果たし状
56
葵の部屋の前に行くと、ドアの前に張り紙が貼ってあった。
それには、カレーのレシピが書いてあった。これ、作れって事なのか?
俺は、ドアをノックした。反応がない。
籠城するつもりか?こっちの落城はルンより手強そうだな……。そう思って、ドアのカレーのレシピを取って、1階に降りた。
「里梨が何か咥えて来た!果たし状か?」
まぁ、そんなようなもんだ。
「織部に料理手伝ってくれって言ってくれ。」
「織部に料理手伝ってくれ。」
「俺、これ手伝うの?別にいいけど?」
俺は、この三人と一匹で見事カレーを作って、葵の美味しいをいただく!
「俺、指令部ね。実践は織部、よろしく!」
「織部よろしく。」
「お、おお!任せろ!やった事ねーけど!」
やった事ない!?そうだった!織部は高校の時、たまにこう呼ばれていた。その名も……ヒトマカセンニン。
「お前今、人任仙人思い出しただろ?バカにすんなよ?」
おお、それはすまん。
「俺はそれポリシーで生きてんだからな!」
それがポリシーかよ!
俺達のやりとり、いや、織部が一人相撲している間に、二人は椅子をシンクの前に持って来て、手を洗っていた。まずは玉ねぎと人参とじゃがいも…………俺が袋を咥えて持って来ると、ルンに怒られた。
「私達がやるから紅葉は咥えないで!そこで大人しくしてて!」
さ、寂しい……!半年前はあんなに一緒に頑張ったじゃないか~!何だか、戦力外通告をされた気分だった。
「はい、これ洗って~!」
ポロは黙って野菜を洗っていた。
「オリベ、玉ねぎくらいは剥けるでしょ?」
いつの間にかルンが仕切っていた。この中で一番葵を手伝っていたのはルンだ。織部はルンに渡された玉ねぎをそのままポロに渡した。
「これどうやって切るんだ?」
「乱切りだよ?あーちゃんが言ってた。」
織部は包丁と人参を持って少し考えた。
「わかんねー!とりあえず切っておけばいいか!」
待て待て!織部!それは人を刺す時の持ち方だ!
「ポロ、織部包丁の持ち方おかしいって言って!」
「オリベ、包丁の持ち方……」
「え?ああ。」
織部は包丁を持ち直して人参をざっくり四つに切った。
「あ、オリベ、それ皮剥いてない!」
「大丈夫だろ!皮も栄養栄養!」
「せめて、端を切ってよ!ヘタの所!」
人参もじゃがいもも、皮つきのまま切られた。
気づけば、ポロが地道に玉ねぎを剥いていた。織部が、ポロが剥いていた玉ねぎを奪って言った。
「玉ねぎも四つくらいでいいだろ?」
「あーちゃんはもっと切ってた!もっと細かく!」
「じゃ、ルンやってみろよ。」
ルンは玉ねぎを涙を流しながら、一生懸命細かくしていた。
「……目痛い。」
辺りは玉ねぎの臭いでいっぱいになって、みんな涙が出た。
「………これ、美味しく出来たら、ルン、あーちゃんに謝る。」
ルン……。
「ルン、葵は……俺達の事を沢山考えて料理を作ってくれてる。」
「そんなの知ってるよ!毎日見てるもん!」
そうだった。一番葵を見てるのは、ルンだった。
「だから、料理が美味しいのは仕方ないんだよ。葵の料理は、愛がいっぱいつまってるから。」
そうだ。俺達は…………愛されている。
「葵に、美味しいカレー作ってやろう。」
「うん!ルン、がんばる!!」
ルンは玉ねぎを頑張って刻んで、ようやく下ごしらえが終わった。
「下ごしらえはこんなもんか。後は煮込めば出来上がりか?」
「待って!お肉炒めるんだよ?」
「はいはい。フライパン?」
織部がフライパンを出そうとすると、ルンが鍋を出して言った。
「あーちゃんはいつもお鍋に油入れて炒めてたよ。」
「じゃ、そうするか。」
鍋に油と肉や野菜を入れて、火にかけた。鍋温まってから入れるんじゃないの?と、思いつつ、口を出すのはやめた。
しばらくすると、鍋が温まってパチパチ音がしてきた。ギャー!火強くない?
「ルン火弱めて!」
「織部、混ぜて!焦げる!」
鍋に火が入ると、台所いっぱいに玉ねぎの焼ける甘い香りが広がった。織部が木ベラで混ぜて、ルンとポロが水を入れた。
「よし、これでしばらく煮込めばいいんだな。あ、カレールー入れるの忘れてるぞ?」
「ダメだよ!オリベ!ルーは後で入れるの!あーちゃんのレシピに書いてあるでしょ~!?オリベ、よく見て!」
「あ、本当だ。悪い悪い!」
そのレシピの紙には、重要。絶対、煮込んでから!と書いてあった。危ない……。織部と俺で作ってたら確実に先に入れてたな。