米を炊く
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ご飯を作ろう!と意気込んだものの…………冷蔵庫にはすぐに食べられそうな物はなく……。
「よし、ご飯を炊こう。ルン、ボウル出せるか?」
「うん!」
米を炊く事ぐらいならできるだろう。
「ポロは椅子持って来られるか?」
シンクの前に椅子を並べて、ボウルを置いた。
「軽量カップにお米いれて、ボウルにお米を入れよう。お米カップにピッタリ入れて。」
ルンは米びつからカップに山盛り持って来て、米をあちこちに溢していた。俺はとっさにボウルを咥えて、ルンの前に差し出した。
ボウルにいれた米を見てルンが言った。
「これだけ?」
「じゃ、もう一杯。」
そう言ったらストンと、ボウルを落としてしまった。幸いそこまで米は溢れなかった。
「やっぱりいい。一杯だけにしよう。これ、シンクに持って行けるか?」
「一杯だけ?紅葉、お米少ないよ?」
いつもは多く炊いているのを見ていたルンが言った。
「一回で成功とは限らない。失敗も考えてこのくらいにしとこう。ポロ、お水入れて。」
ポロは蛇口をひねってボウルに水を入れた。
「ストップ!そのくらい!」
「ルン、混ぜ混ぜする!」
そう言ってルンは腕捲りをして、米をガシガシ掴んでは放し、掴んでは放し、混ぜていた。これ、正解?米、洗えてないような……。
「僕も!僕もまぜたい!」
「じゃ、一旦水捨てよう。」
白濁した水を捨てようと、ボウルを傾けた瞬間、ルンの手が滑ってボウルをシンクにひっくり返してしまった。
「あー!」
「…………。」
一瞬、ただ呆然とその光景を見ているしかなかった。
「う……うわぁああん!」
「いいよ、いいよ。救えるだけ救おう。」
カップに山盛りだったし……。多少減っても大丈夫だろ。
ルンとポロは必死にシンクの米を拾った。半分くらいは流れたかなぁ……。
「じゃ、ポロに交代!」
ポロは、米に手を突っ込んで動かなかった。手が動いたと思えば水から米のついた手を引き上げた。そんな…………泥水で遊ぶみたいな……みんな、混ぜよう?
「ルン、そこの引き出しの二段目から泡立て器取って来て。」
「どれ?これ?紅葉これ何?」
「それ、ピーラー!手を切るなよ?そっち!ちょっと網っぽいの。」
何度もやり取りをしてやっとルンは泡立て器を持って来た。
「ポロ、これでかき混ぜて。」
すると、ポロはぐるぐるかき混ぜた。
「水切れるか?今度は少しずつ、少しずつ……」
そう言って慎重にボウルの水を捨てた。
「ストップ!このくらいにしておこう。」
「水まだ残ってるよ?」
「これ以上はボウルがひっくり返る。これ、炊飯器に入れてくれ。」
ルンはボウルを持って炊飯器の所まで移動して言った。
「ポロ、炊飯器開けて。」
「うん!」
ポロが炊飯器を開けると、ルンは炊飯器の釜に米を注いだ。
「僕、お水持ってくる!」
そう言ってポロはコップに水を入れて炊飯器の前に持って行った。
「紅葉、お水どれくらい?」
「1の線の所まで。」
「あ、ポロ、入れすぎ!」
ルンがそう言うと、ポロは泣き出した。
「ご……ごめんね……。」
「いいよ、いいよ。少ないよりは多い方がいいだろ。多分。」
俺はそう言って炊飯器の蓋を閉めた。
「スタートボタン、一緒に押そう。ポロ。」
二人は一緒に炊飯ボタンを押した。
思ったより……大変だった。それより、もう一仕事必要だ。
「ルン、ポロ、頼みがあるんだ。葵のために、氷枕を作って欲しい。」
勝手知ったる実家だ。棚から氷枕を引っ張り出して、二人の前に置いた。
「ルン、ボウルに氷出して来て。」
「ポロ、水を汲んできて。」
ルンはすぐに氷をボウルにいれて出して来た。ポロはすぐにコップに水を入れて来た。
「これ、どうするの?」
「この中に入れられるか?」
「やってみる。」
二人は意外にも、試行錯誤でやっていた。
ポロが持って、ルンが入れるらしい。こうやって、二人は協力して何でもこなして行く。そんな二人を誇らしく思う。愛しく思う。失敗しても、いいよ。と言ってやりたくなる。
何とか氷枕ができがった。辺りは水浸しだけど……。
「これ、葵に持って行こう。」