入学式
51
満開の桜の中、ルンとポロは小学校に入学した。
「これ……だいぶ遅いけど、クリスマスプレゼント。」
俺はルンの支度を終えた葵に、長細い箱を開けて渡した。
「ええっ!こんな高そうな物もらえないよ!」
「ごめん……そんなに高いやつじゃない。」
「それ、あーちゃんの誕生日プレゼント?」
え…………誕生日…………いつ?
「知らないよね。4月8日なの。いつもクラスで一番早く歳とるし、紅葉君より半年も年上なの……。」
ああっ!こんな所に地雷が!!
「あー、じゃあ、誕生日プレゼントって事で。あの、後ろ!後ろ向こう!これつけるから。」
肩を押して葵に背を向けさせると、葵は言った。
「だから、受け取れないって……。」
「入学式まで時間ないな~」
そう言ってすぐに葵の首にネックレスをつけた。
「よし、うん。似合う。」
「あーちゃん、ネックレスキラキラしてる。」
一粒のダイヤが光っていた。
「綺麗なママで良かったな。ルン、ポロ。」
「うん!あーちゃん、今日綺麗!」
「あ、ありがとう。」
葵は、花がほころぶような笑顔でお礼を言った。
「紅葉君も……スーツ姿……何だか……」
「オジサンだね~!」
「お~い、ルン!せめて大人っぽいとか言い方あるだろ?オブラートに包めオブラートに!」
ルンは相変わらず、ルンルンだった。一方、ポロは緊張のあまり既にポロポロと泣いていた。
式が始まっても、ポロは泣いていた。地元の小学校は過疎化が進んで、入学した一年生は一クラス10人だけだった。
「10人か……1日で覚えられそうな人数だなぁ~」
「実質、顔と名前覚えるの8人だしね。」
隣に座っていた葵が、俺の横顔を見て言った。
「紅葉君、嬉しそうだね。」
「まぁ、卒園式は中に入れなかったから……。」
すると、周りの親達が写真を撮り始めた。葵は、下を向いて、携帯を握りしめていた。
「下…………向くなよ。」
「だって……」
「じゃあ、何?二人は存在してないかもしれないのに、何スーツ着込んでこんな所に来ちゃったんだろう……とか思ってる?」
葵はすぐに顔をあげて声をあげた。
「そんな事ない!!」
「葵、声が大きい。」
すみません、すみません。と周りに謝って、話を続けた。
「そんな事思ってないよ……ただ……。」
「俺は、この時間は、神様からの贈り物だと思ってる。偽りの時間だとしても、たとえ記録に残らないとしても、俺の中には残る。だから……全部嬉しいんだ。」
葵は少し黙って言った。
「何……何カッコつけてんの?」
ええっ!!
「紅葉君こそ、そんなスーツ着込んじゃって…………カッコ良く見えちゃうじゃない。好きになったらどうしてくれるの?」
「それは…………その…………責任取るよ?」
すると、葵は少し不機嫌に言った。
「はぁ?責任って何?」
俺は思わず立ち上がって言ってしまった。
「だから、結婚しようって事だよ!」
その瞬間、会場がどよめいた。壇上で祝辞を読んでいた議員が咳払いをした。
「すみません、すみません。」
俺は周りに謝って椅子に座った。葵は顔が熱くなった俺を見て、口を手で押さえ、声を殺して笑っていた。
「っ!!くくくくくく……。ある意味、忘れられない入学式になったね。」
そりゃ、一生記憶に残るだろよ。こんな恥ずかしい思いをしたのは始めてだ……。勘弁してくれ!穴があったら入りたい!まだ顔が熱い!