カイショーナシ
48
俺が織部と話をしていると、葵と子供達が帰って来た。
「ただいま~!」
「お!最愛の嫁と子供が帰って来たぞ。」
まだ嫁じゃねーわ!俺は三人を出迎えるために玄関に行くと、ルンが抱きついて来た。
「紅葉~!今日見てた?見てた?ルン、発表したよ!」
「ああ、見てた。将来の夢はお弁当屋さんです。ってちゃんと聞こえた。食いしん坊のルンにピッタリだな~!」
「ふふふ~!」
そう言って俺はルンの頭を撫でた。ルンは満足そうな顔をして、織部の所へ行った。
「僕は……僕は……」
やっと靴を脱いで、家に上がって来たポロは目が赤かった。
「なんだ、ポロ、やっぱり泣いたのか?まぁ、ヘラクレスオオカブトになるにはまだまだ修行が足りないな。」
ポロは俺の足にしがみついた。俺はポロの頭を撫でて言った。
「発表、よく頑張ったな。」
そう言うと、ポロはまた泣いていた。
後から葵が入って来た。葵は俺を見て驚いた。
「紅葉君…………。」
「葵、おかえり。」
「…………ただいま。」
葵は俺を見ると、その目から涙をこぼした。
「え……どうした?」
「紅葉君……。」
「あー!紅葉、あーちゃん泣かした~!」
ルンにバレた。ルンは織部に抱っこされて玄関に来ていた。織部はルンを降ろすと、ハグしろとジェスチャーをしていた。
「里梨、そこはぎゅっと!ほら、ぎゅっと!」
いや、ポロが足に絡み付いて無理だろ。そう思っていたら、ポロが俺の後ろにまわって、俺の腰を強く押した。その勢いで、裸足で玄関に降りて…………葵を抱き締めた。
「紅葉君……紅葉君……」
「……ごめん。」
耳元で………葵の泣き声でかすれた小さな声が聞こえた。
「…………会いたかった。」
その声に胸が締め付けられた。
「……俺もだよ……。」
そう言って強く抱き締めた。
すると、突然玄関の戸が開いた。
「こんばんは~!」
「うわぁっ!!」
驚いた拍子に、葵に足を踏まれた。
「痛っ!」
「あ、ごめんね!ごめんなさい!」
その光景を見ていた織部が叫んだ。
「おい~!お前このタイミングはないだろ~!」
「ざけんな!あんたが迎えに来いって連絡してきたから来たんでしょ!?てっきり今日は帰って来ないかと思ってたよ!」
「もしかして………織部の奥さん?」
「あ、どうも初めまして。織部早苗です。うちの夫がお邪魔しました。」
織部の奥さんは、気の強そうな人だった。
「この………甲斐性なし。」
「何だよそれ!昭和か?昭和の話か?」
「昭和も平成も、平成終わっても変わらない!あんたの病気は変わらない!」
病気………?それを聞いてルンがショックを受けていた。
「オリベ………病気なの?」
「あー……。うん。」
織部の奥さんは少し困った。
「ルンちゃん、将来こうゆう男には気をつけるのよ?オリベはね、浮気性ってゆう病気なの。」
こらこら、子供に何教えてんの!
「カイショーナシって何?」
ポロまでそんな言葉を………!
「ヘラクレスオオカブトよりカッコいい?」
ポロ、それを織部に訊くな!
「そうだな!カブトムシよりはカッコいいな!」
やめろ織部……。
「じゃあ、僕、カイショーナシになる!」
だからぁ~!!
「ポロ君、甲斐性なしになるくらいなら人間やめた方がマシよ。ホント、オリベがカブトムシだったらいいのにね。」
いや、それだとあんた、カブトムシの嫁だぞ?
「いや、カブトムシよりはダメでも人間の方がマシだろ。」
「そうだ。ポロはカブトムシ以外の、人間でなりたいものはないのか?」
甲斐性なし以外なら何でもいいか。
「じゃあ………じゃあ………忍者!」
に、忍者………!!まぁ、カブトムシよりマシだ。すると、織部の奥さんが言った。
「いいじゃん!忍者!大きくなったらオリベを暗殺してね~!」
こらこら、この年から暗殺依頼すんな。
それから織部の奥さんは、酔っ払った織部を連れて帰って行った。
「まぁ、また来いよ。」
「ありがと~な!またな!」
そう言って、織部は帰って行った。