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コスモス


18


伊沢さんの話では、俺の両親は今姉さんの所に行っているらしい。姉さんの所って…………台湾?!姉が慣れない海外生活で大変だろうと、様子を見に行ったらしい。


「で…………聞きにくいんだけど、伊沢さんが何故ウチに?」

「ウチ、高校卒業する少し前、お祖父ちゃんが無くなって、こっちに住む理由が無くなったの。だから、お母さんと弟と一緒に東京に引っ越したんだけど……私、なんか馴染めなくて…………」


東京で何があったのかは聞けない感じだな……。


「たまたま友達に会いにこっちに来てたら、織部君に会って、里梨君の実家を誰かに貸したいって里梨君のお母さんが言ってたって話を聞いて……」

はぁ?そんな話、母さんから一言も聞いてない。

「私、そこに名乗り出たの!話を聞いたら、格安でここを貸してくれるって言うから、管理人兼住人みたいな感じで住まわせてもらってます!」

マジか…………という事は、両親不在、手助けはおろか住む場所さえ無くなってた訳か……。それなら、色々と便利な東京にいた方がマシだ。ここは本当に不便だ。車がなければ、どこへも行けない。


「知らなかったんだね、突然他人が居座ってたら怖いよね。ごめんね。」

「いや、謝るのはこっちの方。親になかなか連絡取って無くて、急だったから……。」

「あの、変わらず実家だと思って過ごしてよ!今日、泊まって行くでしょ?私、ご飯作るから!」

いやいやいや!!それ、いいの!?それアリなの!?


「いや、でも、急で迷惑だろ?帰りの電車、まだ全然あるから帰るよ。」

あれから全然狼の姿になる気配はない。人間でいられるなら人の手を借りなくてもなんとでもなる。


そこへ、外で遊んでいた二人が戻って来た。ポロは俺にまつぼっくりを見せてきた。

「紅葉~!見て!まつボッくり見つけたよ~!」

そんなにボを気合い入れて言うか?ポロの言い方に、伊沢さんはツボってしまった。

「ねぇ、もう一度まつぼっくり言って。」

「まつボッ!くり」

「あはははは!可愛い!」

え…………それ、そんなに面白いの?


「ルンはね、コスモス見つけた~!」

「わ~綺麗。どこに咲いてたの?」

「あのね、向こうの小屋のね、右の奥行った所。」

それ、他人の家のじゃないよな?

「紅葉にあげる。」

「え?俺に?……あ、ありがとう。」

これで俺も共犯だな。

「ポロも、紅葉に一個あげる。」

二人は俺にコスモスとまつぼっくりを渡すとまた外に行ってしまった。


「里梨君、愛されてるね。」

「まぁ…………自分の子かどうかはわからないけど……けど、あの二人には、俺しかいないから……。」

「そっか……。」

それから、伊沢さんは俺の持っていたコスモスを見て黙ってしまった。

「これ、いる?」

「え?これ?コスモス?だってこれ、里梨君がもらった物でしょ?」

「俺が持ってても豚に真珠だよ。ルンはきっと気にしないから。」

俺がコスモスを差し出すと、伊沢さんは受け取ってくれた。

「じゃあ、もらうね。大事にします。」

「大事にって…………そこら辺に咲いてたやつだろ?」

「里梨君にあげたあの子の気持ちが大事なんだよ。里梨君はわかってないよ。この花の価値が。」

伊沢さんは急に立ち上がって、台所へ行ってしまった。


え…………怒らせた?何故……?


すると、伊沢さんはコップに水を入れ、そこにコスモスの花をさして持ってきた。

「こうしたら、手に持つよりずっと特別感が出るよね。」

本当だ……。俺は草とかと同じぐらいにしか思って無かった。それが、華やかな花になった。


別に…………怒ってはないのか?

「里梨君、この花と同じで、何だかんだ横取りしちゃったみたいで……ごめんなさい。ここは、このお家は、里梨君にとって大事な場所なのに……。」

大事というか……人の手の方が重要だったんだけど…………まあ、この際どっちでもいいか。

「横取りじゃないだろ。ここも、花も、やるって言われたからもらっただけだろ。そもそも別に、ここを所有してる訳じゃねーし。」

「あはははは!確かにそうだね。」

伊沢さんはそう言って少し安心したようだった。


何だか…………突然戻って来て、申し訳ない。


「ただいま~!」

伊沢さんと話していたら、二人が帰って来た。

「ギャー!!ルン、コスモス根っこごと持って来るなよー!これ、正に根こそぎだよ!根こそぎコスモス強奪だよ!ポロは何でそんなに泥だらけなんだ?」

「あはははは!そんな反応の里梨君、初めて見た!あはははは!!」


そう言われると、何だか…………恥ずかしい…………。


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