サツマイモ
20
見慣れた風景が、こんなにも綺麗な事に、今まで気がつかなかった。見渡す限りの山々が、色づいていた。山の紅葉なんて見たのは何年ぶりだ?
「伊沢さん、それ俺が運ぶ。」
俺はサツマイモの入ったコンテナを軽トラックの後ろに乗せた。
俺達は、しばらくあの家で伊沢さんの世話になる代わりに、伊沢さんの手伝いをする事になった。
葉のついたツルを引っ張ると、紫色が顔を出した。大小様々なサツマイモを収穫した。ルンとポロも、まるで宝探しのように、夢中でサツマイモを掘り当てていた。
「紅葉~!見て見て!にょろにょろ~!」
ルンは細くうねったサツマイモを見せて来た。
「紅葉~!見て見て!にょろにょろ~!」
ポロは太くうねったミミズを見せて来た。
「ルン、サツマイモ大好き~!早く食べたい!」
「帰ったら焼き芋にしようか?」
「わーい!焼き芋~!」
二人は焼き芋の歌を歌っていた。
「焼き芋焼き芋♪お腹がグー!ほかほかほかほか♪あちちのチー!食べたらなくなる♪なんにもパー!それ、焼き芋まとめてグーチーパー♪」
二人共、楽しそうだな。伊沢さんも二人の事を気に入っているようだった。
「そろそろお昼だから、お弁当にしようか!」
「お弁当~!」
畑の端にレジャーシートを敷いて、お弁当を広げ始めた。それは、まるでピクニックだった。
「わーい!お弁当~!」
「紅葉~!早く~!」
「はいはい。」
軍手を外して、ポケットに詰めた。そして、レジャーシートに腰を下ろした。秋晴れの空が気持ちいい。
「お疲れ様~」
伊沢さんがお茶をコップに注いで手渡してくれた。俺は伊沢さんの作ってくれたお弁当を見て言った。
「ありがとう。……まさか、伊沢さんが、うちの畑で農業やってるなんて……」
「あはははは、驚いたよね?まぁ、全然稼げないんだけどね~。あ、手伝ってくれてありがとう。ごめんね。嫌とは言いづらかったよね。」
「いや?別に野良仕事は嫌いじゃないから。農業をやるとか選択肢が無かっただけで……。」
うちは昔から、固定資産税の節税対策と両親の趣味で、畑や田んぼで色々な野菜や米を作っていた。それを、家に住み始めた伊沢さんが受け継いだらしい。昔はあんなに畑の手伝いが嫌だったのに…………今は不思議と嫌じゃない。
「農業2年目だから、まだまだだけどね、もっと色々チャレンジしたいの!」
「2年目も前からウチにいたの?」
「そうなの。去年の春から里梨のご両親にやり方聞きながら、やり始めたの。」
知らなかった…………。本当に何も知らなかった。
母さんが言ってたのを、俺が聞いてないのか、母さんが伝え忘れたのかはわからない。でも、全くそんな話は俺には届いて無かった。
伊沢さんが家にいると知ってたら帰って来てたか?……いや、逆に帰らなかったと思う。確実に、あの二人が俺をここに来るように仕向けた。…………そんな気がした。
「聞いてよ紅葉!栗、拾える所があるんだって!」
「僕、あのイガイガ欲しい!」
栗の方じゃないのかよ!
「芋掘りも終わったから、これから栗拾い行く?」
「行く行く~!」
これから栗拾いにも行くのか?元気な奴らだな~!
「紅葉、行こう!」
「イガイガ戦争にはイガイガが必要なんだ!行こう!」
イガイガ戦争って何!?何なの!?
「もしかして、山に行くのか?」
「うん、そんなに遠くはないけどね。」
「紅葉~!お願い!」
二人はこっちをじっと見つめて何度もお願いと言った。そんな顔されたら、ダメとか言えない。
「山に入るなら気をつけるんだぞ?はぐれないようにちゃんと大人から離れないって約束できるなら、行ってもいいぞ。」
「約束する!」
「やった~!」
仕方がない、イガイガ戦争とやらをやりに行こうじゃないか。