節分
42
あれから1ヶ月近く経つのに、俺はまだ人間の姿に戻らなかった。もう二度と戻らなかったら…………と思うと何だか怖かった。
暦の上では、明日はもう立春だ。立春なのに……今日はかなり冷える。この寒いのに、二人は朝から外で遊んでいた。
「紅葉!見て見て~!やったよ!こんなに厚い氷ができたよ!」
「ルン、早く割ろう!」
「うん!」
最近の二人の流行りは、バケツに水を入れ、一晩置いて氷を作り、それを割るという遊びをしていた。子供は何でも遊びになっていいな……。そんな事を考えていると、白いふわふわの塊が落ちて来た。…………雪だ。
「雪だぁ~!!ポロ、雪!」
「本当だ!雪だ!あーちゃん!雪降ってる~!」
二人は中に入ると、葵を呼びに行った。
「本当~!これは積もりそうだね~!二人とも、濡れちゃうから中に入って。」
「はーい!」
「紅葉も。足拭いてあげる。おいで。」
最近は、あまりにも寒くて、ちゃんと中に入れてもらえる。
中に入って、俺が窓の外を見ていると、ルンに何かを被せられた。何?何これ?
「紅葉、鬼ね!」
え?…………それって……鬼ごっこ?
「せーの」
せーの?
「鬼は~外!福は~内!」
ギャーーーー!!豆痛いーーー!!いやいや、コレ動物虐待~!!
「おい!ルン!ポロ!本気過ぎだろ!」
「先生がルンはいつでも全力でいいねって言ってたもん!」
確かにそうだな。そこはルンのいい所だ。いや、それはそうなんだけど…………
「僕には守るものがある!」
今度は俺から?俺から何守ってんの?!それ、言いたいだけだよね?
やっと葵が気づいてくれて、俺は愛玩動物の目で葵に訴えた。
「タスケテ……。」
「コラーーー!!紅葉は人間の紅葉君じゃないのよ!?」
え、それ人間の俺だったらいいの?ねえ?いいの?
「紅葉に豆ぶつけたら、動物虐待になっちゃうでしょ?」
「ドーブツ……ギャグ?タイ?って何?」
「動物は嫌って言えないから、虐めちゃだめだよって事だよ。」
そうそう!俺、さっきから嫌がってるから!伝わってるよね?言葉わかるよね?
「だって紅葉嫌って言ってないもん!」
「紅葉はワンちゃんだから言えないでしょ?」
あ、言います!今言います!
「嫌です!嫌で~す!」
「あ、今、嫌って言ってる。」
葵は少しほっとしていた。
「わかってくれた?良かった。良かったね。紅葉。まぁ、今日紅葉君が帰って来たら確実に的にするけどね……。」
あ、葵……怒ってる?怒ってるよね?葵ちゃ~ん……顔怖いよ?可愛い顔が台無しだよ~?
「もうすぐ1ヶ月だよ?帰って来たら説教だな!みんな、今度こそ私、鬼になります!」
そんな~!鬼は外だよ~!葵~!
俺は葵に抱きつくと…………
え…………このタイミングは…………。
「紅葉君、いつの間に?!って…………この変態!!」
葵は持っていた豆を、容赦なく俺に投げつけた。
「痛い!痛い!素肌に豆は痛い!素豆!!素豆痛い!!」
「あ、ごめん!いや、だから何で裸なの!?らむーんなの!?」
「だから、らむーん何!?」
一旦落ち着いて、服を着て葵に謝りに行った。
「ごめん……。」
「何が?」
「1ヶ月もいなくて……。」
物凄い険悪な雰囲気に、ルンとポロがビビっていた。
「あーちゃん、鬼になったの?」
「違うよポロ、きっと鬼に取りつかれたんだよ!」
そんな、幽霊とか妖怪じゃないんだから……。
「今夜、話があります!!」
葵にそう宣言された。
お互いに高校生の時にそう言われたら、ドキドキしたんだろうけど…………今は違う。違う意味でドキドキしている。
雪は、少しの間にあっという間に外の風景を白くしていた。あちこちにうっすらと雪が積もっている。これは積もりそうだ。今のうちに雪かきの道具を出しておくか……。そう思っていたら、ルンとポロに呼ばれた。
「紅葉!一緒にお豆食べよう!」
「さっきぶつけられた豆?」
「歳の数だけ食べていいんだって。」
いや、ポロ、それは歳の数だけしか食べちゃダメな訳じゃなくて、歳の数だけ食べれば健康でいられるって話じゃないの?
「数え年だから1つ多く食べるんだぞ?」
「そうなの?あーちゃん、もう一個食べていいんだって~!」
台所に行くと、ダイニングテーブルに座って、頭を抱えた葵がいた。
「私……30個も食べなきゃいけない……。もう30だよ?30!!」
「もう一個だって!」
ヤメテ。ルン、それ以上はヤメテあげて……。こんな所に地雷が潜んでいるとは…………!!
「今年31……。」
「いや……葵は全然30に見えないよ……。」
フォローの仕方がわからない。どうフォローしても裏目に出る気がする。そんな気がする!むしろそんな気しかしない!
「見える見えないの問題じゃないよね?」
ほらほらほら~!
「じゃ、結婚しようか!」
冗談半分、ヤケクソ半分、ふと、そんな言葉が口から出てしまった。
「はぁ?1ヶ月も突然いなくなって連絡取れない人が何言ってるの?言っていい冗談と悪い冗談があるよ!」
はい、そうですね。葵が怒るのもごもっともです。
「しかも、何なのこのスタンプ?あり得ないでしょ?」
ああっ!それはスタンプミスで……
「どこにいるの?OK!ってバカにしてる?」
「いや、あの……忙しくて……押し間違えたんだよ……。」
犬の肉球じゃ、スマホは難しいんだよ~!その後も、葵の不満は爆発して、夜に話す事がないんじゃないかと思うぐらい、話を聞いた。