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チョコレート


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「紅葉!嫌い!!」

あんなにご機嫌のルンに嫌われた。

「もう!紅葉君のせいだからね!」

あんなに優しい葵を怒らせた。


それは、二人が遠足のお弁当のおかずの相談をしていた時だった。

「あーちゃんの悪魔のおにぎりは本当に悪魔なの。おやつに出るとつい食べ過ぎちゃう……。」

あー、あの揚げ玉の入ったおにぎりか。確かに…………

「ルン…………太った?」

口が滑った。つい、思った事を口にしてしまった。


「…………紅葉!嫌い!!あーちゃんのせいだよ?あーちゃんが美味しいご飯ばっかり作るから……」

いやいや、どんな逆ギレ!?しかも葵に八つ当たり!?ルンは寝室へ行ってしまった。

「ダメだよ紅葉君!ルン、最近体型の事気にしてるんだから!」

「ごめん。ムチムチしててデブ犬みたいで可愛いな~って思ってたからつい……。」

俺は普通に、ルンが適度にぽっちゃりしていて幼児らしい体型でいいと思っていた。

「つい……じゃないでしょ!?私、八つ当たりされたんだけど?」

「うん、ごめん。美味しいご飯ばっかりって…………くくくく……」

全然、誉められてるし。

「だから、笑い事じゃないって!もう、ルンがご飯食べなくなっちゃったら紅葉君のせいだらかね?!」

そんな事ありえるか?あの食いしん坊なルンに限って、そんな事……。そう思っていたら、葵は怒って自分の部屋へ行ってしまった。


俺はいつの間にか、二人を怒らせて、1人取り残された。


ふと、ポロの方を見ると、ポロは庭から採って来た猫じゃらしで、ヒヨコと遊んでいた。それ……猫と遊ぶ草じゃないの?

「なぁ……ポロ、ポロはどう思う?ルンがデブだと思うか?」

「うん。少しね。クラスの子が言ってた。」

ハッキリ言うなぁ……。これくらいの年の子は容赦ないからなぁ……。ポロ、クラスの子が言ってた事は聞いてはいるんだな……。興味がない訳ではないのか?


「なぁ、ポロ、どうして友達作らないんだ?」

どうせいつものように、ルンがいるからいい。そう答えが帰って来くると思っていた。

「どうせ、秋までだから……。」

は…………?

「どうせ…………秋までってどうゆう意味だ?」

「ルンには言うなって言われたけど、紅葉友達作れってしつこいから。僕達、今年の冬には帰るんだ。元々1年の約束だったし……。」

1年の約束?そんなの聞いてないぞ?ルンとポロが帰る…………?そんな事…………考えた事が無かった。


俺が軽くショックで固まっていると、そこへ、織部が家にやって来た。


「ちわーす!あれ?お前今日は犬なの?」

犬じゃねーわ!狼だわ!って…………狼になってる!!


玄関にいた織部はあがって行けとも言っていないのに、勝手に上がり込んでいた。

「この前エンドウ豆もらったから、嫁にこれ持って行けって…………あれ?伊沢さんは?」

「今取り込み中。」

「…………。」

あれ?伝わってない?

「あ~!お前、犬だと喋れねーのか。」

「犬じゃねー!」

そうか……。この姿だと、人間には言葉が通じないのか。葵にだけという訳じゃないのか……。


「犬じゃねー!って言ってるよ?」

じゃあ……何故ルンとポロは俺の言葉がわかるんだ?

「へぇ~!すげえ!ポロは犬の言ってる事がわかるんだな~」

「だから、犬じゃねーって!」

「だから犬じゃないって。」

自分の子だからか?それとも、同じ……狼だから……?


「今日は二人一緒じゃねーんだ。珍しいな。ポロ、ルンは?」

「紅葉が怒らせた。」

「里梨~何口滑らせたんだ~?ルンはあれでも女だぞ?女怒らせると怖ぇ~ぞ~?」

お前が言うな!

「じゃあ、これ持って謝って来いよ。これ、ルンにお土産。知り合いにお土産でもらったんだけど、うちの奴らマカダミアナッツは要らねーんだってよ。」

それってもしや…………チョコレートですよね?しかもナッツ入った、なかなかのハイカロリー食品ですよね?俺、これ持って行ったら最低だよね?余計嫌われるよね?


いや、待てよ?言ってもルンは小学一年生…………


太る<チョコレート=紅葉好き!


よし、これで行こう!このチョコレートと、自慢のこの腹の毛があれば、万事解決しそうだ!俺はチョコレートを咥えて、寝室へ行った。


俺最強~!ぐらいの気持ちで行ったのに…………。


事はそう甘くはなかった……。


「この前、葵ちゃんに、チョコレート控えようねって言われたばっかり……。」

撃沈。戦況悪化。

「食べたいのに……。ぐすっ……紅葉……これ食べさせて……また太ったって言う?」

「あぁっ!ごめん!ごめんって!ちょっと、少しだけそう思っただけ。」

多分、いくらルンはムチムチが可愛いと言った所で、本人は気にするんだろうな……。こうゆう時、葵ならどうするだろう……?


「どうしてそんなに体型気にするんだ?」

「だって……紅葉に、ルンはデブだったなぁなんて覚えていて欲しくないもん。」

いや、デブだとは言ってないから。

「俺はそのままのルンがいいんだよ。触るとプニプニのクッションみたいなルンが可愛いと思ってる。」

「ルン、クッションじゃないもん!」

あ、はい、そうですね。すみません。


俺はふと、葵の手作りの絵本が目に入った。

「いいよ、いいよ。それでもいいよ。それでもいいから、元気で明るいルンでいてくれ。」

俺は魔法の呪文を唱えた。すると、ルンが小さな声で言った。

「…………これ、食べていいの?」

正解は、こんなに簡単な言葉だった。こんな簡単なおまじないで、良かったんだ。


「あっちで食べよう。持って来てくれた織部にお礼言おう。」

「紅葉、食べ物、咥えないで。バッチい。」

「仕方ないだろ?手で持てないんだから!」

バッチいって何だよ!バッチいって!!


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