料理
22
「えー!二人の着替えこれだけ?」
二人を着替えさせていると、伊沢さんが言った。
「これじゃ、汚した時や雨で乾かない時は困るね……。」
「しまった……服を買うの忘れてた……!」
当然、ここら辺に子供服が買える店なんて無い。すぐに必要な物は、車で買いに出るしかない。
「仕方がない。ネットで注文するしかないか……。」
そう言って携帯を手にすると、止められた。
「あ、ちょっと待って!」
伊沢さんは携帯で、誰かに連絡を取っていた。 いつまで待てばいいんだ……?つい、犬の思考になってしまう。
「友達が、小さくなった子供服くれるって。今晩家に来てもいいかな?」
「マジ!?家に来るのは別に構わないけど……。」
「良かった。みんなで夕飯食べようって事になったよ!張り切って作るね!」
それ、伊沢さん大変じゃない?
ルンとポロは疲れたのか、いつの間にかこたつで寝ていた。俺は二人を布団に運んだ後、伊沢さんの手伝いをしに台所へ行った。
「何か手伝う事ある?」
「大丈夫だよ。気を使わないで。里梨君も疲れたでしょ?休んでて。」
アッサリ断られた。
台所のダイニングテーブルに座っていると、伊沢さんがコーヒーを入れてくれた。
「ありがとう。」
「インスタントでごめんね。今日は忙しいから。」
そのインスタントのコーヒーは、東京で自分で入れるコーヒーより旨かった。それは、水が違うのか、人が違うのか…………何なのか……。
伊沢さんは、自分のコーヒーをテーブルに起きっぱなしにして、忙しそうに野菜を切っていた。こうして伊沢さんの後ろ姿を見ていると、まるで母さんがいるみたいだ。
「しまった!大きな蒸し器、どこだったっけ!?思い出せない。」
蒸し器?ああ、あれなら…………と思って、立ち上がって吊棚に近づこうとしたら、伊沢さんと体がぶつかってしまった。
「あ、ごめん。」
「ご、ごめんね。」
少し…………ドキドキしながら、吊棚から蒸し器を取った。
蒸し器を伊沢さんに渡すと、伊沢さんは、笑顔でありがとうと言っていた。
母さんが…………こんなに可愛いわけがない。…………どうかしてた。
どうかしてるのは伊沢さんの方だ。何が楽しくてウチなんかに……。
俺が椅子に戻ると、伊沢さんは俺の目の前に、ごま油の瓶と、刻まれたきゅうりの入ったボウルを置いた。
「これ、ごま油入れて混ぜてくれる?」
「了解!どれくらい入れればいい?」
「適当!あ、少量?」
適当って……まぁ適当に入れるか……。そう思って入れたら…………
「あ、入れすぎ!」
「ええっ!」
適当って……
「あははははは!!」
これ?からかわれてる?
「ごめんごめん、ちょっと……ごま油臭くなるかも。サチの子、ごま油苦手な子がいるから……。」
そうか……ごま油、苦手な子もいるのか……。って先に言ってくれよ!
俺を見て、笑っている伊沢さんを見て思った。伊沢さんは、こんな風に料理を作っていたんだ……。こんな風に、食べる人の事を考えて……。
俺が知らないだけで、他にも気遣いがあるのかもしれない。そう思うと、料理を作ってもらえるというのは、何だか…………愛情をもらっているみたいに思えた。
そんな事を考えていると、インターホンが鳴った。
「はーい!」
そう伊沢さんは、返事をしたけれど手が離せなそうだった。
「俺、出るよ。」
そう言って玄関へ向かった。