もう1人の来客
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思い当たる所と言ったら、もう、ここしかなかった。
そこは…………ポロと二人で、親父を埋葬した場所……。
やっぱり……。雲間から月が覗くと、そこには小さな背中が、月明かりに照らされていた。
「…………ポロ。」
どう…………声をかけていいかわからなかった。
「家に帰ろう。ルンと葵が待ってる。」
「どうせ……僕は……」
どうせ…………?
「どうせ?どうせ僕は何なんだ?」
そう訊いて、いい答えが返って来ない事ぐらいわかっていた。
「どうせ僕はいなくなるのに……どうして探しに来たの?」
そんな事…………言わなきゃわからないか?
それは…………わからないか…………。俺も、以前はわからなかった。
俺も、昔、どうせすぐ離れて行く人だから。そう思っていた。
人は秘密があると、多くは語らない。俺は秘密がバレるのが怖くて、人と深くは付き合わなかった。もちろん、女の子と付き合ってもそれは変わらなかった。自慢じゃないけど、好きだと言ってくれる子は、幸い何人か存在した。でも、彼女達はいつしか、二人の埋められない溝に気がついて、すぐに離れて行った。宮本さんは、そのうちの1人だ。
「ポロ、やっとチビを外に出したのに……それじゃチビは大人の鶏と暮らせないよ?」
何となく、ポロの心の声が聞こえた。大人の鶏と暮らさなきゃダメ?ずっと一緒にいちゃダメなの?
「ポロ、チビは連れて帰れるのか?連れて帰れないなら、残されたチビの事も考えてやれよ。チビがこの先困らないようにしてやるのも、飼い主の役目だぞ?」
「僕……僕……飼い主じゃないもん!チビの友達だもん!」
「わかった。もうしばらく玄関の段ボールで飼おうか。ね?」
そう言って葵はポロの頭を撫でた。そして、外の段ボールを中へ入れようと、玄関を開けると…………
そこにはまた、知った顔の人間がいた。
「あの、ここ、里梨さんのお宅ですか?」
「そうですけど……どちら様ですか?」
「僕、吉野修一と申します。里梨先輩の元後輩です。里梨先輩の奥様ですか?」
辞めた会社の後輩が何の用だよ?今、こっちは大学の友達が来てて手一杯なのに、何でお前まで来てんだよ?二人とも、どうして実家に来たんだ!?ここは気軽に来るような観光地じゃねーぞ?
「以前住んでいたマンションに行ってみたのですが、ずっとお留守のようで、携帯も繋がらないし……全く消息がつかめないので……こちらかと思いお伺いしました。すみません、ご連絡もせず……何せ急いでいたのもで……。彼女、来てますよね?」
吉野は、宮本さんの白いハイヒールを見て言った。え…………?吉野、宮本さんとどうゆう関係?そう思ったのは、俺だけじゃなかった。
「宮本さんですか?中にいますよ?」
「すみません。お邪魔します。」
そう言って、吉野も家の中へ入って行った。
玄関でチビと遊んでいたポロに言った。
「ポロ、葵に伝えてくれ。あの二人は、終電までに帰ってもらうように。」
嫌な予感がする。今さら関係ない二人だけど…………バレるのは怖い。みんながみんな、織部みたいな訳じゃない。昔から、守って来た秘密だ。誰にも言わず、誰にもバレず。この姿が自分だとバレて、気持ち悪いだの恐ろしいだの言われて傷つくのが、単純に嫌だった。
今は…………一番怖いのは、葵に背を向かれる事。葵に嫌われるのが、一番怖い。