レール
16
待てど暮らせど…………ルンはトイレから出て来ない。え?誘拐?誘拐なの?!
俺が女子トイレの前でうろうろしていると、出てきたおばさんに睨まれた。これじゃ俺、へいたいさんじゃなくて本物のヘンタイさんになっちゃうよ~!
おばさんはトイレの入り口から少しずれて、携帯を操作していた。中に入って確認する訳にはいかないし…………でも、万が一ルンに何かあったら…………
思いきって訊いてみた。
「あの、すみません……。」
「はい?」
「トイレの中で、これくらいの背の女の子、見かけませんでしたか?」
おばさんは携帯を閉じて言った。
「私が入った時には、中には誰もいなかったと思うけど…。」
え…………じゃあ、俺達が出て来た時にはもういなかったって事か?
「パパさん、子供見つからないの?大丈夫?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございました。」
じゃあ、どこだ?
「ポロ、ルンを探しに行こう。…………っていない!!」
ポロまでいなくなるとか…………何故!?
「紅葉~!ポロがいないよ?」
「そうだな……。ってルン!戻って来たのか!」
じゃあ、ポロはどうする…………?
ここで待つ◀️
探しに行く
すると、ルンが突然走り出そうとした。
「待て待て待て!ルン、勝手にどこに行くつもりだ?」
ダメだ……。ルンが大人しく待っていられなそうだ。『ここで待つ』は二人とも見失うリスクの方が高い!
「紅葉~!きな粉のお餅、ルン、食べたい!」
「あ~!はいはい!そんな物どこでも買えるから、先にポロを探すぞ?」
ポロを探しに、もう一度ホームに戻ろうと階段を降りて行くと、ホームにポロの姿が見えた。ホッとして降りていたら、ポロは歩いていた人とぶつかってホームに落ちそうになっていた。
「ポロ!!」
とっさに階段を走り降りて、ポロのTシャツの背中を掴んだ。
「おっとっと!」
おっとっと!じゃねーだろ!危ねーな!!
と、怒鳴りそうになったが、その言葉は飲み込んだ。
「ホームの端を歩いたら落ちるぞ。真ん中歩け。」
「うん!わかった!紅葉!!さっき、落ちそうになったら見えた!線路、向こうまでずーっと続いてるよ!」
ポロはそう言ってまた線路を見ようと身を乗り出した。
「いや、見たいのはわかるけども……」
遠くを見ると、少し曲がって続いている線路が見えた。まるで、自分がこのレールの上を歩いてここまで来たような感覚になった。まさか!レールの上を電車が走るんだ……
…………レール?
よく、親の敷いたレールを歩くって言うけど…………俺はこの二人に、先にちゃんと説明したか?そういえば、何の説明もしてない。子供だからって説明が無くていい訳じゃないのかも……。
「よし、これから改札通って、外に出るぞ。そしてタクシーに乗る。俺が見える範囲にちゃんといる事。行きたい所があったら俺に言ってから行く事。いいか?」
「うん!わかった~!」
「うん、わかったよ!」
それから、ルンとポロは突然いなくなる事はなかった。
そうして欲しいと伝えなければ、上手くいかない。その事に、やっと気づけた。この二人の当たり前と、俺の当たり前は違う。いなくなると困る。側にいて欲しい。そう伝えるのも、愛情のかけ方なのかもしれない。
「紅葉~!お餅!きな粉のお餅~!」
「はいはい。」
「紅葉~!あれ何?あれ!」
「あれ?どれ?どれの事だ?」
二人の言葉を注意深く聞いて、自分の意思もちゃんと伝えよう。
俺はもう、1人じゃないんだ…………。