ミッション
54
「とりあえず、指輪のサイズ測って来いよ!夜、メジャー持って部屋に忍び込むんだよ。」
頭の中では、ミッションインポッシブルのテーマがかかっていた。深夜に、メジャーを持って葵の部屋に来た。
いや、バカか俺は!!指輪のサイズくらい堀田に聞いてもらえばいい事だろ!?何考えてたんだ!?
それは、この前ポロの話をした時の続きの話で…………
「なぁ、織部、数年後に死ぬってわかってて…………プロポーズってしてもいいと思うか?」
「何何~?お前、余命宣告受けちゃった~?」
そんな……好きでもない奴にコクられちゃった~?みたいなノリで言うか?それ。
「多分、5年以内。」
「5年かぁ……。それって絶対なの?」
「わからん。」
5年……いや、一緒に過ごせる時間はもっと短いはずだ。
「それじゃ、余命宣告されてもされなくても同じじゃね?」
は………?
「だって考えてもみろよ里梨、人間いつ死ぬかなんてわかんねーだろ?明日死ぬかもしれねーし。それでも、明日会いたい奴とは約束すればいいんじゃね?」
明日の約束……?
「俺、結婚も明日の約束も変わんねーと思うわ。明日も明後日も、10年後も20年後も側にいて欲しいって、そうゆう約束みたいなもんだろ?まぁ、俺は嫁に、20年後離婚するって言われてるけどな~!」
おいおい!途中までいい事言ってたのに、最後の最後に夢も希望も無いこと言ったな!
「つーかさ、どうせ死ぬから~とか言ってたら誰も結婚しねーよ。」
そりゃそうだ。でも、相手より先に死ぬとわかっていたら…………相手の事を考えたら…………相手の事?葵はどう思っているんだろう……。
「あのさ、一応参考として聞くけど、織部はプロポーズって……どうやった?」
「え?俺…………?覚えてないわ。」
「はぁ?」
本当は言いたくないのか、本当に覚えてないのか……。もし覚えてなかったら…………
「お店のねーちゃんには、俺と結婚するか?って言った記憶あるけどな~!うちの嫁には記憶ね~な~。」
そりゃ……確実、20年待たずに離婚だな。
「あ、悪いけど俺、ダンスとかは無理だからな?」
「はぁ?」
「いや、今時のプロポーズって、突然周りがダンスし始めて、ダンスの後にプロポーズするんだろ?」
それはまた……無茶苦茶な……。本当にそれ一般的なのか?それ、片寄った情報じゃないのか?ダメだ……織部は全然参考にならない。他の人に聞こう。
「まぁ、焦んなよ。里梨、お前最近焦る傾向があるから。焦ると人生楽しめねーぞ?よし、じゃあ、まずは焦らず、ミッションクリア目指すか!」
そう言って織部は俺に自分の結婚指輪を見せて言った。
「とりあえず、指輪のサイズ測って来いよ!メジャー持って。夜、部屋に忍び込むんだよ。」
他人の言った事は鵜呑みにしちゃいけない。
本当にやったのか~!バカだな~!って織部に絶対バカにされる……。
冗談じゃない。冗談じゃないんだよ……。本当は清水の舞台から飛び降りる覚悟で来てるんだよ。起こさないように…………手を…………
「うーん、ルン食べ過ぎだよ~!」
え…………寝言?
「またいなくなるの…………?」
「葵……。」
しばらく息を潜めていると、寝言が止んだ。もう一度チャレンジしようとすると…………葵の寝顔を見たら……何だかこのまま寝かせてやりたいという気持ちになった。
やっぱり無理だ。今日はやめよう。普通に堀田に訊こう。起こさないようにそっと部屋から出ようとすると…………
「紅葉君……?」
えぇええええ!!起きた!?
「なんだ。紅葉か。おいで。お布団入れてあげる。」
え!?えぇええええ!!嘘!?狼になってる!!
俺はせっかくだから、葵の布団に入った。暖かい布団の中に入ると、眠くなった。俺は焦ってばかりだ。こんなにも、暖かい布団の中は幸せなのに……。
「紅葉のお腹の毛……もふもふだねぇ……。」
本当に……俺の腹の毛、睡眠導入効果半端ないわ……。
「おやすみ。」