ドッグフード
28
葵は優しい。そして厳しい。
「おすわり!待て…………よし!」
葵…………。
「おっかしいな~?お腹空いてないのかな~?犬ってもっとこう……しっぽ降って嬉しそうにご飯待つものじゃない?」
犬じゃないから!狼だから!いや、本当は人間だから!!
「ルン~ポロ~!犬の餌は食べられないって葵に言ってくれよ。」
「あーちゃん、紅葉、犬の餌は食べられないって。」
すると、ポロが泣きそうになった。
「僕、せっかくお皿に入れたのに……。」
「ああっ!ごめん!ごめんポロ!でも、これはダメ!猫缶よりヒドイ!!ドッグフードは無理!!」
ルンは俺の方を見てボソッと呟いた。
「この前は猫缶はヤダって言ってたのに……。」
「だからってドッグフード食べたい訳じゃないから!」
「やっぱり試供品のドッグフードじゃ嫌なのかな~?」
そうゆう問題じゃないから!
俺は狼の姿になってから、三人と一匹の生活が始まった。葵は俺を犬だと思って飼い始めている。
「役所に登録する前に、紅葉君のご両親に了解とらないと……。こんなに大きな犬用の犬小屋なんてあるのかな?」
犬小屋…………?え?俺だけ犬小屋…………?
「本当に…………どこ行っちゃったんだろう……紅葉君。」
「ポロ、俺は仕事で東京へ戻ったって葵に言ってくれ。」
「あーちゃん、俺は仕事で東京へ戻ったって葵に言ってくれ。」
ポロ…………それ、そのまま言うなよ。
「紅葉君がそう言ってたの?」
「そうだって言ってくれ。」
「そうだって言ってくれ。」
だから、それ、そのまま言うと疑わしくなるから……。
「そうなんだ……。じゃあ、戻って来るのを待つしかないか……。ちゃんと言ってくれればいいのに。別に二人を預かるくらい、断ったりしないのに。」
葵は立ち上がると言った。
「いいよ、いいよ。それでもいいよ。そう思えばいいか。」
何だそれ…………おまじないか……?
おまじない?そのおまじないどこかで聞いたような…………。
そう思っていたら、ルンが葵に言った。
「あーちゃん、顔赤いよ?」
「熱……出ちゃったのかな?少しだるいかも……。」
葵、大丈夫か?すぐに寝た方がいい。
「すぐお昼ご飯作るね。」
お昼はいいから寝てろよ。
「お昼は自分達でテキトーに食べるから寝てろって言ってくれ。あ、ルン!今度はルンが言って。」
「あーちゃん、お昼テキトーに食べるから寝てて。」
最初からルンに伝えてもらえば良かった……。
「でも…………。」
「僕まだお腹空いてないよ。」
「じゃあ、少しだけ寝かせてもらうね。二人だけで大丈夫?」
俺がいるし。大丈夫だ。
「大丈夫だよ!紅葉いるし!」
「犬の方のね……。」
おいおい、逆に不安になってんじゃねーか。
「じゃあ、お昼の鐘が鳴ったらお家の中に入って遊んでね。」
「はーい!」
そう言って葵はフラフラした足取りで家の中へ入って行った。
葵が家へ入ると、ポロが小さな声で言った。
「僕……お腹空いた。」
「え?さっき空いてないって……。」
急にポロが泣き出した。
「嘘も…………ホーベンだから。」
ポロ…………。お前、優しいな。
「よし、じゃあ…………みんなでお昼を作ろう!二人とも、手伝ってくれるか?」
「うん!ルン!手伝う!」
「僕も!僕も手伝う!」
この姿じゃ大したことはできないけど……。それでも、少しは何か、葵の役に立ちたい。