卵粥
30
葵の寝ていた部屋は、俺が家を出る時まで使っていた部屋だった。なんだか、所々変わっていたけど……ベッドや机はそのままだ。懐かしい……。ここで、高校の同級生と暮らすとは思わなかった。なんだか……複雑な気分だ……。
葵はまだ苦しそうに寝ていた。熱が出たのはきっと、俺を探しに山へ行ったからだ。……俺のせいだ。ごめんな……。
俺達は葵を起こさず、そっと氷枕だけ頭に乗せて来た。
一階に戻って、椅子を戻したり、台所の床を掃除していると、あっという間に米が炊けた。
「せーので開けよう?せーの!」
炊飯器の蓋を開けると、フワッと白い蒸気が上がった。
「どうだ?できてたか?」
「できてる~!」
「やったぁ~!」
ルンがスプーンで混ぜてみると、米は少しべちゃっとしていた。ま、まぁ…………許容範囲かな?
茶碗に乗せて、席についた。
「え?何も無しで食べるのか?」
「え?何も無しって?」
子供ってなんで白米オンリーで食えるのかなぁ……?
「いただきます!」
「僕も!いただきます!」
確か卵くらいはあったような……。
「ポロ、卵取ってくれるか?」
「卵?ルンが取る!」
茶碗一杯ペロリと食べ終わったルンが俺の背中に乗って、冷蔵庫を見た。
「何個?」
「とりあえず、一個。」
ルンは大事そうに卵を両手で持って、頭突きで冷蔵庫を閉めていた。
「ルンが割る!!」
そう言って、卵を片手で握りながらプルプルしていた。えぇえええええ!!林檎を握り潰す握力自慢じゃないんだから!
「ちょ、ちょっと待て!優しく割ろう!」
卵を優しく割るってなんだ?
「僕も割る~!」
「あ、割れた!」
ぐしゃっ!と音がして、ルンの片手は生卵まみれになった。
「いや、だから、待てって……。」
「…………うぇええええん!」
「あ、いや、怒ってないから!いいよ、いいよ。もう一度。もう一度やろう。」
もう一度、ルンは俺の背中に乗って卵を二つ取った。1つをポロに手渡した。
「平らな所でコンコンして、割れた所に指かけて……」
ポロの指が……卵にハマった。
あれ?俺、指突っ込めって言ったけ?
中身をどこに出そうか、ポロが迷っていた。俺は置いてあったボウルを咥えて、ポロの前に差し出した。すると、ポロは指で開けた小さな穴から中身をふってボウルに出した。そして、大事そうに殼を持って言った。
「殼、もらっていい?」
もしかして…………そっちがメイン!?
「中身は?食べないのか?」
「いらない。」
それを見たルンも真似して、同じようにしていた。それが正解?正解なの?
卵が勿体ない……。そうだ!卵粥を作ろう!
「じゃあ、また手伝ってくれるか?」
「ルン、手伝う!」
俺は鍋を出して来て言った。
「ルン、これにご飯入れて。ポロ、椅子と水!」
実家はIHだ。火を使っても比較的安全だ。多分大丈夫だろう。使い方は確か……。ボタンを押して…………。鍋を火にかけて、ご飯と水と卵を入れて、混ぜて、お粥っぽいものができた。
「熱いから気をつけてな。」
ルンがお玉でそっとお粥を皿に入れた。
お盆に、お粥の皿とスプーン、水の入ったコップ。さて、これをどう運ぶか……。俺は何とかお盆を咥えて水平を保とうと必死だった。ぐらついたお盆を見て、二人が両側を持ってくれた。このまま階段登れるのか?
一段一段、ゆっくり、ゆっくり登った。
お粥はどんどん冷めていく。
それでも、二人は集中力を欠かす事なく、慎重に、慎重に運んだ。
何とか2階の部屋の机に置くと、やっと、ホッとした。
「あーちゃん起こす?」
「葵、起きれるか?」
「あーちゃん、ご飯だよ~!」
すると、葵が起きて、驚いた。
「え……二人ともどうしてここに?ごめんね。ご飯すぐ作るね。」
「あーちゃん!ルンとポロと紅葉でご飯作ったよ!食べる?」
机のお粥を見てもっと驚いた。
「え!?これ、二人で作ったの?!凄い……。」
「二人じゃないよ~!紅葉も一緒に作ったよ!」
「紅葉が作り方教えてくれて、僕たち手伝ったの!」
葵が少し泣きそうな顔をして言った。
「紅葉君、帰って来たの?」
「帰って来た?紅葉はここにいるよ?」
「なんだ……犬の方……。」
そして、ガックリ肩を落とした。