菜の花
50
こうして山菜取りが始まった。はいいが…………こうゆう時によく見つけられるのは女性達で、男は全然見つけられない。また、ポロは泣きそうになっていた。
「ポロ、ほら、傘。これの茎は食べられるぞ?」
俺はポロに大きなフキの葉を渡した。
「おっきい葉っぱだねぇ~!」
すぐにポロは機嫌を治した。そして、あっという間に、走って一人で遠くに行ってしまった。
「ごめん、紅葉君!こっち手が離せないからポロ追いかけて!」
「大丈夫、すぐ行く!」
ポロを追って、ちょうど隣の山との境目、山の山腹になる窪みが見える場所で、ポロは立ち尽くしていた。
「どうした?ポロ。何かあったか…………?」
「…………。」
ポロは黙っていた。俺はすぐには気がつかなかった。ポロが言った、一言を聞くまでは…………
「ワンちゃん………死んでるの?」
草が生い茂る窪みの所に、横たわる狼の姿があった。
「親父……。」
思わず言葉が漏れてしまった。
「あれ、紅葉のパパ?」
俺は見るなと言ってポロを抱き抱えた。ポロは俺にしがみついて、震えながらその小さな体から、か細い声を絞り出した。
「紅葉も、ああなる?」
「…………。」
「僕も…………ああなる?」
「…………。」
何も…………言えなかった。言葉が…………見つからなかった。
「どうしたの?」
葵とルンがこっちに来ようとしていた。
「来るな!」
葵が少し驚いた。
「あ…………ここから先は……危ないから。下が草だけど、多分、深いから…………子供達が落ちる。」
「そっか。じゃあ、そっちは取りに行かないようにしようね。」
「あの……筍見つけたから、スコップ持ちに行って来る。ポロ、行こう。」
ルンと葵は上着の上に沢山の山菜を採って乗せて嬉しそうにしていた。
「沢山採ったし、私達もそろそろ山を降りようか?」
そう言って、みんなで山を降りた。俺とポロだけは、軍手とスコップを持って、もう一度山へ行った。
山に着くと、入り口の所でポロが動かなくなった。
「いいよ。ここで待ってろよ。俺一人で埋めて来るから。」
そう言って、ポロを残して奥へ行った。
道を変えて、さっき上から見えていた山腹に来た。近くに穴を掘って、狼の死骸を埋めた。土をかけるたびに、親父との少ない思い出を思い出した。もっと早く帰って来れば良かった。そうすれば、親父を一人で死なせる事は無かったのに……。ごめん……。
埋め終えると、軍手を外して、手を合わせた。その時、母さんに電話して、親父の事をちゃんと訊いてみようと思った。
すると、ポロが隣に来て、埋めた土の上にそっと花を置いた。それは、鮮やかな黄色の花を咲かせた、菜の花だった。
「ポロ、これ、取って来てくれたのか。」
「うん。」
「綺麗な菜の花だ…………ありがとう。」
そして、もう一度、二人で手を合わせた。
もし、俺を見つけたら、こんな風に埋めて欲しい。そんな風に思った。だけど、こんな小さなポロに、そんな事は言えない。この子も……俺と同じように、狼の姿に苦しむんだろうか…………?それだけは、避けたいな……。
「困ったな……ポロ、筍探さないと……。手伝ってくれるか?」
「うん!あーちゃん楽しみにしてるよね!」
その後、筍を見つけて採りに来たと言った手前、筍を見つけるまで帰れない。そう思って、必死に探して、一本だけ筍を持って帰った。
葵は、ひどく小さな筍を見て言った。
「立派な筍!ありがとう。」
そして、俺とポロを見回して言った。
「それより、何なの~!?その泥だらけ~!」
「どんだけ~!泥だらけ~!と、どんだけ~!って似てるね~!」
「あははははは!」
ルンの言葉に、ポロは笑っていた。
まだ、もう少し、今は笑っていて欲しい。これは、きっと親のエゴだ。でも、ポロには、気楽に笑っていられる時間が、より長くなるようにしてやりたい。