本音
31
「キャーーーー!!」
「…………何?朝からどうした?」
「く、紅葉君!?なんで隣で寝てるの!?」
戻った!!人間になってる!!しかし、何故このタイミング!?
「…………。」
俺が自分の両手を見ていると…………葵が言った。
「何?どうして黙ってるの?もっとふざけてよ!」
「僕は死にましぇ~ん!」
「何ふざけてるの!?」
いや、今ふざけろって……。完全に気が動転してるな。
「どうして裸なの!?変態なの!?この際変態でもいいや。どうして突然いなくなったの?どこに行ってたの?本当に仕事だったの?」
変態でもいいって、これ、スルー!?この状態スルーすんの?!スルーできんの?
「えーと、質問が多すぎて……何から答えればいいか……」
そこへ、ルンとポロが部屋に入って来た。
「あーちゃんお熱下がった~?」
「…………。」
二人は俺を見て無言になった。
「紅葉……どうしてあーちゃんと寝てるの?紅葉もお熱でちゃったの?」
「いや、あの、これは!」
「紅葉…………またへいたいさんになっちゃったね~!」
「ポロ、それを言うならヘンタイさん。」
それ的確だけど、しっかり訂正されると傷つく……。
「今日月曜日だよ~?保育園行かないの~?」
「あ、そうだった!急いで支度しよう!」
その日は朝からドタバタだった。
「私、道の駅に野菜並べにいくから、登園は三人で大丈夫?人間だから大丈夫か。あれ?紅葉は?」
葵は犬がいないことに気がついた。
「あ、あれ~!どこ行っちゃったんだろう?散歩かなぁ?」
そう言ってごまかした。
「紅葉はここにいるよ?」
「そうだね。紅葉君帰って来て良かったね。」
俺がいなくなれば心配してくれる人がいる。帰りを待っていてくれる人がいる。まぁ、子供置いて行かれても普通に迷惑だしな。
普通に迷惑。そう、葵が言った。
昨日、お粥を持って行った時……。
「あーちゃん美味しい?」
「あ、うん!美味しいよ。ありがとう。」
あ…………これは不味い感じかな?
「ルンとポロ、葵はまた寝るから下で遊んでろよ。あ、静かにな。」
これ以上食べるのは辛いだろうな……。二人には下で遊んでいてもらおう。
「はーい!」
「じゃあ、僕たち下に行くね。おじ……おやじにね。」
「ポロ、お大事に。でしょ?あーちゃん、早く元気になってね!」
そう言って二人は部屋を出て行った。
二人の後ろ姿に、葵が言った。
「ありがとうね!」
葵はもう一口食べた。
「うわ……。卵の殼……。」
口から卵の殼を出した。ごめん。殼出しきれなかった……。
「味が……ない……。」
あ…………味付け忘れた!!
「塩か醤油があればなんとかいけそうなんだけどなぁ……。」
俺はすぐに台所に行って、塩の瓶を咥えて戻って来た。
葵の前で、塩の瓶を放すと、葵は驚いた。
「嘘……。お前、人間の言葉がわかるの?」
「うん。あ、違うか。ワンッ!!」
「初めて吠えた!山では全然吠えないから、犬じゃないのかと思って怖かったけど……ちゃんと犬なんだ……。」
え……そっち?
「正直、怖い……。1人で二人を育てるのは不安だよ。1人で子育ては…………荷が重すぎるよ……。」
もしかして、犬の姿なら、葵の本音が聞ける?これで意図的に変身できれば言うこと無しなんだけど……。
「二人は可愛いけど……けど……子供置いて行くなんて……普通に迷惑なんだからね?」
…………ごめん。
「紅葉に八つ当たりしてごめんね。同じ紅葉だからつい、言いたい事言っちゃった。」
そう言って葵は、スッキリした顔で俺の頭を撫でた。葵はきっと、言いたい事言えずにストレスを溜め込むタイプなんだ……。
それは、高校の時、薄々感じていた。嫌と言えずに、実行委員やらボランティアやら、色々押し付けられていた。
俺も同じだ。葵に押し付けてる……。どうしようもないからとか、仕方がないからとか、今さらそんな言い訳するつもりはないけど…………このままじゃいけない。
「さ、ご飯ちゃんと食べて元気になろう!せっかく二人が頑張って作ってくれたんだし。お塩、ありがとうね。紅葉。」
「…………どういたしまして。」
いつかは、ちゃんと話さなければいけない……。俺が、狼男だと言う事を。
その後、葵は元気を取り戻して、簡単な夕食を作った。そして、二人を寝かしつけ、風呂あがりにホットワインを飲んでいた。
「暖まる~♪」
いいな~。俺も飲みたいなぁ~。
ちょうだい。ちょっとちょうだい。俺は犬らしくねだってみた。
「紅葉には飲ませられないよ!」
ちっ…………ダメか。このフサフサを持ってしても落ちないなんて……。
すると、葵は手を滑らせてワインを少し溢した。俺の鼻の上にもかかって、少し溢した舐めた。結構甘いワインだなぁ。ジュースみたいだ。
「あ、かかっちゃった?舐めた?飲んじゃったかな?」
そこからはあまり記憶にない。けど、フラフラの葵を2階まで運んだ記憶はある。狼だったか、人間だったかは…………記憶にない。