田植え
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怒ってる?……怒ってるよね?
「…………。」
朝から田植えの準備をしている葵が…………全然喋らない。
「…………怒ってる?」
「…………別に?」
出た~!エリカ様ばりの、別に?出た~!!怖いよ~!めちゃくちゃ怖いよ~!
殺伐とした雰囲気の中、田植えが始まった。葵は1人で借りて来た田植え機を動かしていた。田んぼの形が四角じゃないから、隅の方は手で植える。稲の苗を母は等間隔でさっさと植え終えて、俺と晋さんの所に来た。
雰囲気を察して母が言った。
「困ったわねぇ~。やっぱりミミズかしら?」
雰囲気を察して晋さんが言った。
「ミミズだろうね。」
「それはわかってるよ!それは、何度も謝ったんだけど……。」
「あんた、何度も謝ればいいってものじゃないのよ?」
いや、じゃあどうしろと!?
「女はやっぱりブランド物のバッグかしら?」
それは母さんの趣味嗜好ね。
「僕の妻はお花やお菓子を好んだよ?」
ちょっ!晋さん奥さんいたの!?
「紅葉君!補充用の苗持って来て~!」
「了解!次代わるよ葵!」
「いい!」
何でそんなに意地を張るんだよ~!俺が苗を運んで行くと、無言で機械にセットして黙々と作業を続けた。
そして、あっという間に昼になった。なんだろう……。今日はルンとポロが学校でいないから……静かだ。いつもより余計に、トンビの鳴き声が大きく聞こえる。ピーヒョロロ、ピーヒョロロ気になる……。
「紅葉君のお母さん、お手伝いありがとうございます。」
「やーね!手があるんだから手伝うのは当たり前よ。あ、そうだ!挨拶にはいつ行くの?」
「挨拶……?」
「結婚するなら、葵さんのご家族にも挨拶しないと。」
お茶を入れていた葵の手が止まった。あ…………そうだ!家族の話は地雷だった……。そうか!!これか!!え?これなのか?
「いや……まだ……。」
「こうゆうのは勢いよ?私、しばらく残って子供達の事預かるから、行ってらっしゃいよ。どうかしら葵さん?」
それは…………嫌って断りづらいだろ?それはずるいよ母さん。
「そうですね。実家に連絡してみます。」
え?あっさり承諾?じゃあ、実家の事じゃないの!?え?そうなの?もうわかんねぇえええ!!
俺が頭を抱えていると、ルンとポロが学校から帰って来た。
「ただいま~!」
二人は軽トラックの助手席にランドセルを投げ込んで、ほとんど苗で埋まった田んぼを見てポロは感動していた。
「すごーい!」
ルンは遊び場が減ったと思ったのか、つまらなそうだった。
「もっと泥遊びしたかった~!」
「じゃあ、少し植えてみる?」
「いいの?」
葵は少し考えた。二人が田植えをする→泥だらけ→洗濯物増加。確実にそう考えたよね?
「じゃあ、端の方植えてね。」
「はーい!」
ルンとポロは服を脱いで、下着姿になって、田植えを始めた。ポロは泥にハマってすぐに身動きできなくなった。すると、晋さんがポロを引き上げていた。晋さん、何?その手慣れた感じ?もしかして、ドジョ子捕まえる時もそんな感じだった?一方ルンは素早く走り、泥に足を取られて転んだ。あっという間に全身泥だらけになっていた。
「ばーばが教えてあげる。3、4本をこのくらい、等間隔に刺すの。」
「ばーば、この辺?」
「もうちょっと空けようか?」
ルンはもう少し離して苗を泥に刺した。
「出来た~!もっともっとやる!」
そう行ってルンはどんどん植えて行った。その後に続いて、母さんがルンの植えた苗を植え直していた。ルンの植えた苗は、斜めに刺さっていたり、苗が横たわって浮いていたりしていた。
ふと、ポロは?と思って見ていたら、既に泥にハマり過ぎて、身動きできず泣いていた。それをまた晋さんが救出していた。ポロはもう脱落だな。ポロは下着を脱いで服を着た。
「ポロ、じゃあ、片付け終わったら川釣りに行くか?」
「うん!僕、ミミズ持って来る!」
待て待て!ミミズは…………今は…………
「こっちは任せて、釣りに行って来たら?」
「あーちゃん行かないの?」
Tシャツから頭を出しながら、ルンは言った。
「ミミズがちょっと……。」
「あ、じゃあ、そっち頼んでいいかな?」
「うん、楽しんで来てね!」
何だか気が引けるけど、ここは開き直って川釣りに出掛けた。