賑やか
24
織部とは、成人式以来だった。織部はぼっちの俺の数少ない友達だ。織部あの頃と全然変わらない。相変わらずだ。
俺は四人の子供に、背中に乗っかられ、髪を引っ張られ、ぼろ雑巾のように扱われて。気が済んだらみんなはあっという間に去って行った。なんか、襲われた事ないけど……襲われた気分だ……。
「あはははは~!早速子供ギャング達の洗練を受けたな~!」
おいおい、織部、相変わらずだな。お前、昔からおおらかというか何と言うか…………さすがだな……。お前……頭にリボンついてるぞ!?頭がオカマだぞ?全然余裕だな……。感服するわ!
「いや~なんか感慨深いわ。里梨の子供とこうして遊べるなんて。お前絶対結婚しないと思ってたし。」
いやいや、織部、俺まだ結婚してないから。
「で、子供連れて戻って来たのはなんで?離婚?嫁に出て行かれた?」
「いや…………それは…………」
大人ばかりか、子供までもがこっちを向いた。全員が、俺の方を興味津々に見ている。
「ルン、お手伝いする~!!」
ルンがあからさまに話をそらした。
「僕も!僕も~!」
「じゃ、手洗って来てね~!」
台所で、そんな声がした。すると…………台所でもカオス!!
「あ、卵こぼした。」
「待って!小麦粉先!先に粉つけて!」
「こらこら!パン粉食べないで~!なくなっちゃう!」
今日はコロッケ…………なのか?大丈夫か?
「里梨、何引いてんだよ。子供なんていつもこんな感じだろ?」
マジか!?常にカオスか!?
「まぁ、小次郎、今日は特別張り切ってるな。」
織部の息子は、織部を縮小したようにそっくりだった。
「あ、織部もありがとうな。子供服。」
「あー姉貴の子供は3姉妹でさ、めちゃくちゃ服あるんだよ~処分に困ってたから、こっちも助かるわ。」
こっちが助かったのに、助かったと言われるなんて不思議だ……。
「お、よし坊つかまり立ちするのか?」
織部が赤ん坊がいつの間にか、赤ん坊がプルプルしながら立ち上がっている事に気がついた。お!凄い!!凄い凄い!!俺は今、もしかして…………この子にとってもの凄い特別な瞬間を目撃してるんじゃないのか?すると、赤ん坊はすぐに尻餅をついて座った。
「あ~。最近、たまにつかまり立ちするよ~」
母親興味薄っ!
「毎日見てる親にとっては日常茶飯事か……。」
「何言ってるんだよ。里梨だってあの二人の成長を毎日見て来たんだろ?」
「いや…………。」
今、ここで言っていいのか迷った。迷っていたら先にルンに言われた。
「紅葉は最近、私達のパパになったんだよ。」
「は?最近?」
「最近、俺の子だって言って突然訪ねて来たんだ。」
みんなは黙ってしまった。
「…………マジか……そうなんだ……。そりゃ、服とかないはずだよな。母親は?」
母親は…………思わず、伊沢さんを見てしまった。そんな訳…………あるはずがないのに……。
「え?あ、私?私、今二人の母親代わりやらせてもらってます!」
「葵、子供好きだもんね~。早く産みなよ。」
「いやいや、だって相手が……。」
すると、堀田と織部がこっちを見た。それを見た伊沢さんは慌てて言った。
「え?里梨君とはそうゆう関係じゃないよ?」
「とりあえず、同じ屋根の下で暮らしてるんだから、伊沢さん里梨君はやめたらどうだ?もう高校生でもないんだし。」
「そうそう。お互いあだ名で呼び合いなよ。」
あだ名って…………
「葵のあーちゃん、紅葉のくーちゃんとか。」
あーちゃん?くーちゃん?いや、無理だろ!どこのバカップルだよ!
「クーちゃんって何だか犬みたいじゃない?」
「あーちゃんってアイドルか?」
「アイドル?あーちゃんアイドル?」
何故か子供達が伊沢さんの事をあーちゃんと呼び出した。俺の事はクータンと呼んだ。
コロッケが揚がるまで、台所は子供達は出禁になった。居間にいた男二人は必然的に子守り担当になった。
赤ん坊のよし坊は、織部の何かが気に入らないようで、織部が抱くと泣く。仕方なく俺が抱いていると、織部が言った。
「あの里梨が赤ん坊抱いてるんだもんなぁ……。」
「いや、みんな俺の事何だと思ってんの?」
「え、一匹狼?的な?」
一匹狼…………?
「それ、ぼっちって言いたい?」
「まぁ、今はぼっちでも一匹狼でもなくて安心したわ。」
ぼっちでも、一匹狼でもない……。
織部のその言葉が…………何だか妙にくすぐったい。こんなに賑やかなのはいつぶりだろう。
もう、外は冷えるのに、この家の空気は、人の温もりで暖かい。それが、こんなに嬉しい事だとは知らなかった。