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苗植え


67


結局昨日は、改めて代掻きをやり直し、苗植えが今日に延期になった。ルンとポロはゴールデンウィークの中日の平日で、学校へ行った。


玄関では、また1人住人が増えていた。ドジョウのドジョ子。

何故メスと決めつけた?メスなら産卵時期だろ?バケツじゃ可哀想だろ?バケツじゃ……可哀想か……。俺は倉庫から昔金魚を飼っていた水槽を見つけて持って来た。水槽を軽く洗って、水道の水を入れて日の光に当て、2時間後にドジョ子を移し入れた。せめて、暗いバケツから、明るい水槽に……。ドジョ子は嬉しそうに、体をくねらせていた。酸素ポンプも動きそうだ。ポンプのスイッチを入れると、細いチューブから泡が出て来た。

「ドジョ子、これでいいか?」

「えぇええええ~!本格的に飼うつもりなの!?」

俺の様子を見ていた葵が少し引き気味で驚いた。

「え?いや、そうつもりじゃなくて……。」


何だか……こちらを立てればこちらが立たず……?違うか……。



1日遅れの苗植えが始まった。苗を水につけているとふと思った。

「……これ、種から育てたのか?」

「うんん。今年は忙しかったから買った苗なの。」

それって、俺が狼になっていた時期か……?子供の世話しながら農業は大変だよな……。そう考えていると、葵は鍬で器用に畝を作っていった。

「早っ!上手いな!」

「え?全然上手くないよ?そこら辺のおじいちゃんおばあちゃんの技に比べたら、私なんか猿真似だよ?」


畝を作って黒いシートを敷き、黒いシートの穴の所を小さなスコップで穴を開けると、植えてあった黒いポットを外し、苗を植え始めた。

「肥料とかは?」

「2週間前に混ぜといた。けど、下にも肥料入れようか。他の土壌も肥料混ぜてあるから、スタンバイOKなんだ~!」

俺が狼の間に、葵は畑の準備までしていたんだ……。

「後でネギの種も植えよ。あと、きゅうりとトマトはこっちで、トウモロコシとカボチャはあっちね。」

「これ、場所ってどうやって決めてるの?」

「基本的には連作できないから、去年植えた物次第かな?」

意外だった。そこまで考えてやってるんだ。確かに畑って……土壌管理とか、後作の事とかあって大変なんだよな……。

「そこまでやってるんだ……。」

「一応色々考えてやってるんだよ?紅葉君のお母さんにも聞いたり、あとは近所のおじいちゃんおばあちゃんが、色々教えてくれたの。ここに来たばかりの時は何もわからなくて、ここではみんなが私の先生なの。何か困ってる事ないか~?って声かけてくれて、私が様子見てるようで、世話を焼いてもらってるのは私の方なの。」

そう言って葵は一度敷いた黒いシートを剥がして、穴の空いた所を畝の方向に沿って掘りだした。

「本当に好きやってるんだな。」

俺がそう言うと、葵の手が止まった。

「……変……かな?」

「全然。尊敬する。そうゆう所、普通に好きだけど?」

俺の言葉に、葵の頬が少し桜色になった気がした。

「……肥料忘れてた!肥料取って来る!」

そう言って葵は倉庫の方へ行ってしまった。マイペースで少し怖い所もあるけど、基本的には可愛いんだよな……。これ、続き掘っておくか……。


すると、遠くで手を振る人がいた。それは…………懐かしい面影だった。

「紅!ただいま!」


母さんが、帰って来た。


「今何やってんの?」

「ナスの苗植え。今葵の肥料待ちしながら肥料入れる所掘ってる。」

「葵ちゃんの農業の手伝いしてるの?てっきり狼になってるのかと思ってたわよ~!あ、そこもう少し深く掘った方がいい。早く!」

いきなり帰って来て口出し……。母さん相変わらずだな……。


「いいから、家に荷物置いて来なよ。多分、葵は倉庫にいる。」

「はいはい、わかりました~!家まで荷物持ってくれるような優しい息子がいるといいんだけど。どこかにいないかな~?」

母さんはそう言って辺りを見回した。

「はいはい。」

「あ、いたいた。優しい息子いたいた。」


母さんのスーツケースを家まで運んでいると、ちょうど葵がこっちに来ていた。

「あ、紅葉君のお母さん!」

「連絡もしないで帰って来ちゃってごめんなさいね~!全然チケット取れないと思ったら、日本はゴールデンウィークなのね~!台湾に帰るのはゴールデンウィーク明けにするわ。」

「え?台湾、帰るんですか?」

え?帰らないと思ってたの?


「それ、肥料?」

葵の抱えた袋を見て母さんが訊いた。

「あ、そうだ!紅葉君、ポロが熱出したって学校から連絡が来て、これから迎えに行かなきゃいけないの。だから……紅葉君、お母さんにお茶入れて。」

「あーいいのいいの。お茶なんて自分で入れるから。それより、早く学校行ってやって。あんたは苗植えの続きしなさい。」

「あ、紅葉君、肥料入れすぎないでね?あと、最後に水をあげるの忘れないで。あと……」

「いいから。私が見張って口出しとくから。」

「じゃあ、すみません。お願いします!」

そう言って葵は学校へポロを迎えに行った。

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