夕飯
19
「豚汁うまっ!伊沢さん、これ、めちゃくちゃ旨いよ!」
結局俺達は、東京へ帰らず、今日は実家に泊まる事になった。ルンとポロは、日が暮れるまで泥だらけになって遊んで来た。
夕飯を、伊沢さんが作ってくれた。
「久しぶりの暖かいご飯、美味しいね。」
ルン…………。確かに、家庭料理は久しぶりだ。伊沢さんの料理は、何だかホッとした。ルンは伊沢さんの料理に、ご機嫌だった。
「お口に合って良かった~。たくさん食べてね。」
「急に来たのに、こんなにごちそう作ってくれてありがとう。」
「ごちそうじゃないよ!畑で取れた野菜を使って、簡単な物作っただけだよ。それより、ルンちゃん久しぶりの暖かいご飯って言ってたけど…………」
やっぱり?そうだよね?そこ気になっちゃうよね?
すると、ポロが俺と伊沢さんの様子を見て言った。
「あ、あのね、紅葉の東京のお家はね、お城なんだよ?」
「いや、そんなわけないだろ?」
何でそんなあからさまな嘘つくんだ?すると、ポロは胸を張って言った。
「嘘もホーベンだから!」
ちょ……それ…………使うとこ間違ってるから!
「ちょっと……里梨君、子供に何を教えてるの?」
「いや、それは、その…………」
伊沢さん、そんな目で見ないで~!そりゃそうだ。狼の姿の俺は、こいつらに何もしてやれなかった……。本当に……情けない親だ。
伊沢さんは俺の方を見て、それ以上何も言わないでくれた。
「ごちそうさまでした!」
「美味しかった~!お腹いっぱい。ごちそうさま~!」
二人は満足そうな笑顔で食事を終えた。そして、また居間に戻って二人で遊んでいた。
「ごちそうさまでした!伊沢さん、本当に…………ありがとう。」
伊沢さんは柿を剥きながら言った。
「あの……里梨君、もしかして…………こんな事聞くのは失礼かもしれないけど……もしかして、1人で育てるの大変で、実家に戻って来たんじゃない?」
図星だ。
「もし、里梨君が嫌じゃなければ、しばらくここにいたら?私、おばさんの代わりに協力するよ?」
「そんな、それは悪いよ。」
これ以上…………伊沢さんに迷惑かける訳にはいかない。
「友達がね、よく言うの。たまに実家でゆっくりしないと頑張れない~って。」
そうかもしれないけど…………伊沢さんは俺の母さんじゃないし、ましてや自分の子でもないし……。
あれ?待てよ?あの二人、伊沢さんが母親だって…………まだママじゃない?まだって何だ?そもそも、二人の本当の名前は?本当の名前がルンとポロなはずはない……。
薄々思ってはいたけど…………もしかして、ルンとポロは…………未来から来た俺達の子供なんじゃないのか?
俺と……伊沢さんの……。
まさか…………あり得ない。
そんな都合のいいことを考えていると、伊沢さんに訊かれた。
「仕事はいつまでお休み?」
「仕事は…………やめてきた。」
「…………そうなんだ。じゃあ、なおさらここにいたら?」
そうしたいけど、本当にそうしていいのか…………迷う。
「ルン、ここにいたい。」
「僕も!僕もここにいたい。ママ…………」
ポロがママと言おうとして止めた。そうだよな…………もし、伊沢さんが母親だとしたら、ここにいたいよな。たとえ、母と呼べなくても……。
「じゃあ、みんなでお願いします。って言おう。」
「お願いします。」
三人で、伊沢に頭を下げた。
「伊沢さん、しばらくお世話になります。」
こうして、俺達四人の生活が始まった。