シロツメクサの花冠
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それは、少ない父の記憶。父は俺が物心ついた歳には、当たり前に家にいないのが、当たり前だった。今思えば、それくらいから狼になっていたんだろう。
母の日に、子供の時シロツメクサの花冠を母にあげようと作っていた。最後に輪にする所がなかなかできないで苦戦していると、珍しく父に声をかけられた。
「こんなものも作れないのか?」
俺は父が怖かった。叱られているのかと思って涙がでた。
「そんな事で泣くな。教えてやる。ここ、押し込んだだけだと外れやすい。新しく2、3本止めてみろ。ほら、やってみろ。」
そう言って父は俺に作りかけの花冠を渡した。
思い出というほど大事な話じゃない。なんて事のない、たわいもない話だった。
そんな事を思い出していたら、二人が庭で遊んでいた。
「見つけた!ポロ!四つ葉のクローバー見つけたよ!」
「どこ?僕も見つける!」
熱が下がったポロは早速、庭で遊んでいた。
「あー!ポロ!やっぱり外であそんでる!熱下がったからって外で遊んだらまた熱上がるよ?病み上がりなんだから中で遊んで~!」
葵が二人に気がついて玄関から叫んだ。
「あーちゃん!見て見て!こっち来て!ここ、四つ葉のクローバー!」
「どこ?」
ルンに呼ばれて、葵は外に出て来た。
「本当だ~!」
「何?何?」
母さんまで外に出て、四つ葉のクローバーを探していた。
「あった!」
「あら、ばーばも見つけたよ~!」
「僕……僕……」
案の定、ポロは見つけられず泣きそうだった。
女の人は…………幸せを見つけるのが上手い。
なぁポロ、俺達里梨の男は、四つ葉のクローバーと同じで、幸せを見つけるのが下手なのかもしれない。本当はすぐそこにあるのに、気づけない。彼女達に教えてもらわなければ、その幸せに、気がつく事ができないのかもしれない。
中でも、リンは幸せを見つけるプロだ。
「見て見て!紅葉!」
そう言っていつも俺に教えてくれる。
「綺麗な花冠だな。自分で作ったのか?」
「ばーばに教えてもらったの!紅葉は、あーちゃんに作らないの?」
「え?」
それは、作れというフリですよね?むしろ半強制?
「ルンが教えてあげる。四つ葉のクローバーもあげるね。」
そう言って俺は庭へ引きずり出された。俺がルンとシロツメクサの花冠を作っていると、母さんがその様子を見て言った。
「そういえば昔、私に作ってくれた事あったわね。」
「覚えてたんだ……。」
「あれ、嬉しかった。だって、お父さんからプロポーズされた時も、花冠もらったの。」
ルンがウキウキして言った。
「花冠もらったから結婚したの?」
「そう。俺に幸せを見つけるのを教えてくれって言われたの。」
「そうだったんですね~何だかロマンチック~」
親父…………。親父はもしかして、俺と同じ事考えて、母さんにプロポーズしたのか?
「紅葉はしないの?」
ルンが、さも当然かのように言った。
えぇええええ!!何!?その無茶振り!
みんなは俺の方を見て、無言のプレッシャーをかけて来た。わかったよ!わかったから!
すると、ルンはどや顔で言った。
「愛を囁かないのは日本人の男のダメな所だって。オリベのハニーが言ってた。」
織部の嫁さん子供に何を教えてるんだ!
「僕知ってる!それ、カイショーナシって言うんだよ!」
「へぇ、ポロは難しい言葉を知ってるのね~!」
母さん、そこ普通に感心するなよ!
「わかったよ!わかったから!とりあえずみんな黙ってて!」
「おおー!!」
みんなは拍手をした。いつの間にか晋さんまで庭に出て来て見物していた。
なんだ?これ…………。子供の前で……いや、全員の前で公開プロポーズって……。クリスマスといい、ホント、なんなんだよ……。
俺はルンと作ったシロツメクサの花冠を、葵の頭に被せて、四つ葉クローバーを差し出して行った。
「これから…………ずっと、一生、俺に幸せを教えてください。」
葵は四つ葉のクローバーを受け取って言った。
「こちらこそ。私にも、紅葉君の幸せを教えてね。」
葵は笑顔だった。
「ハグ!ハ~グ!ハ~グ!」
「何だよそのハグコール!」
「オリベが、あーちゃんとクータンが仲良くなったらこうしろって~!」
俺と葵は同時に言った。
「オ~リ~ベ~!」
でも、葵は俺に抱きついて来た。
「悔しいけど、織部のいいなりにするか!」
そう言って、葵を抱き締めた。
「あはははははは!」
笑っていた葵が急に黙った。
「……………………。」
「どうした?」
「ぎぃやああああああ!!」
急に葵は俺の肩を押して、俺から離れた。
え?何で?急にどうした?なんか、少し傷つく…………
「む、胸……。」
胸?胸に何かあったか?
「胸ポケットの中!!何なの!?」
「胸ポケット?…………あ!」
胸ポケットから、ミミズが何本も出ていた。
「あ!ミミズ~!」
ポロが嬉しそうに寄って来た。
「嫌~!もう、本当に嫌~!!」
「紅葉~!!あーちゃんが可哀想!!」
「あんた、ホント変わらないわねぇ。大人になってもこうなのね……。」
晋さんだけが、肩を叩いて元気づけてくれた。
「何はともあれ、プロポーズできて良かったね。」
こうして俺は、葵にプロポーズをした。
そして、葵は俺とのハグでトラウマを作った。