犬じゃないのに
2
ドアを開けると、幼児くらいの子供が二人いた。女の子と男の子の二人だ。子供達は怖がるどころか、羨望の眼差しでこっちを見て来た。
「ワンちゃん!」
「ワンちゃん?ホントだ~!」
それどころか、ベタベタ触って来やがった。あ、おいこら止めろ!毛並みに沿って背中を撫でるな!
「犬じゃない!!帰れ!!」
「喋った!ポロ、この子喋ったよ?すごーい!」
すごーい!じゃない!何普通に動物が喋る事受け入れてんだよ!
「こら!勝手に上がり込むな!」
「クレハ~!どこ~?」
二人は部屋に入るなり、あちこち開けて探し始めた。
「あ!そっち勝手に開けるな!」
やがて、探し疲れた男の子が言った。
「ワンちゃん、クレハいないの?」
「いないなら、帰って来るまで待ってよっか!」
そう女の子が言うと、二人はくつろぎ始めた。
「何くつろいでんだよ!俺が紅葉だよ!俺に何の用だ?」
「え?ワンちゃんがクレハなの?」
「…………。」
二人は少し黙って、左右に首を傾げた。
「ワンちゃんが…………パパなの?」
「はぁ?パパ?」
?????混乱した。そこには、無数のはてなマークが存在した。
「だって、ママがしばらくパパの所へ行って来なさいって。」
「パパの名前は、クレハって名前だって。紅葉と書いてクレハ!」
ええ、…………確かに。俺の名前は紅葉と書いてクレハですとも。子供の年からすると……5、6年前?付き合ってた奴いたっけ?全然…………覚えがない。
「はじめましてパパ。私はルンです。」
「はじめましてパパ。僕はポロです。」
「パパ言うな!」
まだ俺の子と決まった訳じゃない!!
「ルンとポロ?」
いや、お前ら…………それ、犬の名前じゃないんだから…………
「二人でつけたんだよね~!」
「ね~!」
そう言って二人は顔を見合わせた。
「二人でつけた?お互いに名前をつけあったのか?」
なんだ。あだ名か…………。
「悪いが、お前達は引き取れない。母親の所に帰れ。」
冷たいと思われようが仕方がない。こいつらが、自分の子供かどうかわからないからじゃない。それもなくはないけど……。この姿じゃ、自分1人で生きて行くのもやっと…………ん?待てよ?こいつら使える?一応人間だし……。
でも…………俺1人で本当に、幼児二人を面倒見られるか?
俺が迷っていると、女の子の方が俺の足を取り、自分の頬につけて来た。な…………何だよ!
「にくきゅう柔らかい。」
お前こそ!何なんだ?この柔らかさは…………!!ヤバイ!!
すると、男の子の方が脇から腹にかけて優しくさすってきた。
「お腹の毛ふさふさだねぇ~」
き、気持ち良い~!めちゃくちゃ気持ちいい!おい、止めろ!そんな所触るな!
俺は思わず腹を出して床に寝転がってしまった。これは…………く、屈辱だ…………!犬じゃないのに!!