言われたい
62
そこは…………ポロと二人で、親父を埋葬した場所だった。
やっぱり……。
雲間から月が覗くと、そこには小さな背中が、月明かりに照らされていた。
「…………ポロ。」
どう…………声をかけていいかわからなかった。
「家に帰ろう。ルンと葵が待ってる。」
「どうせ……僕は……」
どうせ…………?
「どうせ?どうせ僕は何なんだ?」
そう訊いて、いい答えが返って来ない事ぐらいわかっていた。
「どうせ僕はいなくなるのに……どうして探しに来たの?」
そんな事…………言わなきゃわからないか?ならちゃんと言ってやる。
「ポロ、お前を愛してるからだよ。」
「紅葉、ロリコンなの?」
「そーゆー意味じゃないって。」
しかし、ポロはどこでそんな言葉を…………高確率で織部だな。
「そーゆー人を変質者って言うんだって。オリベが言ってた。」
ほらな、やっぱり。
「紅葉、変質者なの?」
「どこの子供が親に向かって変質者とか言うんだ?」
「親って…………僕達の言った事、本当に信じるの?」
俺が……二人を信じてないとでも思ってたのか?愛情というのは、案外伝わっているようで、伝わってないのかもしれない。
「あーそうだよ。俺はバカだよ!どうせいなくなる子供を、本当の子供だと思い込んで溺愛するような大馬鹿者だよ。」
「紅葉は大葉じゃないよ!」
「大馬鹿な?自分で訂正すると悲しいんだけど。」
俺はポロの頭に手を置いて言った。
「なぁ、ポロ、ポロはどうせ死ぬからって言って、チビを見捨てるのか?」
俺に頭に手を置かれたまま、ポロは首を横に振った。
「どうせ大人の鶏と暮らすから、その頭を撫でてやらないのか?」
ポロはまた、首を横に振った。
「どうせ化け物の子だから、生きる価値は無いのか?」
ポロは泣き出した。
「そんな……そんな事……やだよ……。」
「俺だって、そんなのやだよ。」
俺は泣きじゃくるポロを抱き締めた。
「なぁ、ポロ、誰かに、いいよ、いいよ。それでもいいよって言ってもらいたいよな?それでもいいから…………それでもいいから生きていて欲しい。そう…………言われたいな。」
しばらく、ポロが泣いていると……妙な静けさが辺りを包んだ。嫌な予感がした。狼だったら、もっと早く気がついたのかもしれない。
そこには…………その暗闇には…………熊だ。熊がいる。やっと気配に気がついた。
えーと、野生の熊に遭遇したらどうするんだっけ?
俺はポロをゆっくり抱き抱えて、後退りした。
「待って下さい!」
「え…………?」
待て?誰に話かけられた?俺とポロは顔を見合わせた。
「ポロ、今喋った?」
ポロは首を横に振った。そうだよな?ポロじゃないよな?
「え…………あ…………」
「待って!逃げないで!」
いや、逃げるでしょ。逃げるよね?野生の熊と出会ったら絶対逃げなきゃダメだよね?
「その固定観念を捨てて下さい!僕も……言われたいです!!」
え…………?
「いいよ、いいよ。それでもいい。そう言われたいです。」
「家に…………行くか?」
俺達は、何故か熊と一緒に、山を降りた。