実家
17
タクシーを一時間走らせ、やっと……とうとう、無事、実家までたどり着く事ができた。良かった……まだ人間のままだ。
ここは、相変わらずのド田舎で、高い建物は1つも無い。スーパーはおろか、コンビニすらない。住人は老人しかいない、究極の過疎地域だと思う。
あれ?この辺、田んぼじゃなかったっけ?田畑が荒れ果てている。耕作放棄地って言うんだっけ?最近増えてるとは聞いてたけど…………数年帰らないだけで、こんなに増えたんだな……。
「紅葉~!早く~!」
「あぁ。すぐ行く。」
ルンとポロはそわそわしながら、玄関の前で待っていた。
「ただいま~。」
そう言って玄関の引き戸を開けると…………
「はーい!」
え…………。えぇええええ!!本当に伊沢さん!?奥の部屋から伊沢さんが普通に出て来た。いつから俺の嫁に!?いや違うだろ!!
「里梨君?うわぁ~久しぶり!」
「え?ええっ?」
ここ…………本当に自分の実家だよな?玄関は何の変化もなかった。いつもと同じだ。数年前から同じだ。ただ…………この上無く違和感なのは…………目の前に…………いや、自分の実家に、高校の同級生がいるという事……!!
「ちょ、ちょっと待ってて!い、今、今片付けるから!」
伊沢さんは居間の戸を閉めると消えた。え……片付けしてる?
ルンとポロが言った通りだ!!本当だ……!本当に伊沢さんがうちにいた!!まさか!!え?なんで?なんでだ?
しばらくすると、居間の戸が開いた。
「どうぞ。入って。」
「…………お邪魔します。」
って実家に入るのに、何故にお邪魔します?
「あの、里梨君、その子達は?」
伊沢さんがルンとポロを見て言った。
「えーと、あのー……。」
どう説明すればいい?
「里梨君の子?」
「うん……多分……。」
「…………。」
伊沢さんは少し無言で固まった。
「…………そうなんだ。」
今の間は何だったんだろう?何を思ったんだろう?
「うちの父と母は?」
「え?聞いてないの?」
は?聞いてない?
「まぁ、立ち話も何だし、座って。」
俺達は居間のこたつに座った。すると、伊沢さんはみかんとお茶を出してくれた。
「ごめんね。お茶菓子とか何も無くて…………お子さんはミルクの方がいいかな?」
「あ、ありがとう。」
「紅葉~!お餅~!」
「あ、そうだった。みんなで食べよう。」
ルンは大事に持っていた、きな粉餅を人数分こたつの上に出した。
「葵ちゃんもどうぞ。」
「……え、私の名前……里梨君から聞いたの?ありがとう。牛乳、どうぞ。」
「ありがとう。」
ルンは手慣れていた。器用に包みを開けて、包みをこたつのテーブルに敷いて、その上できな粉餅に黒蜜をかけて食べていた。
「うーん!美味しい~!」
「紅葉、これ開けて。」
「あ、はいよ。」
ポロは不器用で、なかなか開けられないでいた。
「食べるの、上手だね。」
伊沢さんはルンを見て言った。
ルンはきな粉餅を食べると牛乳を飲み干した。
「ぷは~!きな粉餅に牛乳最高~!」
その後、どんどんこたつにもぐって行った。ポロは、夢中できな粉餅と格闘していた。
「あの、さっきの続き……うちの父と母はどこに?」