焚き火
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「何なの?そのヒモみたいなプレゼント!」
堀田がハグの話を聞いて驚愕していた。俺はよし坊の相手をしていた。よし坊はこの短期間でしっかり立つようになっていた。
「ヒモじゃないよ!預かったんだよ?託されたんだよ?銀行の家族カード!」
「いや、それは確かに嬉しいだろうけど、色気がないよ!そんな色気のないクリスマスプレゼント聞いた事ないよ!!」
いや、それ、クリスマスプレゼントじゃないんだけど……。
「里梨、アクセサリーの1つくらい買ってやりなよ!」
「ああ。今度必ず買って来る。」
「いいよ!アクセサリーなんて使わないし、受け取れないよ!」
え?アクセサリー用意してたら受け取ってもらえなかったの?
「必要ない?今年の春はあの二人、入学でしょ?スーツにアクセサリーつけないで、いつつけるの?」
「あ、あの二人……入学か!!全然準備してない!」
「ああ、就学時検診は葵が行ったんだよね?」
「ごめん。紅葉君いなかったから、代わりに行っちゃったんだけど……」
いや、謝るのはこっちだから。
「ごめん。ありがとう。」
狼の姿ではできない事が必ずある。病院や学校行事だ。子供には重要な事が、俺にはできない……。
「葵、なんでお米出てるの?」
「明日用のもち米だけど?」
「え?赤飯でも作るの?」
クリスマスが終わると、葵は大掃除に、正月の準備に大忙しだった。
もちつきをやろうと言われた時は驚いたけど、ルンとポロが保育園のもちつきを見て、またやりたいと言い出したかららしい。
「臼と杵は?あるの?」
「そこは、文明の力で……。」
母さんが数年前まで使っていたホームベーカリーで餅を作るらしい。
「あー要は餅を形にする作業やりたいのね~!子供は熱くてあんまり手出せなくない?」
「まぁ、ルンはできたてのお餅が食べたくて、ポロは伸びる所を見たいんだと思うの。」
だからって何もパフォーマンスで餅つきやらなくても……。
そこへ、ルンとポロが家へ帰って来た。
「あーちゃん!お庭の葉っぱいっぱい集めたよ!焼き芋やろう!」
え?葉っぱで焼き芋?
「秋に二人と約束したのに、やってなかったから!ごめんサチ、今から外行って来るね。」
だからって何も葉っぱ燃やす所からやらなくても……。
子供と葵だけで焚き火なんかして大丈夫か?
「堀田、よし坊頼む。」
俺は心配になって、よし坊を堀田に返すと、葵の手伝いに向かった。
「なかなかつかないな~」
ちょっと待って!
「いや、直につけようとしてもつかないだろ。」
「え?」
え?って……焚き火初体験ですか!?火起こし初体験で焚き火やろうとしてます?
「着火材が必要なんだよ。まず燃えやすい物に火をつけてから、燃えにくい木や葉っぱに移すんだよ。」
「へぇ……紅葉君詳しいんだね。」
「全然詳しくないから。」
こんなの常識だと思ってたよ。でも、これを教えてくれたのは、藤田のじいさんだった。
俺のじいさんは早くに亡くなって、あんこ屋の藤田のじいさんがじいちゃん代わりだった。そういえば、今どうしてるんだろう……。
「ポロ~!その新聞紙1枚くれよ!」
ポロが遊んでいた新聞紙を1枚もらって、ライターで火をつけた。その火を落ち葉の重なった山に移した。
少しずつ大きくなっていく火を見て思わず呟いていた。
「餅つきしたら、あんこ買いに行って、お汁粉にしようか?」
「いいね。子供もきっと喜ぶね。」
すると、堀田がアルミホイルにくるまれた芋を持って来てくれた。
「あんた達、重要なこれ忘れてない?」
「あ、ありがとう!」
「堀田、ありがとう!」
葵はトングで芋を火の中に投下しようとしていた。
「葵、ちょっと待って。それだと芋が炭になるから、外側の熱が弱い所に置いて。」
「そうなんだ!教えてくれてありがとう!」
葵のありがとうは、なんだかくすぐったい。
「こちらこそ。ありがとう。」
俺がそう言うと、それを見ていた堀田が言った。
「前も言ったけど、里梨って素直にありがとうが言える奴だったんだね。人間変わるもんだね~。」
「そう?昔からちゃんとありがとうが言える人だったよね?」
葵、それは違う。そうなったのはつい最近だ。
当たり前に、ありがとうを当たり前に言える人になって欲しい。その言葉があったから、俺はこうなれたんだ。そうなりたいと望んだから、そうなれたんだ。
それは、葵のおかげだ。