カレー鍋
35
とうとうクリスマスイブになってしまった。結局狼の姿のまま、ツリーの下に1人で座っていた。なんだ?このツリー……ワケのわからん物が釣り下がってる。オーナメントの間に、まつぼっくりとドングリがくっついた人形らしき物、ほつれた糸が出た靴下、ミカンのネット、林檎の緩衝材、ちょこちょこ変な物が飾られていた。
「紅葉……。ここにいたんだ。」
葵が俺の隣に座って言った。
「紅葉君、結局帰って来なかった……。二人ともあんなに楽しみにしてたのに……。」
知ってるよ。今日のクリスマス発表会の練習も、二人で一生懸命やっていた。
すると、葵が大きな声を出した。
「紅葉君のバカーーー!!って言っても届かないんだよね……。」
すぐ届いた。よ~く聞こえてま~す。
「じゃあ……そろそろ私、発表会に行って来るね。紅葉はワンコだからお留守番だよ。紅葉、いい子にして…………」
急に葵の顔色が変わった。
「ん?何?どうした?」
「…………寒くない?」
「うわっ寒っ!急に寒っ!!」
え?もしかして…………戻った!!
「どうして真冬に裸なの?紅葉君はらむ~なの?」
「らむ~って何?!」
「脱ぎたいのはわかったけど、風邪ひくよ!?」
そんなに冷静に言われると恥ずかしい!!俺は慌てて置いてあった服を着た。
「あー暖かい。全裸は死ぬかと思った。」
「本当にどうかしてるよ!こんな事で私が嫌いになるとでも思った?出て行って欲しいなら直接そう言ってよ!!」
「はぁ……?」
もしかして…………俺が裸になって、葵に嫌われようとしてると思われてる?いなくなるのも、嫌がらせとか思われてる?
「そんな事ない!葵にいなくなって欲しいなんて思ってないよ。」
「じゃあ、何?何が気に入らないの?」
いや、気に入らないからこうなってる訳じゃなくて……。
「今夜、ちゃんと話す。話、聞いて欲しい。もう行こう。発表会が始まる。」
葵と、微妙な雰囲気のまま…………保育園の発表会へ行った。他の親は各々、ビデオカメラや一眼レフを構えていた。みんな思い出を保存するのに本気だ。
携帯しかないけど……録画して二人に見せてやろう。そう思って二人の勇姿を録画した。サンタクロースやトナカイの衣装を着て歌や振り付けをしていた。ルンは相変わらずノリノリだけど……ポロはずっと泣きそうだった。がんばれ!
発表会が終わると、織部と堀田とに話しかけられた。
「よ!里梨!今からその格好は気合い入りすぎじゃね?」
「え?あ、何だこれ……!サンタの衣装!!」
「ぶーっ!あははははは!」
葵が吹き出した。え?最初からわかってたよね?ひどくない?なんで何も言ってくれないの?
「わかってたなら言ってくれよ!」
「ごめん。意図的なのかと思ってた……」
「里梨、自分の格好に気づいて無かったの?その方が驚きなんだけど!」
確かに……どうして今の今まで気づかないって話だ。どうりでみんなに見られるハズだ。
「ルンとポロのパパ……サンタなの?」
織部の息子の小次郎が俺を見てそう言った。そんな小次郎に葵が言った。
「そうなんだよ~。慌てん坊のサンタクロースなんだよ~」
確かに……!!いや、全然上手くないから!!
そこへ、ルンとポロが帰り支度を終えてやって来た。
「紅葉!!見てた?」
「うん。見てた。二人とも頑張ったな!」
俺が二人の頭を撫でると、二人は満足そうな笑顔で、嬉しそうにしていた。二人は葵にも感想を要求した。
「あーちゃんも見てくれた?」
「二人とも、上手だった~!ルンは練習した所成功したね。ポロは泣かずに最後までできて偉かったね。」
葵がそう言うと、ポロは泣き出した。結局泣いた。きっと、緊張の糸が切れたんだろう。
子供達の笑顔に、葵も笑顔だった。
こうして、発表会を終えて、四人で笑顔で家に帰った。
そして、みんなでクリスマスディナーを…………
…………って、なんで鍋?
「普通の鍋じゃないんだよ?カレー鍋なんだよ?」
ルン…………お前のリクエスト?
「本当にカレーだ~!」
ポロ…………お前もか!
「いや、チキンとかシチューとかにしようって言ったんだけど……」
「僕、カレーがいい!」
「ルンはお鍋がいいの!」
「って言って譲らなくて……間を取ってカレー鍋なの。」
なるほど、それでか……。ルンが満足そうな顔をして言った。
「お鍋は、みんな一緒だからいいの。」
みんな…………一緒……。
確かに、鍋は1人ではあまり食べない。現に、こっちに帰って来る前までは……なかなか食べる物じゃなかった。
「確かに……みんな一緒だからいいな……。」
「そうだね。みんな一緒だからいいね。」
そう言って葵は鍋を取り分けてくれた。
「ルン、星がいい!」
「僕も!僕も!」
よく見たら、人参が星の形をしていた。そうゆう事か。
「はいはい、ちょっと待ってね。チーズ入れる人~!」
葵が手を挙げて言うと、みんなではーい!と返事をして手を挙げた。
そして、何故かクリスマスにカレー鍋を食べた。
みんなで、一緒に。