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カワノジ


39


大晦日を迎えた夜、ルンは熱のせいで、俺に絶賛八つ当たり中だった。


「ルン、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない!」


「林檎食べるか?」

「食べない!」


「白湯は?何か飲むか?」

「飲まない!」


「じゃあ、もう少し寝るか?」

「寝ない!」

「じゃあ、起きてるか?」

「起きない!」

「じゃあ俺、もう向こう行って……」

「行かない!」


理不尽~!どんだけ~!見事な八つ当たり!


俺はベッドに腰を降ろして、ルンの背中をさすりながら言った。

「ルン、辛いのはわかるけど、自分が辛いからって他の人を傷つけてもいい事にはならないからな?俺には悪態ついてもいいけど、葵やポロにはそんな態度とるなよ?」

「紅葉キライ!あっち行って!あーちゃん!あーちゃん!」

俺の説教に逆ギレしたルンはベッドから起き上がって、ドアを叩いて葵を呼んだ。


すると、すぐにエプロンを外しながら、葵が部屋に来た。

「どうしたの?」

「紅葉がいじめる……。紅葉キライ!」

いやいやいやいや、全然いじめてないから。葵はルンを抱き抱えて、外したエプロンをとりあえずベッドに置いた。

「うん。よしよし。とりあえず、ここは私に任せて、代わりにお鍋の方見てくれる?」

「わかった。」

俺はエプロンを渡されたから、受け取って台所へ行った。


葵にルンを任せて、台所へ行くと、鍋が沸騰していた。慌てて火を止めた。これ、ただの熱湯?もしかして……蕎麦を茹でればいいのか?蕎麦の袋を見ていると、葵が戻って来た。

「ルンは?」

「寝た。なんか、泣きながら説明してくれたけど、半分くらい聞き取れなかった。とにかく紅葉がって訴えてたよ?」


俺はルンに話した事を説明した。

「いや、ルンがものすごい悪態ついて八つ当たりするから、他の人にはするなよって説教しただけなんだけど……。」

葵は少し考えて言った。

「それは…………紅葉君が悪いかな?」

えぇえええええ!!マジですか!?納得いかない!!

「納得いかない?よね?」

「そりゃそうだよ!」


「紅葉君の言ってる事は正しいよ。だけど、正しい事だけが正解じゃないよ。」

え……それ、何?なぞなぞですか?

「ルンは私には八つ当たりしないよ?全然嫌な事言わない。保育園でもとってもいい子ですって言われてる。だけど、紅葉君には悪態つくんだよね?」

ああ、俺だけね。

「それって、紅葉君にはいいよ。って言ってもらえると思ってるからじゃない?」

「それってナメられてるって事?」

「そうゆうんじゃなくて……何て言うか…………もっと……信頼してるんじゃないの?ルンにとって、紅葉君は甘えられる相手って事だよ。やっとパパらしくなって来たんじゃない?」

やっとパパらしく…………?ルンの悪態は甘えの裏返しか……。そんな事考えた事無かった。


「紅葉君、ポロ、こたつで寝てる。布団に連れて行ってあげて。」

「ルンの隣で大丈夫か?風邪うつらないか?」

「うーん、じゃあ2階の私の部屋に寝かす?」

2階までこの重さは……。ちょっと面倒だな~。

「やっぱり隣でいいか。」


風邪がうつるならもううつってるはずだし……。そう思ってルンの隣にポロを寝かせた。すると、ルンが少し目を開けて言った。

「隣……寝て。」

結果的に、俺はどうすれば正解なんだ?いいよ。って言えばいいのか?

「早く。」

「はいはい。」

隣に寝ると、ルンは俺にくっついて来て言った。

「フサフサの方が良かった。」

「すみませんね。人間の方で。」

「いいよ、いいよ。それでもいいよ。それでもいいから…………」

それでもいいから…………?何?何でそこ言わないの?

「……寝た?」

……寝てない!という言葉は来ない。寝たんだな。


それでもいいから…………どうして欲しい?悪態つかれても、求められていると思えば何だか嬉しい。自分が…………必要とされている気がする。


そこへ葵が部屋のドアを開けた。

「お蕎麦できたよ?みんな寝ちゃった?」

「あーちゃん?」

ルンは呼びに来た葵の声に、目を覚ました。

「あーちゃん、あーちゃんもこっちに寝て。ポロの隣。」

おいおい。葵にまで……

「はいはい。」

そう言って葵はポロの隣に寝た。


「これで満足か?ルン。」

「うん!これ、カワノジに寝るって言うんだよね!ルン、やってみたかったの!」

確かに川の字で寝た事なんて、無かった。いや、葵はまだママじゃないのに!

「でも…………」

俺と葵は同時に言った。

「一本多いね。」

すると、ルンは言った。

「じゃ、ポロを落とそう。」

「待て待て。」

寝てるポロを落とそうとするな!お前、相変わらず鬼だな。


「これでいいんだよ。俺達は、他と違っても、俺達の形で川の字でいいんだよ。」

すると、葵も便乗して言ってくれた。

「そうだね。縦線4本の新しい漢字だね。」

それなのに…………


「ルン、そんな事よりお腹すいた。」

ちょ……自分が満足したら終わりかよ……。

「お蕎麦のびてるかな?」

「ルンには柔らかいぐらいがいいんじゃないか?」

「ポロも起こして、みんなでお蕎麦食べようか?」

そう言うと、ルンは容赦なくポロを起こした。

「ポロー!起きろー!蕎麦食べるよー!」

おいおい、容赦ねーな……。


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