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来客


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ポロが…………いなくなった。

「おーい!ポロ~!どこだ?」

学校も、遊び場の川も野原も、ポロが行きそうな所は全部探した。

どこだ…………?ポロ…………!!


俺は走った。里山を駆け回った。


事の始まりは、ある日二人が学校から帰って来た時の事……


俺はいつものように縁側のある廊下で寝ていた。春の陽気が暖かい。もうすぐ日が傾いて来るから、今のうちに日の光を浴びてのんびりしておこう。


すると、ポロが叫び出した。

「いない!チビがいない!」

チビが見つからない様子だった。そう、ポロがヒヨコにつけた名前はチビだっだ。それ、確実にデカイ鶏になってチビじゃなくね?ってなる話だ。

「どうした?チビ、まだ見つからないのか?」

「紅葉が食べちゃったんじゃない?」

ルン、なんて事言うんだよ!!あんな不細工な鳥…………いや、あんな大きな鳥食べる訳ないだろ?

「でも、紅葉野生でしょ?あのヒヨコ鶏だったし…………」

いやいや、野生じゃないし!山で暮らした事一度もないし。


二人はあからさまに疑いの目で見て来た。やめてー!そんな目で見ないでー!濡れ衣だから!!完全に濡れ衣だから!!ルンが無理やり俺の口をあけると、口から羽が出て来た。

「これ…………チビの羽?」

「違う!それはさっきチビの段ボールを咥えて運んだから……。」

「どうして食べたの?」

いやいや、それ聞き方間違ってるから!

「まず、どうして運んだの?って訊いてもらえませんかね?」

「どうして運んだの?美味しそうだったから?」

どう見ても不味そう……

「いや、あの、葵が段ボール汚くなってきたから新しくしてやろうって……。」

「じゃ、あーちゃんが知ってるかもね~!」


二人は葵の所へ走って行った。


ったく。童話とかの影響を受け過ぎだ。ヤギを丸飲みとか、子供を丸飲みとか、そんな物騒な事する訳ないだろ?それに俺は、人間の食べ物しか食べたく無いんだよ!もっと言えば、葵の料理しか食べたくないんだよ!


「あーちゃん知らないって!やっぱり紅葉食べた?」

子供達が戻って来た。すると、ポロが来客に気がついた。

「あれ…………誰?」

え?どれ?そう思って玄関を見ると…………そこには…………宮本さん?宮本さんが訪ねて来た。今さらどうして?宮本さんは大学の時に短期間付き合った人だった。いわゆる元カノ?実家の住所なんか教えたっけ?それより、何の用でこんな所まで?


宮本さんがインターホンを押すと、エプロンで手を拭きながら葵が出た。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

二人はお互いに誰だ?という顔をして挨拶をしあった。

「はじめまして。私、里梨君の大学の同級生で、宮本志保と申します。あの、里梨君は……。」

「あ、紅葉君のお友達……。紅葉君は今……出ていて……」

「じゃあ、待たせてもらってもいいですか?」


葵は明らかに困っていた。

「いや、あの……えっと……その、いつ帰って来るかわからないんで……」

「あの……里梨君のお姉さんですか?」

ちょっ!同学年だよ!そこはせめて、妹さんですか?あ、お姉さん?お若いですね~!って流れだろ?いや、でも姉じゃないんだけど……。

「姉では……ないです。」

「え……じゃあ、妹さん?」

ダメダメ!宮本さん、そのあり得ない感出したらダメ!葵は無言で首を振った。

「ええっ!!じゃあお母様!?」

それこそあり得ないからー!!


葵は宮本さんを居間に通して、話を聞く事にした。


「あの、里梨君とはどうゆうご関係ですか?」

「どうゆう……関係?」

葵はどう答えていいかわからず困っていた。

「答えられない関係ですか?」

婚約者って答えてくれればいいのに……。

「いえ、高校の同級生です。」

ですよね~!

「お名前、お伺いしてもよろしいですか?」

「あ、名乗っていなかったですね。すみません。失礼しました。伊沢葵です。」


奇しくも、大学の同級生VS高校の同級生の出来上がりに、俺は狼の姿で、ただ耳を立てる事しかできなかった。


「高校の同級生がどうしてここに?」

「住み込みの家政婦みたいなものです。」

それを聞いたルンは、走って葵の元へ行った。

「あーちゃん、この人…………」

まさか…………この人が母親とか言わないよな!?

「この人…………誰?」

そう言ってルンは葵の後ろに隠れた。

「紅葉君の大学の同級生なんだって。綺麗なお姉さんだね。」

何言ってるんだよ!葵の方がこの化粧オバケより、数百倍綺麗だよ!絶対にすっぴん見せないんだぞ?逆に怖いだろ?!


すると、ポロが慌てて外に出て行った。

「ただいま。」

そう言って、しばらく姿を消したポロが帰って来た。ポロの姿は、この数分の間で驚くほどボロボロになっていた。そして、毛があちこち抜けたボロボロのチビを大事そうに抱いていた。

「どうした?ポロ?」

「猫みたいな動物がチビをいじめてたんだ……。」

「猫みたいな動物?それ、ハクビシンじゃないのか?結構獰猛だから気を付けた方がいい。大丈夫か?ポロ?」

春になって、野生動物が冬眠から目覚めて、キツネやタヌキなんかは人里にまで餌を探しに降りて来ていた。


ポロを見た葵は驚いた。

「ポロ!どうしたの?その格好……。」

「……ごめんなさい。どうしてもチビを守りたくて。」

「外で飼うなら小屋が必要だ。小屋ができるまで家の中で飼えるようにお願いしてみて。」

俺がそう言うと、ポロは言った。

「外だとチビがやられちゃうから……チビを中に入れさせて。お願い。」

また、ポロはポロポロと涙を流していた。


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