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卵粥


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葵の寝ていた部屋は、俺が家を出る時まで使っていた部屋だった。なんだか、所々変わっていたけど……ベッドや机はそのままだ。懐かしい……。ここで、高校の同級生と暮らすとは思わなかった。なんだか……複雑な気分だ……。


葵はまだ苦しそうに寝ていた。熱が出たのはきっと、俺を探しに山へ行ったからだ。……俺のせいだ。ごめんな……。


俺達は葵を起こさず、そっと氷枕だけ頭に乗せて来た。


一階に戻って、椅子を戻したり、台所の床を掃除していると、あっという間に米が炊けた。

「せーので開けよう?せーの!」

炊飯器の蓋を開けると、フワッと白い蒸気が上がった。


「どうだ?できてたか?」

「できてる~!」

「やったぁ~!」

ルンがスプーンで混ぜてみると、米は少しべちゃっとしていた。ま、まぁ…………許容範囲かな?


茶碗に乗せて、席についた。

「え?何も無しで食べるのか?」

「え?何も無しって?」

子供ってなんで白米オンリーで食えるのかなぁ……?

「いただきます!」

「僕も!いただきます!」


確か卵くらいはあったような……。

「ポロ、卵取ってくれるか?」

「卵?ルンが取る!」

茶碗一杯ペロリと食べ終わったルンが俺の背中に乗って、冷蔵庫を見た。

「何個?」

「とりあえず、一個。」

ルンは大事そうに卵を両手で持って、頭突きで冷蔵庫を閉めていた。


「ルンが割る!!」

そう言って、卵を片手で握りながらプルプルしていた。えぇえええええ!!林檎を握り潰す握力自慢じゃないんだから!

「ちょ、ちょっと待て!優しく割ろう!」

卵を優しく割るってなんだ?

「僕も割る~!」


「あ、割れた!」

ぐしゃっ!と音がして、ルンの片手は生卵まみれになった。

「いや、だから、待てって……。」

「…………うぇええええん!」

「あ、いや、怒ってないから!いいよ、いいよ。もう一度。もう一度やろう。」


もう一度、ルンは俺の背中に乗って卵を二つ取った。1つをポロに手渡した。

「平らな所でコンコンして、割れた所に指かけて……」

ポロの指が……卵にハマった。


あれ?俺、指突っ込めって言ったけ?


中身をどこに出そうか、ポロが迷っていた。俺は置いてあったボウルを咥えて、ポロの前に差し出した。すると、ポロは指で開けた小さな穴から中身をふってボウルに出した。そして、大事そうに殼を持って言った。

「殼、もらっていい?」

もしかして…………そっちがメイン!?


「中身は?食べないのか?」

「いらない。」

それを見たルンも真似して、同じようにしていた。それが正解?正解なの?


卵が勿体ない……。そうだ!卵粥を作ろう!

「じゃあ、また手伝ってくれるか?」

「ルン、手伝う!」

俺は鍋を出して来て言った。

「ルン、これにご飯入れて。ポロ、椅子と水!」


実家はIHだ。火を使っても比較的安全だ。多分大丈夫だろう。使い方は確か……。ボタンを押して…………。鍋を火にかけて、ご飯と水と卵を入れて、混ぜて、お粥っぽいものができた。

「熱いから気をつけてな。」

ルンがお玉でそっとお粥を皿に入れた。


お盆に、お粥の皿とスプーン、水の入ったコップ。さて、これをどう運ぶか……。俺は何とかお盆を咥えて水平を保とうと必死だった。ぐらついたお盆を見て、二人が両側を持ってくれた。このまま階段登れるのか?


一段一段、ゆっくり、ゆっくり登った。


お粥はどんどん冷めていく。


それでも、二人は集中力を欠かす事なく、慎重に、慎重に運んだ。


何とか2階の部屋の机に置くと、やっと、ホッとした。

「あーちゃん起こす?」

「葵、起きれるか?」

「あーちゃん、ご飯だよ~!」


すると、葵が起きて、驚いた。

「え……二人ともどうしてここに?ごめんね。ご飯すぐ作るね。」

「あーちゃん!ルンとポロと紅葉でご飯作ったよ!食べる?」


机のお粥を見てもっと驚いた。

「え!?これ、二人で作ったの?!凄い……。」

「二人じゃないよ~!紅葉も一緒に作ったよ!」

「紅葉が作り方教えてくれて、僕たち手伝ったの!」


葵が少し泣きそうな顔をして言った。

「紅葉君、帰って来たの?」

「帰って来た?紅葉はここにいるよ?」

「なんだ……犬の方……。」

そして、ガックリ肩を落とした。


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