来客
58
ポロが…………いなくなった。
「おーい!ポロ~!どこだ?」
学校も、遊び場の川も野原も、ポロが行きそうな所は全部探した。
どこだ…………?ポロ…………!!
俺は走った。里山を駆け回った。
事の始まりは、ある日二人が学校から帰って来た時の事……
俺はいつものように縁側のある廊下で寝ていた。春の陽気が暖かい。もうすぐ日が傾いて来るから、今のうちに日の光を浴びてのんびりしておこう。
すると、ポロが叫び出した。
「いない!チビがいない!」
チビが見つからない様子だった。そう、ポロがヒヨコにつけた名前はチビだっだ。それ、確実にデカイ鶏になってチビじゃなくね?ってなる話だ。
「どうした?チビ、まだ見つからないのか?」
「紅葉が食べちゃったんじゃない?」
ルン、なんて事言うんだよ!!あんな不細工な鳥…………いや、あんな大きな鳥食べる訳ないだろ?
「でも、紅葉野生でしょ?あのヒヨコ鶏だったし…………」
いやいや、野生じゃないし!山で暮らした事一度もないし。
二人はあからさまに疑いの目で見て来た。やめてー!そんな目で見ないでー!濡れ衣だから!!完全に濡れ衣だから!!ルンが無理やり俺の口をあけると、口から羽が出て来た。
「これ…………チビの羽?」
「違う!それはさっきチビの段ボールを咥えて運んだから……。」
「どうして食べたの?」
いやいや、それ聞き方間違ってるから!
「まず、どうして運んだの?って訊いてもらえませんかね?」
「どうして運んだの?美味しそうだったから?」
どう見ても不味そう……
「いや、あの、葵が段ボール汚くなってきたから新しくしてやろうって……。」
「じゃ、あーちゃんが知ってるかもね~!」
二人は葵の所へ走って行った。
ったく。童話とかの影響を受け過ぎだ。ヤギを丸飲みとか、子供を丸飲みとか、そんな物騒な事する訳ないだろ?それに俺は、人間の食べ物しか食べたく無いんだよ!もっと言えば、葵の料理しか食べたくないんだよ!
「あーちゃん知らないって!やっぱり紅葉食べた?」
子供達が戻って来た。すると、ポロが来客に気がついた。
「あれ…………誰?」
え?どれ?そう思って玄関を見ると…………そこには…………宮本さん?宮本さんが訪ねて来た。今さらどうして?宮本さんは大学の時に短期間付き合った人だった。いわゆる元カノ?実家の住所なんか教えたっけ?それより、何の用でこんな所まで?
宮本さんがインターホンを押すと、エプロンで手を拭きながら葵が出た。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
二人はお互いに誰だ?という顔をして挨拶をしあった。
「はじめまして。私、里梨君の大学の同級生で、宮本志保と申します。あの、里梨君は……。」
「あ、紅葉君のお友達……。紅葉君は今……出ていて……」
「じゃあ、待たせてもらってもいいですか?」
葵は明らかに困っていた。
「いや、あの……えっと……その、いつ帰って来るかわからないんで……」
「あの……里梨君のお姉さんですか?」
ちょっ!同学年だよ!そこはせめて、妹さんですか?あ、お姉さん?お若いですね~!って流れだろ?いや、でも姉じゃないんだけど……。
「姉では……ないです。」
「え……じゃあ、妹さん?」
ダメダメ!宮本さん、そのあり得ない感出したらダメ!葵は無言で首を振った。
「ええっ!!じゃあお母様!?」
それこそあり得ないからー!!
葵は宮本さんを居間に通して、話を聞く事にした。
「あの、里梨君とはどうゆうご関係ですか?」
「どうゆう……関係?」
葵はどう答えていいかわからず困っていた。
「答えられない関係ですか?」
婚約者って答えてくれればいいのに……。
「いえ、高校の同級生です。」
ですよね~!
「お名前、お伺いしてもよろしいですか?」
「あ、名乗っていなかったですね。すみません。失礼しました。伊沢葵です。」
奇しくも、大学の同級生VS高校の同級生の出来上がりに、俺は狼の姿で、ただ耳を立てる事しかできなかった。
「高校の同級生がどうしてここに?」
「住み込みの家政婦みたいなものです。」
それを聞いたルンは、走って葵の元へ行った。
「あーちゃん、この人…………」
まさか…………この人が母親とか言わないよな!?
「この人…………誰?」
そう言ってルンは葵の後ろに隠れた。
「紅葉君の大学の同級生なんだって。綺麗なお姉さんだね。」
何言ってるんだよ!葵の方がこの化粧オバケより、数百倍綺麗だよ!絶対にすっぴん見せないんだぞ?逆に怖いだろ?!
すると、ポロが慌てて外に出て行った。
「ただいま。」
そう言って、しばらく姿を消したポロが帰って来た。ポロの姿は、この数分の間で驚くほどボロボロになっていた。そして、毛があちこち抜けたボロボロのチビを大事そうに抱いていた。
「どうした?ポロ?」
「猫みたいな動物がチビをいじめてたんだ……。」
「猫みたいな動物?それ、ハクビシンじゃないのか?結構獰猛だから気を付けた方がいい。大丈夫か?ポロ?」
春になって、野生動物が冬眠から目覚めて、キツネやタヌキなんかは人里にまで餌を探しに降りて来ていた。
ポロを見た葵は驚いた。
「ポロ!どうしたの?その格好……。」
「……ごめんなさい。どうしてもチビを守りたくて。」
「外で飼うなら小屋が必要だ。小屋ができるまで家の中で飼えるようにお願いしてみて。」
俺がそう言うと、ポロは言った。
「外だとチビがやられちゃうから……チビを中に入れさせて。お願い。」
また、ポロはポロポロと涙を流していた。