雪遊び
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「鬼~のパンツはいいパンツ~♪強いぞ~♪強いぞ~♪」
最初の一発目は、体を横にして避けようとしたら、背中に当たった。
「虎の毛皮でできている~♪強いぞ~♪強いぞ~♪」
俺達は、ルンとポロの鬼のパンツの歌を聞きながら、雪の玉を投げ合っていた。
「5年履いても破れない~♪強いぞ~♪強いぞ~♪」
「きゃぁ!」
今度は俺の放った雪玉が葵の頭に見事に当たった。
「10年履いても破れない~♪強いぞ~♪強いぞ~♪」
葵は少し固まった。あ、今の絶対頭に来てる。
「履こう!履こう!鬼のパンツ~♪履こう!履こう!鬼のパンツ♪」
うわ~!雪玉を何個も持って連打して来た!!球速がヤバい!!ヤバい速さしてる!!マジだ!マジ!
「あなたもあなたも、あなたもあなたも、みんなで履こう鬼のパンツ♪」
「うわっ!!」
顔に当たった!!冷てっ!!
「もう、降参します!!」
それは、俺が散々葵の愚痴を聞いていた時…………ルンとポロは二人で鬼のパンツを歌っていた。
「鬼のパンツ欲しいな~!虎の毛皮でできてるやつ~!」
ポロがそう言ったら、葵が少し笑って言った。
「鬼のパンツ欲しがるなんて可愛いね。」
「あーちゃんのパンツもらえばいいじゃん。」
ルンの言葉には笑えなかった。驚愕していた。
「あーちゃん鬼になるって言ってたよ?」
「ぶっ!!確かに言ってた……。」
俺が思わず吹き出していたら、葵は慌てて否定した。
「いやいや、もう、鬼じゃないから!」
すると、ポロが確認していた。
「あーちゃんのパンツ虎の毛皮でで出来てる?」
「出来てないから!普通に綿だよ!綿100%だから!」
思わず笑って言ってしまった。
「あははははははは!さすがに鬼でも、綿100%じゃ10年は履けないな」
「紅葉君、それ私が鬼の前提で話してるよね?」
あ…………墓穴を掘りました。
葵は一度窓から外を見て言った。
「表へ出ろ!!」
ジャケットを着込んで外へ出ると、すっかり日が暮れていた。庭の雪は、家の明かりに照らされて真っ白に輝いていた。雪はもうやんでいて、辺りは妙な静けさだった。空気は冷たく澄んでいる。吐く息が、驚くほど真っ白だ。
「外に出てどうするんだ?」
「私、鬼じゃないから、反撃アリだよ!」
そう言って葵は雪を投げ始めた。俺達の様子を見てルンとポロも外に出て、雪遊びをした。
そして…………ルンとポロの鬼のパンツの歌と共に、大人の本気の雪合戦が始まった。
「きゃああああ!冷たい!!」
「うわっ!!当たった!」
散々雪を投げ合って…………もう限界だ!!疲れた!!
「もう降参します!」
「あー!ストレス発散できた!」
そう言って、葵は雪の上に仰向けに倒れた。俺も葵の隣に倒れた。
空は真っ暗だった。星は1つもない。だけど…………ちらほら揺れる雪が見えた。また、雪が降りだしてきた。
「あーちゃん、紅葉!見て!ポロと二人で雪だるま作ったよ!」
起き上がって見てみると、その雪だるまは角が2本ついていた。鬼!?そこ鬼!?
「もっと可愛いの作ろうよ~雪兎とか!」
「雪兎って?」
葵は雪を楕円の山を作ると、庭にあった南天の木から、緑の葉と赤い実を取って来た。
「この葉っぱを耳にして、赤い実は目。ほら、できた。」
「本当だ!ウサギさん!可愛い~!ルンも作る!」
「僕も!僕も!」
子供達は南天の木から葉と実をむしり取って、大事そうに雪の上に置いて、ウサギを作っていた。
あ、そうだ!あれがそろそろいい頃かも。
「葵、葵。」
俺は玄関に葵を呼んだ。そして、雪の中に隠しておいたミカンを半分に割って、片方を渡した。
「これ、子供には内緒。」
「何これ?」
「雪の中に入れておいた天然冷凍ミカン。」
ミカンを剥いて口に入れると、ミカンは少しシャリシャリしていた。
「美味しい!運動した後の冷たい果物って美味しい~!」
その言葉をルンは聞き逃さなかった。
「何食べてるの?二人でずるーい!」
「あ、食いしん坊にバレた!」
「ちょっと凍ったミカンだよ。少し食べる?冷えるから少しだけね。」
葵がルンにミカンを与えていると、ポロは震えて言った。
「僕、あったかいのがいい。」
「そうだね。中に入って温まろう。お風呂が沸くまでココアでも飲もうか?」
「飲む~!」
確かに、全身に雪を浴びて体が冷えた。玄関を閉める前に、ふと、鬼の雪だるまと目が合った。いつの間にか角が丸くなって、目が赤い実になっていた。何だか可愛らしい鬼だ。鬼は外。福は家。
そう思いながら、玄関の戸を閉めた。