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おもてなし


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どうせ…………離れて行くと思っていた人達が訪ねて来た。話を聞くと、宮本と吉野は婚約したらしい。

「そうなんですか。それはおめでとうございます。」

「いや~!先輩を驚かせようと思ったのに残念だなぁ。先輩がいたら先輩の悔しがる顔が拝めると思ってたのに、奥様がいらっしゃるなんて、こっちが驚きましたよ!」

吉野……ヤメロ……。俺がもしこの場にいても、悔しがらないし、ショックも受けないし、祝福もしない。いいからとにかく早く帰れ!!俺は吉野に噛みついて、外に出そうとした。

「いてて。このワンちゃん目つきが先輩と似てますね。」

思わず咥えていた口を離した。

「こら、紅葉!お客様に噛みついちゃダメでしょ?」

葵~!何こいつらもてなしてるんだよ?

「ポロ、もう一度!もう一度葵に行ってくれ!早く帰すようにって!」

「あーちゃん、紅葉が、早く帰すようにってさっきから言ってる。」

「ポロ、気持ちはわかるけど、お客様は紅葉君を訪ねて、遠くからわざわざ来てくれてるの。せっかく来てくれたんだもの。ちゃんとおもてなししよう。ポロも手伝ってくれる?」

ポロは黙って頷いていた。ポロ~!言いくるめられてどーする!


案の定、吉野は酔いつぶれた。

「お料理、どれも美味しかったです。ごちそうさまでした。」

「料理がそんなに得意じゃないので、家庭料理ばかりですみません。」

何言ってるんだよ!葵の料理は世界一だ!もっと自信を持て!


子供達が子供部屋に行くと、宮本さんが言った。

「これで満足ですよね。完璧な妻の姿を見せつけて、文句無しに里梨君の留守を守ったって感じですか?」

何なんだよ!?宮本さん、こんな失礼な奴だったか?

「そうですね。少し意地になってやってた所ありますね。だって…………私には、紅葉君の言葉しかない。明日、朝、目が覚めても残る指輪も、戸籍謄本も、何もないんです。紅葉君の特別だと胸を張って言える証明が、この家で料理を振る舞う以外何もないんですから。」


そんな……俺がちゃんと指輪用意して、もっとちゃんとプロポーズしていたら……葵は受けてくれていたのかもしれない。俺が焦らなければ……。久しぶりに、自分のダメさ加減に酷く後悔した。


「座敷にお布団敷きますね。」

泊めるの!?マジか!?ダメだって!起きろ!吉野今すぐ起きろ!

俺が吉野を咥えようとすると、葵に止められた。

「これ以上おイタする子は外に出すよ?」

そう言って、玄関の外に出されてしまった。嘘だろー!?


外は、もう寒くはなかった。優しい春の風が頬を撫でていく。今夜は月が綺麗だ。桜はもう無いけど、いい夜だ。狼人間にはうってつけだ。と言っても月を見ても何もならないけど。風に雲が流されて、月が見え隠れしていた。困ったな……何とかして中に入りたい。俺は子供部屋の窓を前足でカリカリした。すると、まだ寝ていなかった二人が窓を開けて入れてくれた。

「紅葉、何で外にいるの?夜の散歩?」

「吉野を噛もうとしたら葵に外に出された。」

「あの人達まだいるの?」

恐らく、このまま朝までいると思うぞ?

「ルン、あの人なんかやだ。あれがママじゃなくて良かった。紅葉があーちゃんを選んでくれて良かった!」

そう言われると、何だか恥ずかしい。

「な、何言ってるんだよ?まだママじゃないんだろ?」

「紅葉がグスグズこのまま結婚しなきゃね。私達も産まれない。」

私達も産まれない……。やっぱり……二人は未来から来た子供なのか……。


あの二人が気になる所ではあるけど、居間に行くに行けず、子供達と寝る事にした。


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