて少しうとうとしてきた。

「葵がふわふわしてたって聞いて、少し羨ましかった。何も気にせず、ふわふわしていられるって幸せだよ……」

「私はふわふわが嫌だったんだよ?」

「俺は少しはふわふわしたかった。」

眠い……。でも、せっかく二人きりなのに…………


「紅葉君、ふわふわしてる。」

「え?今?確かに無職だし。」

「そうじゃなくて、狼に戻ってるよ?」

ギャーーーー!!本当だ!!腹の毛ふわふわしてる!!なんでこのタイミング!?


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